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ノーメイクの悲劇

私は普段、どすっぴんである。
メイクをするのは仕事する時、人に会う時くらいで、基本的には
すっぴんの方が多い。


その日、私は実家でダラけていた。だるだるの家着に、どすっぴん。
仕事柄、人前ではきちんとしないといけないので、家にいる時くらいは
思いきり緩みたい。おやつを食べて、テレビを見て、幸せのユルユル時間を過ごしていると、突然『ピンポーン』と鳴った。
誰だ?玄関を見てみると、宅配便だった。すっぴんだし、
だるだるの家着だし、どうしよう。


30歳当時の私は、関西で色々な番組に出演していたので、街を歩けば声をかけられた。
「六車奈々さんですか?いつも見てます!」
「六車奈々さんですよね?一緒に写真撮ってもらえますか?」
また食事に行って、散々『ここだけの話』をした後に、お店の人から
「いつも見てます。」と言われ、「しまったぁ!話聞かれてたかな?」
なんて慌てることもしょっちゅうあった。


だからこそ、この宅配便にすっぴんで出るかどうか迷った。
もし宅配便の人が私のことを知っていたら?
どすっぴんの私を見て「へぇ。六車奈々って、実物はこんなもんか。」
と思われるかもしれない。


あ、いや。言っておくが、私は別に厚化粧をしているわけではない。
どちらかといえば薄い方だ。
マスカラは三回くらい塗るが、ファンデーションなんて極薄だ。
しかしどんな薄化粧の人でも、メイク顔とすっぴんとでは、多少は違って
当然なのだ。そのレベルの話をしているのだ。


さて、そんなわけで私は宅配便を受け取ることを躊躇われた。ちょうど妹も家にいたのだが、「疲れたから少し寝る」と言っていたので、代わりに
出てもらうことはできない。
どうしよう?急ぎの荷物なら困るだろうし。仕方ない。私が出よう。


「はーい!」
私は大声で返事をして、玄関の扉を開けた。
「はい、六車奈々さんにお荷物ですね。」
「はぁい。ありがとうございます。」
「あれ?六車奈々さんて、テレビ出てる六車奈々さんと同じ名前やね。」


私は一瞬ドキッとした。
いかんいかん、ここはサラッと流そう。
「ああ、そうですね。」
「そやなぁ。六車奈々さんて名前の芸能人いるなぁ。ここ、六車奈々さんの家かいな?」


「いえ、違いますね。」
私は即答した。
宅配便のおじさんは、私の顔をジッと見た。
バレたか?


「そうか。違う六車さんかいな。ほな、おおきに!」
おじさんは、あっさり帰っていった。


おいおい。ちょっと待ってくれ。
私、その六車奈々さんですけど。
顔、見たでしょ?


おじさんが帰るや否や、妹が大爆笑しながら階段を下りてきた。
「あかん。おもしろすぎる!おねぇの顔見て『六車奈々さんとは
違うんかいな?』って〜!」
妹は、腹を抱えて笑い転げている。
どついたろか。


いやはや化粧というのは、罪である。
どんなに薄化粧でも、こうして気づかれないこともあるのだから。
そう、どんなに薄化粧だとしても、気づかれないことはあるのだ。
・・・おかげで私は傷ついたではないか。


もう一度だけ聞きたいことがある。
おじさん。私の顔、そんなに違いました?


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