あの日、初めてブラをつけた。 少女から大人へ、そして母と娘へ
初めてブラジャーをつけた日のことを、今でもはっきり覚えている。小学校高学年のとき、周りの友達が少しずつ大人の階段を登り始めていることに、なんとなく焦りを感じていた。ある日、何気なく鏡の前で自分の体を見て、「あれ? 何かが違う」と感じたのだ。それまで、どこか「子供」だと思っていた自分に、何かが加わったような気がした。何となく胸のあたりに違和感を感じて、それが大人になる兆しだと気づいた。
その日、母にそのことを伝えると、ちょっとした驚きと共に、「そうね、そろそろブラジャーが必要かもしれないわね」と言われ、私は内心ドキドキした。今思えば、母は何気ない表情を装っていたけれど、きっと複雑な気持ちだったのだろう。
翌週末、母と一緒にショッピングモールに出かけることにした。ブラジャーを買いに行くという特別な日。初めての買い物で、なんだか胸が高鳴る。お店に着くと、いろんな色やデザインのブラジャーが並んでいて、私はどれを選んだらいいのか分からなくなった。「可愛いのがいいな」と思ったけれど、恥ずかしくて手が震えそうになった。最終的に母が選んだのは、ピンク色のレースが施されたシンプルなデザインだった。「これでいこう」と母が言うと、私も「これなら大丈夫かな」と思いながら、試着室に向かった。
家に帰ってから、いよいよ初めてブラジャーをつけることになった。鏡の前に立ち、ピンクのレースのブラジャーをつけると、少し恥ずかしさが込み上げてきた。ブラウスを着て、シルエットが変わった自分を見つめながら、なんだか不思議な気持ちになった。
次の日の体育の授業が、一番の試練だった。更衣室で着替えるとき、同級生の視線が気になって仕方がなかった。そして、体育館でバスケットボールをしているとき、男子の1人が「おい、見ろよ」と友達に囁いているのが聞こえた。今でも覚えているのが、バスケットボールを持って走っている私を指さして笑う男の子たちの姿。体操服の下にブラジャーのラインが見えてるのを囃し立てたのだ。顔が真っ赤になって、その日は思い切りプレーができなかった。でも、クラスの女子たちが「気にしないで!あいつら、バカなだけだよ」と励ましてくれて、少し心が軽くなった。面白いことに、その男子が先日同窓会で当時のことを覚えていたらしく「あの頃は本当に子供だったよな」と照れながら謝ってきたのには驚いた。
放課後、同級生の子に「ブラジャーつけた?」と聞かれたとき、「うん、つけたよ」と答えると、彼女は真顔で「私はまだあんまりつけたくないんやけど」と言った。あんなにドキドキした自分が、友達から見ると平気に見えていたことが分かって、ちょっと拍子抜けした。
でも、次第にそれが当たり前になり、学校でもブラジャーをつけることに抵抗がなくなっていった。以前は、ブラジャーのラインが見えてるのを男子たちがくすくす笑うこともあったが、そのうち誰も気にしなくなった。
今、ショッピングモールでたまたま学生服売り場の前を通りかかると、制服を着た女子中学生たちの姿を見て、あの頃の気持ちを思い出す。初めてブラジャーをつけた日は、単なる「アイテム」を身につけた日ではなく、女性として一歩を踏み出した象徴的な出来事だった。それは今でも忘れられない大切な瞬間だし、あの頃のドキドキ感を思い出すと、少しだけ大人になった気がして、ちょっとだけ胸が温かくなる。先日、母と買い物に行った時、ふと下着売り場の前で「ねぇ、覚えてる?」と母が言った。二人で笑いながら、あの日のことを話した。今では立場も変わり、大人の女性として一緒に下着を選べる仲になれたことが、なんだか嬉しい。