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人生初手術が尻④ 〜入院2日目・手術本番〜



※本記事では筆者実体験の痔の手術について出来る限りおもしろおかしくレポをしておりますが、経験者の方やこれから経験する方を貶める目的のものでは決してありません。また、上記のような目的としての記事の流用は決して容認致しません。



朝、5:30に目が覚めた。

換気扇の音がうるさい。全然眠れなかった気がする。

今日手術じゃん。


友人から差し入れにともらった耳穴をあっためるやつと、あっためるアイマスクを外し、昨日買っておいた麦茶を一気飲み。喉乾く〜。

現時点で一日半くらいなにも食べていないことになるが、不思議とおなか減って死ぬ〜って感じではない。点滴のおかげだろうか、すごいね。そういえば点滴したままで寝ることになるとは思ってなかったかも。めちゃくちゃ邪魔なんだよなぁ。

歯磨きをして、もったりとした泡を吐き、顔だけ洗ってきっちりと美容液、化粧水、乳液で保湿。

そうそう、今回のような規則正しい生活を一週間送るなんてことは仕事柄滅多にないので、めちゃくちゃ美容に気を遣ってみようと思っているのだ。

YouTuberがショートでおすすめしていた基礎化粧品をごっそり買ってもってきていた。金などないのでプチプラだが。

なんかすでにワントーン肌色変わったんじゃない〜?


スマホ片手にゴロゴロとしていたら、看護師さんや薬剤師さんが次々やってきて、今日の説明などをされる。



点滴再開するね、これは抗生物質ね
何か飲んでいいのは11時まで
12時になったら着圧靴下履いてね
手術着いっちょでまっててね
生理?タンポンしとこか
おしっこは尿管ですることになるよ
明日の朝6時までは起き上がれないからね
飲み物は術後3時間から
飲み物3-4本買って冷蔵庫に入れておいてね
パジャマ交換すんね
T字帯どこ?
これとこれは手術の後使うから持っていくね
術後のお薬はこれとこれ
痛み止めはこれとこれ
こっちは毎食後、こっちは頓服
こっちを飲んで二時間後にはこっちが飲める
これとこれは六時間空けてね
この薬は置いていくけどこっちは後からもってくるから
始めはこっちが何日からでこっちはその翌日から
お掃除入りまーす
タンポンもってる?もってない?
じゃあ買ってね、380円ね
点滴追加ね、これは●●ね
飲み物3-4本買って冷蔵庫に入れておいてね!


ウワーーーーーーーーーーーーーッ

なんか書面にして渡した上で説明してくれ!!!

基本的に年配のひとばっかりが入る病院っぽいけど、あまりに若さを過大評価しすぎしゃないか?今よく書けたなって自分でびっくりしたわ。

あと飲み物3-4本買って冷蔵庫に入れておいてほしい話は昨日から計5回は聞かされている。
めちゃくちゃ大事なんだなと思って麦茶3本とポカリ1本買っておいた。基本麦茶大好きマンなんだけど、なんとなく術後のポカリうまそうだなと思ったので。(これこの後大正解になる)

その後は急に誰もこなくなって、暇だったので爆睡してしまった。やっぱり昨晩うまく眠れてなかったらしい。気づいたら11時を回ってしまい、最後の水分摂取の時間を逃した。チェ。

トイレに行ったらパジャマ少し経血で汚してしまっていた。ごめんなさい。

新しいパジャマはもったいないしどうせ脱ぐから、手術着着てパンツだけ新しくしておくか…タンポンはまだいいや。

友人と少しLINEしながらまだゴロゴロ。13時になるけど何も起きないな…15時には手術なんて信じられん。

それから15時ちょい前くらいまでまたLINEしつつゴロゴロしてたら、急にその時は来た。



コンコンコンココココンコンコン

「タナオロシサンイクヨ〜!モウシタヌイデル!?」

中国か韓国系と思しき看護師さんが、超細かいノックの後、第一声でめちゃくちゃ急かしてきた。ベッドでスマホいじりつつゴロゴロしていた私、びっくり。

「え、あ、下?まだ脱いでないです。タンポンもまだだし」

「ジャアハヤクヌイデネ!イマセンセイマエノカタノシュジュツハジメタカラ!モウイクカラ!」

急だな〜まじで。

タンポンも初めてなのでとりあえずトイレに入ってやってみる。パジャマ脱いで、こうしてここを押し込んでこう………結構むずい。


コンコンコンココココンコンコン

「タナオロシサン!!!マダ〜!?!?」


めっちゃノックするじゃん!!!それ癖!?いや急かしすぎじゃない!?!?人生初タンポンなうなんだけどぉ!!!

「ちょっとまって!」

思わずタメ語出た。ソッコーでなんとかしてトイレ出たけどなんかタンポンうまくいってたよ、よかった。

ストレッチャー、行きは寝かせてもらえるわけじゃなくて一緒に歩く。あーめちゃくちゃ緊張してきた。どうでもいいけど手術着一枚、みたいなタイミング結構多くて、ちゃんと脚毛剃ってきてよかったなと思う。

手術室の前のなんか談話室みたいなとこに通された。1.5畳くらいの小さな部屋に椅子とテーブル。テーブルには小さなテレビが乗っかっている。

「ココデマッテテ。テレビミテイーカラネ」

そう言って看護師さんは出て行った。うおー心細い。手術着一枚だから物理的に肌寒くもある。なんか緊張しすぎたのか点滴の管を血が逆流してる。こわ。

テレビをつけるものの、話題はワールドカップで持ち切りだ。サッカーは嫌いじゃないんだけど、あまり見ないようにしている。感情移入しすぎて気分が悪くなることがあるからだ。自分の蹴った球で国の明暗が決まるとか無理すぎ…。

唯一サッカーのことじゃなかったのが通販番組だったのでそれをぼーっと眺めた。

すんごいこの包丁ほんとになんでも切れちゃう〜!トマトも皮ごとほらこんなにすんなり!!カボチャだって皮ごといけちゃうんだから〜!!

特に感情が生まれることなく、包丁を賛辞するギャル曽根を眺めた。妙に落ち着く。ありがとうギャル曽根…。


「タナオロシサン!イキマスヨ!」

「はひ」


ああ、ギャル曽根さよなら。私は今から尻をズタズタにされてきます。ギャル曽根も尻は大切にしろよ。本当に歯と尻は絶対に大切にすべきだ…。大食い続けるならよっぽどな…。

立ち上がり、ザ、手術室です!て感じの銀色の扉の前に立つ。扉は多分横開きに開いたと思う。視界が狭くなっていてよく覚えていない。

友人からもらったお守りか、父が買ってくれたお守りか、職場でもらったシルバニアか、どれでもいいから握りしめてくればよかった、と後悔する。

先生は手前のデスクに座っていた。もう一人男性と、看護師さんと思しき女性が一人立っていて、全員あの手術着特有の青みの強い緑みたいな色の服を着ていた。今調べたら、血の赤の補色である青緑を採用して血液の認識度を高くしてるらしいよ。へぇ〜。

スポットライトが結集したみたいなライトの下に、ザ、手術台がある。


こ、こえ〜!!


「スリッパ脱いで、あっちに背中を向けて横向きに寝てね」

看護師さんに指示され、言われた通りにする。初日に別の看護師さんがしてくれた膝を抱えるポーズをして下半身麻酔をかけてもらう。大丈夫この人は神、この人は神、この人は神………。

「麻酔入りま〜す」



ちく。



オッ!

あ、これは神なんじゃない?
全然痛くなかった!

とりあえず第一段階突破にほっとしているのも束の間、うつ伏せに寝るように指示され、脚を閉じる。そしたら尻たぶを思いっきり横に

グン!

て引っ張られる感じがした。しかもテープで固定された!


尻の中心部、いま丸見えである!!!!



どうも気づかないくらいのスピード感で麻酔が効いてきてるらしい。太もものあたりがあったかいぎゅうひを分厚く纏ってるみたいな感覚になってきた。ちょっと気持ち悪気持ちいい。

「そんじゃね、棚卸さん、はじめまーす」

始め方軽くない?

「ファイ……」

と、か細いレフェリーみたいな声を出して、人生初手術が尻、スタートした。



かちゃ、かちゃかちゃ、プチ、パチン、かちゃ


めちゃくちゃ変な感じだった。「多分今何か切ったな」というのは知覚できる。だけど、全く痛くはない。ただなんかなんとなく怖い。そして耳はしっかり生きているので、音はガンガン聞こえてくる。


かちゃ、かちゃかちゃ、パチ、かちゃ

たまに先生が私の太ももあたりに何か器具を置いているのも分かる。

ただ、淀みのない動きには安心感があった。化粧のうまい友人がメイクする時の手つきを見ている感覚に近い。実際は見れていないわけだが、次どうするというのが完璧に分かっている感じがするのだ。


「大丈夫ですか〜?」

急に亀ちゃん先生に話しかけられた。

「えうっ、はい、怖いです…」

正直に言ってしまった。

「怖い!?え、なんで、痛いの?」

「痛くはないです」

いや逆になんで意外そうなリアクションなの?怖くないわけある?背中に刺青入れたオニーチャンだって怖いと思うよこんなん。

「あのね棚卸さん、だいーぶひどいですよ。普通の人は二、三か所なのよ。あなたもう五か所め」

「え、まじすか」

「そー、まぁ綺麗にしていきますけどねぇ」

亀ちゃん先生、言わなくていいことを言うのに定評がある。(ちなみに私が彼に会うのはこれが三度目である)

ここで「辛かったでしょう、楽になるからね」とか言ってくれればいいんだが、この人の場合はシンプルに他の患者さんと比べてあなたの症状はひどいよ!という事実のみつきつけてくるから結構堪える。まぁ私が悪いんだけどさ本当に。


「多い」

「これは多いな」

「ひどいな、本当にひどい、いま何個だ」

「えーと、あ、いや、ここもやろうか」

「ひどいな〜」

「ご、ろく……七個。七か所だよ、棚卸さん」

「あ、いやほんとスマセン…」

「全部綺麗にしたからね!お疲れ様!」


恥ずかしかった。先生が「俺いい仕事した!」て感じなのもめちゃくちゃ恥ずかしかった。なんなら今日のビールはうまいだろうし、酒のアテに私の七個のイボはもってこいの話題だろう。

「ただね、これほんと重症だから、入院は二日くらい延ばしましょう」

ほぼ確定事項として言われた。まじかよ…。

手術時間は本当にあっというまで、多分40分くらい。切ったり縫ったりよりも、ぐっと押し込まれるような動作が何度かあってそっちの方が圧迫感がしんどかった。

終わると迅速にストレッチャーに乗せられ、サーーーーッと病室に戻ってきた。計一時間もかかっていない。

「さ、棚卸さん、それじゃこれから明日の朝6時まで、自分でおしっこはできないし起き上がれないのでね。尿管刺しますね〜」

出た。看護師さんの笑顔が恐ろしい。
にょにょ尿管…。手術よりもびびってたアレじゃん…。

と思ったが、下半身麻痺状態だったので本当にするっと入っておわりだった。なんも感じね〜。

尿管マン、仰向けのまま放置される。上半身は普通に動くので手術直前までLINEしていた友人に終わった旨を伝えると「はや!」とリアクションされ、そうだよなぁ、と思った。

実際のLINE画面。アラサー二人とは思えない語彙力。


青いラインのとこで私は手術をしている。
直前までラムチョップの話で盛り上がっていたのに…。

多分、私の本番はこれからなのだ。尻に裂傷を7つ抱え、痛みと戦わなければならぬ。



術後、三時間すると水分をとることができる。

ここで飲んだポカリの!味と!いったら!

言葉にならない。

間違いなく人生で一番うまいポカリだった。

大正解。ポカリ買っといた私天才すぎ。



あと亀ちゃん先生がやってきて、交互浴で整いましたみたいなスッキリ顔でこれを置いて行った。私の尻の術前の状態だそうで。


闇堕ちしたミャクミャク様か?



「いやーほんとにひどかった!!」とめっちゃ笑顔で言ってた。相当いい仕事したんだろうな。ありがとう。でももう連呼すな。

入院二日延長はやっぱり確定みたいで、しかもラスト二日はこの心地良き個室ではなく二人部屋になってしまった…ジーザス…。



そして案の定、それから一時間ほど後になって鈍痛はやってきた。

麻酔も切れ、腰のあたりが重だるい感覚。生理痛かと思ったがそうではない。これは患部の鈍痛だとすぐに気づいた。

しばらくは耐え、ベッドの手すりを握りしめて堪えたが、どうにも無理だった。発狂しそう。迷いに迷った末にナースコールを押し、来てくれた看護師さんに痛みを訴えた。

彼女はすぐさま痛み止めの点滴を補填してくれた。自分だとどのタイミングで点滴が効いていて、どのタイミングで切れているのかよく分からない。今の鈍痛は痛み止めが効いていなかったからなんだと分かってほっとした。

点滴を始めて数十分して、急にふっと楽になった瞬間があった。そこでもう気絶するようにがくっと眠ってしまった。

入院、こういうことが多くて恐ろしい。気絶するように眠るなんて人生でそう何度もないことだと思っていたのになぁ。

夜中に何度か目覚めては、看護師さんが痛み止めを補填してくれるのを見かけたり、痛くて手すりを握りしめて耐えたりした。

早く朝6時が来てほしい、と、悶え苦しむは午前3時。



夜明けはまだ先だ。

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