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みにくいアヒルのガァ助先生

私は現在、アミューズという芸能事務所に所属している。そのきっかけは2005年、TBS系昼ドラ「病院へ行こう!」の主演が決まったことだった。

「ちょっとスタジオに寄るからね。ゴローちゃんもいるから紹介するよ。」

アミューズに所属してすぐ、エライ部長さんに言われて立ち寄ったのは、都内のスタジオ。控室に入ると、リハーサルが終わって休憩している岸谷五朗さんがいらっしゃった。

「ゴローちゃん!紹介するよ。今度うちに新しく入ったコ。昼ドラが決まったんだよ。」

「六車奈々と申します。よろしくお願いいたします!」

すると五朗さんは笑顔で立ち上がり、私のところまで来て、両手でしっかりと私の手を握りしめながら、

「おぉ~!!!それはよかったな!がんばれよ!!!」

と温かいお言葉をかけてくださった。 

ドラマや映画でずっと見てきた岸谷五朗さん。ドラマ『みにくいアヒルの子』は大好きだった。
『ガァ助先生のように、温かくて優しい人なんだ。』
私が感動していると、部長が「六車は競馬の仕事もやってんだよ。」と伝えた。するといきなり、

「ヒヒィ~~~ン!ブルブルブルゥ!おい!誰が『ウマヅラ」だって!?」

え?五朗さん・・・今、
馬のモノマネをしました!?
しかも自分でボケて、ツッコミました!?

私は大爆笑をした。
こんなド新人の私のために笑わせようとしてくれるなんて、なんてステキな方なのだ!!!私は五朗さんのお人柄を知って、一気にファンになった。

さて私が事務所で所属したのは、五朗さんと同じ班だった。すると五朗さんのトークショーで司会をさせて頂いたり、『地球ゴージャス』など五朗さんの舞台があると、必ず班のデスクさんから案内が来て観に行かせて頂き、楽屋までご挨拶に行ったり、お会いする機会が増えた。そのたびに、誰に対しても変わらない態度で温かく接する五朗さんがいた。

数年後、私は班を移動することになった。新しい班になると、その班のアーティストのステージ案内が来るようになり、五朗さんの舞台を見る機会は激減。いつしかお会いすることも無くなっていった。

月日は流れ、昨年。とあるパーティーで五朗さんを見かけた。久々にお見かけした五朗さん。ご挨拶に行こう!

いや。ちょっと待てよ。
あれから10年は経ってるはずだ。
五朗さんなら、新人に挨拶されることなんて山のようにあるだろう。
はるか昔にお世話になった私がご挨拶に行って、覚えていなかったら?
五朗さんを困らせやしないだろうか?

いやいや、いかん。たとえ困らせることになったとしても、やはりご挨拶には行くべきだ。

うーん。私の中で、どちらの方が五朗さんに対して失礼でないのか迷った。
結果、キチンとご挨拶に行くほうを選んだ。
私はドキドキしながらお席へと近づいた。

「五朗さん、覚えていらっしゃらないかもしれませんが、、、。六車奈々と申します。ご無沙汰しております。」

すると、着席していた五朗さんが立ち上がった。あの時と同じように、満面の笑みで両手を握りしめ、

「おぉ~~~!六車!オマエ元気にしてたのかよ!?どうだ、競馬は当たってんのか?」

え???
五朗さん、私を覚えて頂いてただけでもビックリなのに、競馬のことまで覚えてくださっていたのですか?!

私は感動した。
そしてずいぶん昔に、五朗さんのマネージャーさんから聞いたことを思い出した。

「五朗さんはどの現場に行っても、ADの名前まで全部覚えて、一人一人に声がけされるんですよ。」

五朗さん、凄すぎる!
私の中で、五朗さんに対する気持ちが『ファン』から『尊敬』に変わった。

岸谷五朗さん。
もちろん素晴らしい役者さんであり、エンターテイナーである。
しかしそれに加えて、素晴らしいお人柄があるからこそ、人から愛され、いつまでも第一線でご活躍されているのだ。

いやぁ。勇気を出してご挨拶に行って良かった。
私も五朗さんのようになりたい。
改めて、褌を締め直した出来事だった。

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