美しい脚
私は脚をよく誉められる。
世に言う"美脚"の条件を全てクリアしているからだ。雪のように白い肌に、無駄のない筋肉。細すぎず太すぎない。惚れ惚れするような脚だ。
今日も私は惜し気もなく素足をさらす。
美しい脚は常に浴びるような視線を受ける。
しかし、私は動けない。
自由に歩くことは出来ないし、よい気分だからとスキップをすることもできない。
一度でいいから自分の好きな服を着て、外に出たい。
こんなところで注目を浴びるのはもう飽き飽きだ。
近くで幼い男の子が走り回るのをぼんやりと見つめた。ああ、いいな。私もそんな風に走り回ってみたい。
そう思っていると男の子がこちらに向かって走ってくる。もう目の前まで来ているのに男の子は一切スピードを落とそうとしない。
ぶつかる…!
次の瞬間、私は仰向けに倒れていた。あまりの衝撃に自慢の脚が傷ついてしまった。それどころかおかしな方向にも曲がっている。勿論、痛みはない。
しかし、もう私に価値はなくなってしまった、という絶望だけはプラスチックの中に広がった。
「本当に申し訳ありませんでした!私が目を離したばかりに…」
「お客様、顔をあげてください。お子様にお怪我はございませんか?」
「はい、この子は少しコブがあるくらいなんですが…。マネキンの脚が思い切り折れてしまっていて…」
「いえいえ、お気になさらず。まもなく廃棄する物でしたから。」