【SABR】Baseball Savantが新指標「Bat Speed」を公開!
鯖茶漬です。いつもお世話になっております。
Baseball Savantで新たに「Bat Speed」と、それに関連するデータが公開されました。
■背景
Namikiさんの「どうやってデータを取得してる?」の項が参考になります。
2017年に「推定スイング速度」について書かれた記事がFangraphsに公開されていました(もしくはBaseball Savantにも一時的に公開されてた?)が、正確なデータとしての公開は今回が初めて。
■解説
ここからは新たに公開された指標について簡単に解説していきます。
▼Avg Bat Speed
打者のスイングのうち「バットスピード上位90%の平均」となる値。バットのヘッド部分から6インチ(15.24センチ)の部分を対象に測定します。
リーグ平均は71.5mph、個人ではヤンキースのジャンカルロ・スタントンが80.6mphと驚異的な数値を記録。バットスピードが1mph上昇するごとに打球距離が約6フィート(1.83メートル)上昇します。
▼Fast Swing Rate
バットスピードが75mphを上回ったスイングの割合。Exit Velocity(打球速度)が95mphを超えると打球価値が一気に上昇するのと似たような理屈で、バットスピードが75mphを超えると打球価値が上昇します。
リーグ平均は22.4%、個人ではこちらもスタントンが98.0%を記録しトップに。
▼Squared-up
「球速」と「バットスピード」から打球速度の理論上最速値を算出し、その速度に対し実際の打球速度が80%を超えたものを「Squared-up」と定義します。ざっくり言い換えると「どれだけバットの芯付近で捉えられたか」を表す指標。Bat Speedがその打者のポテンシャルを表すとすると、Squared-upはその能力をどれだけ実戦で発揮できているか、といった具合です。
この説明だとわかりづらい部分もあると思うので順に解説していきます。下の表は投球に対するバットの接触位置とSquared-up%を示したものです。
図でSquared-up 100%を達成しているのはヘッドから6〜8インチの部分。タンゴによると4〜9インチの部分でのみこの打球速度に到達します。また、バットの芯からグリップ側(9〜16インチ部分)に近づくにつれ緩やかにSquared-up%が減少している一方、バットの先端部分に近づくにつれSquared-up%が低下していることが分かります。Squared-upは図の「芯付近で捉えた打球」を評価します。
球速とバットスピードから理論上の最速値を算出する方法と、その値からSquared-upを算出する方法は以下。
MLB公式サイトのGlossaryにある打球例を参考にしてみます。
球速とバットスピードから算出した最高打球速度に対し97%となる打球速度を記録。基準となる80%を超えているのでSquared-upと判定されます。
以下の表はスイング数に対するSquared-upの割合が高い選手の上位10名です。
75mph以上のバットスピードとなるFast Swingを一度も記録していないルイス・アライズがトップとなる43.3%を記録。また、全体的にAvg Bat Speedが下位の選手が多く見られます。
異質とも言えるのはフアン・ソト。上位4%となるAvg Bat Speed76.1を記録しながら、Squared-upでも上位にランクイン。パワーとコンタクト(芯付近で捉える能力)を兼ね備える強打者であることがデータから分かります。
また、Avg Bat Speed、Fast Swing RateでトップのスタントンはSquared-up(% Swing)で21.6%。MLB平均が25.6%と平均以下の数値となっていることから「バットスピードは速いが、芯付近で捉えらえていない」とも言えます。
▼Blasts
Squared-upでは「どれだけバットの芯で捉えられたか」を評価しました。しかしこの指標は、速いほど打球価値の上がるバットスピードの数値を考慮していません。遅いスイングでも基準速度の80%を上回ればすべてSquared-upと判定されます。そこでBlastsでは、Squared-upの値にBat Speedも考慮し、より質の高いスイングを定義します。
Blastsの定義は以下。
BlastsのMLB平均は10.6%。全体のうちわずか10%ほどしか発生しませんが、打撃成績を見ると極めて強力なスイングであることが分かります。
以下の表はBlastsの割合が高い選手上位10名です。
トップはブリュワーズのウィリアム・コントレラス。MLB平均の倍以上となる24.4%と驚異的な数値を記録。Avg Bat Speedでも上位に位置する選手が軒並み上位に上がってきています。
▼Swing Length
バットの移動が開始した位置からインパクトまでの移動距離。リーグ平均は7.3フィート。最も短い選手はルイス・アライズの5.9フィート、最も長い選手はハビアー・バエズの8.7フィートとなっています。
ここまでの指標は「バットスピードは速いほど打球価値が上がる」という前提に基づき「優れているか、そうでないか」を表していました。しかし、Swing Lengthが表すのはあくまで「スイングのスタイル」。平均と比較した短いスイング、長いスイングで成績を比較しても極端な差は出ていません。
「スイングがコンパクトなほど空振りが少なく、打率を残しやすい。スイングが大きいほど空振りが増える反面長打が増え、wOBAも高くなる」といったデータになっています。このあたりはイメージ通りのデータかもしれません。
▼Sword
打者の「中途半端なスイング」の回数。「弱いスイング」または「ハーフスイング」と呼ばれるスイングがここに当てはまります。定義は以下。
このようなスイングが当てはまります。
元ネタは2006年公開のコメディ映画「The Benchwarmers」のワンシーン、「Don't chop at it, its not a sword!」というセリフから。
MLB.comの記事内で、Swordは打者よりも投手に焦点を当てるべきだとしています。以下の表は今季の投手のSword数上位10名です。
1位はパトリック・サンドバル。10回のSwordのうち6球はスライダーで空振りを奪っています。
■分析
せっかくSavant上で弄れるようになったので、分析というほどでもないですが興味深いトピックを簡単に紹介します。
▼年齢曲線
バットスピードは30歳を目安に下降。打者のピークは20代後半であることから、劣化の要因のひとつとして「バットスピードの低下」が挙げられそうです。
▼カウント別
以下の表はカウント別の平均バットスピードです。
ストライクが増えるほど打者のバットスピードは低下し、ボール球が増えるほどバットスピードは上昇。namikiさんの記事にもあるカウント別打撃成績とも似たような結果となっています(3-2は四球があるのでwOBAは高く出てますがBat Speedは平均を若干下回っています)。
▼球種別
以下の表は球種別の各指標です。
特徴的なのはFastballに分類されるフォーシーム、シンカーのSwing Length。それぞれ平均(7.3フィート)を下回る6.9フィート、7.0フィートを記録。その他の変化球は平均以上のSwing Lengthを記録しています。
▼コース別Swing Length
以下の図はコース別のバット移動距離です。
アウトコースに近いほど、もしくはコースが低いほど移動距離は長くなります。
▼指標ごとの関係
以下の表は縦軸にSquared Up%を、横軸にBat Speedを示したのものです。
ふたつの指標には負の相関が見られます。パワーとコンタクト能力は一般的にはトレードオフの関係になっているようです。こうやって図で見るとフアン・ソトの異質さが際立っています。
他の打撃指標との相関も見てみます。
wRC+と最も相関が強いのはBlasts%。Squared Up%が多くの指標と負の相関となっています(Whiff/Swingを見ると三振の割合は減っています)。
Bat SpeedとSquared Up%を両立するのは難しく、またBat Speedは速いほど打球価値も上がります。アラエズ等一部で高いSquared Up%を残しながらwRC+も維持する打者は存在しますが、現状MLBの打者はBat Speedを優先しているようです。
■まとめ
ざっと指標の解説とトピックの紹介を行いました。自分でも探り探りな状態でまとまりのない文章になってしまった感があるのであくまで暫定的なまとめということで。
バットスピードというと打者の数値に注目しがちですが、投手目線で分析するのも面白いかもしれません。フォロワーのトレバーさんは「変則的なフォームの投手は弱いスイングを誘発しているのでは?」と分析されています。
個人単位で注目したいデータが見つかったらnoteで取り上げる予定です。
※ヘッダー画像はhttps://www.nj.com/yankees/2022/04/why-giancarlo-stanton-traveled-across-the-world-after-yankees-wild-card-loss-last-year-klapisch.htmlを引用。
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