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友達とセックスはできるか〜戻れない距離

 この問いに、私は今でも明確な答えを持てないでいる。「友達とセックスはできるのか」――。ただ一つ確かなのは、一度その線を越えてしまうと、純粋な友情には戻れないということ。私自身が、その事実を痛いほど実感している。

 あの夜は、何もかもが自然な流れのように感じられた。週末の深夜、いつものメンバーでの飲み会が終わり、終電を逃した私は彼の部屋に泊まることになった。それまで何度も、みんなで彼の家に集まって飲んだり話したりしていた。今回は2人きりだったが、いつもの関係性から特別な緊張もなく、ごく自然な選択だった。

 部屋に着いて、彼が入れてくれた熱いお茶を飲みながら、いつものように他愛もない会話を続けていた。仕事の愚痴や、共通の友人の近況、最近見た映画の話。そんな会話の合間に、ふと沈黙が訪れた。

 彼の視線が、いつもと違って見えた。私も、彼の表情をいつも以上に意識していた。距離が縮まっていくのを感じながら、頭の片隅では「これは危険かもしれない」という警告が鳴っていた。でも、その声は次第に小さくなっていった。

 最初のキスは、まるで自然の成り行きのように、彼の唇が私の唇に重なった。彼の手が私の髪に触れ、その温もりが心地よく感じられた。友達として見ていた彼の姿が、急に男性として輝いて見えた瞬間だった。

 セックスは、優しく、それでいて情熱的だった。友達だからこその信頼感があったせいか、緊張よりも心地よさの方が勝っていた。ただ、行為の最中、私の中で何かが確実に変化していくのを感じていた。これまで「友達」というカテゴリーに入れていた彼が、全く違う存在として見えてきたのだ。

 朝を迎えた時、その変化は決定的なものになっていた。目が覚めて、隣で眠る彼の寝顔を見た時、私の胸は複雑な感情で満ちていた。友情とは明らかに違う、甘く切ない感情。でも、それは恋愛感情とも少し違う、どこか曖昧な想い。あくまで「友達」である彼に抱かれたという不思議な感情。

 その後、私たちの関係は微妙に、でも確実に変化した。LINEのやり取りは以前より頻繁になった。けれど、以前のような気軽さはなくなり、彼の言葉の一つ一つを意識してしまう。飲み会でも、彼の何気ない仕草や言葉に過剰に反応してしまう自分がいる。純粋な友情の時には感じなかった、妙な緊張感や意識が常にあった。

 共通の友人たちの前では、以前と変わらないように振る舞おうと努めた。しかし、彼の視線を感じるたびに、あの夜のことが頭をよぎり、自然に振る舞えているか不安になった。二人きりになると、あの夜の記憶が蘇ってきて、自然な会話さえ難しくなる。かといって、恋愛関係に発展させる勇気も、お互いにない。

 結局、私たちは中途半端な関係のまま、少しずつ距離を置くようになっていった。深い話をすることも減り、連絡も自然と疎遠になっていく。大切な友人を失ったような喪失感と、セックスをした相手という特別な意識が、複雑に絡み合ったまま。

 今思えば、「友達とセックス」という選択は、見かけほど単純なものではなかった。そこには必ず感情の変化が伴い、一度変化した関係は、もう元には戻れない。人の心は、そう都合よくは動かないのだと、身をもって学んだ。

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みさき なな
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