
「夏祭浪花鑑」初心者向けつまづきポイント解説
令和5年(2023年)、国立劇場(東京、5月)、国立文楽劇場(大阪、7月)と連続で「夏祭浪花鑑」が上演されました。
数年前に東京で上演された際に、1回見て度肝を抜かれ、その後チケットを買い足して数回見ました。今年の東京公演は初日を鑑賞したのですが、すっかり話を忘れていて・・・。その後、解説講座を聞いてやっとわかった、というポイントが多々ありました。
今回、文楽初心者の知人を連れて行ったのですが、イヤホンガイドを聞いていても、前半はあまりついていけなかったみたいで・・・。とはいえ、義父殺しのクライマックスを見たあとは、「鳥肌立った!」「文楽ってすごい!」と感動していたので、この演目にお連れして良かったな、と思った次第。芝居の醍醐味が存分に味わえるこの演目、初心者にぴったり、と思いつつ、お話についていけずに迷子になりがちなんですね・・・。
ということで、初心者が躓きやすいポイントを、初心者目線で解説してみようと思います。
主人公の特定が難しい~名前
主人公は、「団七九郎兵衛」という名前。劇中では、「団七」と呼ばれたり「九郎兵衛」と呼ばれたりします。別人?と思ってしまうのですが、同一人物。ここは初めの躓きポイントですね。
団七と言う名前から九郎兵衛という名前に改名したらしいのですが、そのくだりがお話で出てこないので、迷子になりがちです。とはいえ、後半でも「団七」と呼ばれたりします。
主人公の特定が難しい~見た目
主人公の団七ですが、登場時は牢屋がら出所して髪の毛ボサボサでヒゲぼうぼう。その後、床屋でさっぱりして、月代を剃って、頭が青々とした状態になります。(月代とは丁髷姿の頭頂部の剃った部分です)この「青々とした状態」というのが、(多分)男らしさというかカッコいい要素なのでしょう。実は、この話の主役としてのシンボルなのかもしれません。
床屋で頭を整えた時に、着物も着替えます。続いて、もう一人の男性「徳兵衛」と袖を交換するのエピソードがあるため、そのあとも「袖が交換された着物が続く」と思いきや、違う着物に着替えるのです。
だから、着物で主人公を特定するのではなく、頭が青いのを団七の目印にするのが良いと思います!
名前で混乱する~「三婦」
主要な登場人物で「サブ」というお爺さんが登場します。この方の漢字が「三婦」。「婦」という字から、脊髄反射的に女性をイメージしてしまうのですが、男性。パンフレットなど文字を負いながら見ていると、はじめは混乱します。ここも躓きポイントですね。
女性の見分け ~ お梶とお辰
初めのころ出てくる、団七の奥さん。これがお梶です。黒っぽい着物を着てます。そして団七と徳兵衛の小競り合いを仲裁するかっこいい奥さんです。
その後、徳兵衛の奥さんも登場。よく見ると着物が違うのですが、雰囲気が割と似ているので、さっきの主人公の奥さん?と思ってしまう。特に、徳兵衛の役割が省略されるので、徳兵衛の奥さんが重要人物として出てくるのがいまいちピンとこないのですね・・・。
とはいえ、徳兵衛の奥さん「お辰」のシーンは見せ場になっています。徳兵衛の奥さんがこんなに義理に厚いカッコいい女性なのであれば、徳兵衛もきっと信頼できる男性なのでしょう。
「侠客」の意味合い
時代劇を見る機会が減った現代では、「侠客」(「きょうかく」と読むのを今回初めて知りました)という立ち位置も馴染みが薄くなってきました。
「侠客」に似た立ち位置で「やくざ」があります。ただ、平成中期くらいまでは「やくざ」は義理に厚いカッコいい像でドラマで描かれていることも多かったですが、ここ最近は、反社会勢力という意味合いが強まり、かっこよく描かれることもずいぶん減りました。なので、単に「やくざ」と読み替えてしまうとニュアンスが違うようです。
侠客の本質は「義侠心」。正確な意味を調べてみると
正義を重んじ弱い立場の人を助けようとする気持ち。おとこぎ。
という意味だそうです。
侠客と義侠心を合わせて考えると、「普段は無頼なふるまいをしているが、いざ、弱いものが虐げられていると身を捨てて正義を貫こうとする」みたいな感じでしょうか。お上が定めた「法」は破りがちだけど、弱いもの助けをする、庶民の味方の正義のヒーローという感じです。(そういえば、時代劇のヒーローってこういう人物像多かったですね・・・)
物語の方に戻ると、団七は、自分の奥さんのお父さん(義父)が、詐欺行為を働いていることを苦々しく思っている・・・。自分が義理立てしたい場面でも、義父が登場して詐欺行為を働く・・・。もともと義侠心が強い団七だからこそ、その気持ちが高じて、義父を殺してしまう。そこが物語の見せ場になっているわけです。
さいごに
すでに、東京・大阪ともに公演が終わっているので、数年は見る機会がないかもしれませんが、解説を書いてみました。誰かの役に立つかわかりません(汗)将来、友人知人を観劇にお連れするときが来るといいな・・と思いつつ。
なお、国立劇場くごろチャンネルにて、大阪公演の配信中です。