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崩れ落ちたプライド~あの日、後輩の前で泣いてしまった私~



 「奈菜さん、これ、コピーお願いできますか? 3部でお願いします。」
 後輩だけど正社員のA子さんが、眩しいほどの笑顔で頼み事をしてきた。彼女が入ってきた時は私が仕事を教えたが,今は彼女の指示で私は仕事する。

 A子さんはコピー機の前で立ち尽くす私の様子に気づくことなく、彼女は軽やかに自分の席へ戻っていく。
 その後ろ姿を眺めながら、胸の奥がじわりと痛む。
(…この子は、ミスなんてしないんだろうな)
 心のどこかで、後輩への嫉妬と自己嫌悪が絡み合う。

 その日は、朝から何もかもうまくいかなかった。

 いつも通りの時間に家を出たのに、なぜかいつもより人が多い。ホームで電光掲示板を見ると、「人身事故発生のため、運転見合わせ」の文字が。
「嘘でしょ…」

 私は、がっくりと肩を落とした。遅刻は確定だ。上司に連絡を入れ、謝罪の言葉を繰り返す。幸いにも、上司は「仕方ないですね、落ち着いて来られるように」と、理解を示してくれた。

 しかし、電車が動き出したのは、それから30分以上経ってからだった。会社に着いた頃には、すでに始業時間を30分以上過ぎていた。息を切らしながら席に着くと、周りの視線を感じた。
「すみません…」

 私は、小さく頭を下げた。
 遅刻のせいで、朝のメールチェックが大幅に遅れてしまった。すると、取引先からの重要なメールへの返信が遅れていることに気づいた。慌てて返信するも、先方からは「お待たせして申し訳ありません。ただ、この件、至急対応をお願いしていたのですが…」と、やんわりと釘を刺されてしまった。

 そこから、私の集中力は完全に途切れてしまった。顧客データの入力で、顧客名を間違えてしまったり、資料作成で、数字を間違えてしまったり…。「奈菜さん、大丈夫?顔色が悪いようですけど…」と、先輩に心配されてしまうほどだった。
「あ、はい…大丈夫です…」

 そう答えたものの、私の心はすでにボロボロだった。簡単な計算すら間違えてしまい、電卓を叩く手が震える。

 そして、極めつけは、重要な書類の誤送。
「奈菜さん、この書類、別の会社に送っちゃったみたいなんですけど…」

 A子さんの顔色が、みるみるうちに青ざめていく。私は、血の気が引くのを感じた。
「え…? うそ…」

 A子さんと一緒に、上司に誤送の件を報告した。上司は、顔をしかめて言った。
「奈菜さん、今日はどうしたんですか? 電車が遅れたのは仕方ないにしても、その後のミスが多い。落ち着いて、一つずつ確認しながら仕事を進めてください。」

 私は、ただただ頭を下げて謝ることしかできなかった。

 上司の言葉が、胸に突き刺さる。周りの視線を感じ、私は恥ずかしさでいっぱいになった。
そして、ついに…
「うぅ…っ…」
堪えきれずに、私は声を上げて泣いてしまった。

 周りの視線を感じ、顔を上げると、A子さんが心配そうにこちらを見ていた。
「奈菜さん、大丈夫ですか…?」
A子さんの優しい言葉が、さらに私の涙を誘う。
「うぅ…ごめんなさい…情けないよね…」

私は、泣きじゃくりながら、A子さんに謝った。A子さんは、何も言わずに、そっと私の肩を抱きしめてくれた。
その温かさに触れ、私はさらに号泣してしまった。

 後輩の前で泣くなんて、最悪だ。惨めで、恥ずかしくて、穴があったら入りたかった。
(こんな姿、見られたくなかった…)
かつて、初々しいA子さんにお姉さんぶって仕事を教えてた時のことを思い出して余計情けなくなった。
 
 私は、こんなにも脆い自分に嫌気がさした。
A子さんは、困ったように顔を歪めていた。
「奈菜さん…とりあえず、落ち着いてください…」

 その言葉に、私はハッとした。
そうだ、私は社会人なのだ。
 ミスはあってはならないし、ましてや、後輩の前で感情を露わにするなんて、あってはならないことだ。
 私は、深呼吸をして、涙を拭った。
 そして、A子さんに、精一杯の笑顔を見せた。
「ごめんね、A子さん。心配かけて…大丈夫。もう大丈夫だから。」

 A子さんは、少し安心したように、頷いてくれた。
あの日、私は後輩の前で泣いてしまった。
情けなくて、恥ずかしくて、消えてしまいたかった。
 でも、あの出来事があったからこそ、私は、自分の弱さと向き合うことができた。
社会人として、未熟な自分。
感情のコントロールができない自分。
周りの人に迷惑をかけてしまう自分。
すべてを受け入れ、そして、変わろうと決意した。
ミスをしても、すぐに立ち直れるように、
日々の業務を丁寧にこなし、スキルを磨く。
そして、何よりも、冷静さを失わないように、
心を強く持つ。
仕事で泣いた日の物語は、私にとって、忘れられない一日だ。
あの日の涙は、私の弱さの象徴であり、そして、新たな出発点となった。
人は、弱さを受け入れることで、強くなれる。
私は、そう信じている。

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みさき なな
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