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「菅原伝授手習鑑」令和5年文楽公演 国立劇場 2023年9月
だいぶ経ってしまいました。国立劇場さよなら公演・・・。すでに遠い昔に感じますが、観劇記録を残します。
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名作「菅原伝授手習鑑」。通し狂言という趣向で5月公演に引き続き全編通しの演目。
さよなら公演ということもあり、8月に5月公演の再配信もあり、しっかり復習してから臨みました。
時代物の代表作。言わずと知れた菅原道真公(菅丞相)が主役なのですが、本人よりも取り巻く人々の群像劇という感じ。
ただ、今回は全編通しでの公演ですので、菅丞相がメインの段も。流罪後に藤原時平の企みを聞いた後に雷神になるくだり。本物の火花を吹く演出もあり、度肝を抜かれました。
5月公演より「孔明」という「かしら」で見てきた故に、怒りによって顔つきが変わるのも見もの。清廉潔白、清らかで誇り高い菅丞相が、堪忍袋の緒が切れて雷神に。
日本の三代怨霊とされていますし、菅原道真公は日本文化の中心にいる存在ですね。
三つ子の兄弟と源蔵夫婦の菅丞相への想い。全編通しで見たからこその面白さがありました。
国立劇場主催の事前の講演会にも参加しました。桐竹勘十郎師の講演が30分以上あり、国立劇場の思い出(三島由紀夫と盾の会が屋上に上っていったというエピソード)だけでなく、菅原伝授手習鑑の思い出も。若手のころは、源蔵をやりたくて配役を楽しみにしていたが、意外にも白太夫を配役されたお話。そんな思い出深い白太夫、そして何と同い年!だそうですが、勘十郎師のお役の中でもベストに入るくらい魅了されました。
三つ子が生まれて「縁起が良い」ということで、菅丞相にも取り立てられ、そして「白太夫」という立派なお名前までいただき。その直後に、子供たちに悲劇が訪れ、菅丞相を追って大宰府まで旅に出る・・・という過酷な運命。
目の前で子供が切腹する場面の哀れな場面と、数年後、菅丞相と大宰府にて、牛の見立ての話をする場面。菅丞相と白太夫ともに過酷な運命の末に、穏やかな日々を送っている。ほのぼのとした場面でも郷愁が感じられて、しみじみとしました。
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そして、二部。
有名な車引の段、寺入り、寺子屋の段。それまでのエピソードを見ているからこそ、思い入れを持って見ることができました。
こうやって後日談まで含めてお話が続いて見られるのは通し狂言ならでは。やっぱり話の流れや、登場人物の顛末や変化も含めて物語に没入できるのは贅沢なことですね。
後になってWikipediaでおさらいしましたが、これだけの長いお話を全部見られたことに感激です!
期間を開けて長いお話を鑑賞するというのは、大河ドラマを1年かけてみるようで、思いのほか没入できました。国立劇場は、もともと「通し狂言」をやることがアイデンティティだったそうです。初代劇場の最後の公演らしく、見終わった後の感慨はひとしおでした。
大千穐楽の日も見ましたが、特に寺子屋の段の呂勢太夫さん清治師が絶品!今でも思い出して反芻したりしてます。
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