火車 宮部みゆき
休職中の刑事が遠縁の男から失踪した婚約者の捜索を依頼される。
しかし実はこの婚約者は別人が成りすましており、逃亡の原因にはカードローンによる多重債務、自己破産の過去があったというあらすじである。
読んで考えさせられたことは二つあった。
まず一つ目に、カードローンを取り巻く社会情勢について。
この本が書かれたのは、平成10年(1998年)である。
クレジットカードが初めて取り扱われた1960年の高度成長期から、1990年代にかけ、クレジットカードを含む消費者信用は飛躍的に市場を広げて人々の生活に浸透していった。それを取り巻く環境のほころびが目立ち始めたあたりだといえるだろう。
なかでも印象に残ったのは、このような借金地獄におちいるのは生真面目で気の小さい臆病な人という弁護士の言葉である。このような人たちは逃げたり放り出したりせず、ただ返すことだけを考えてしまうからだということだった。金遣いの荒い、だらしない人がするとばかり思っていた私には目からうろこだったわけである。
2つ目に、本書では、自己破産についても言及されていた。普通に生活している一般人が破産について詳しく知る機会はほとんどない。
破産という法手続きを知らないために一家離散や自殺、夜逃げをしてしまう人がいる。消費者信用の急激な市場拡大しているにもかかわらず、それに対する教育は追い付いていない。ただでさえお金に関する話題はタブー視されがちなこの国では、消費者側が賢くなること、つまり学校で金融や経済について教えることは関根彰子のような犠牲者を減らすためには重要な対策になってくるだろう。
平成18年に貸金業法が改正され、年収に対する借入残高の制限、上限金利の引き下げが行われて、少しずつ法でも多重債務問題を解決する動きが出てきている。
私もクレジットカードを使っているが、読んでみて自らを取り巻く経済や金融について無知であることを思い知らされた。社会人になってしまった以上、周りから教えられる機会を待つのではなく自ら知識をつけて自分の身を守っていこうと強く思った1冊であった。