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#53 ナマドグッド・ボロ村観光

泊めていただくお家が決まった後、娘ちゃんが付き合ってくれて近隣観光に出かけた。娘ちゃんは私がわからない事を全く気にせず、ワヒー語?で話しかけてくれる。年齢を聞いたけどいまいちわからず…多分5年生。村の牧歌的な風景の中を歩いた後、私が徒歩2〜3km程の場所にあるカアカ砦に行こうと提案。え〜と不満を口にしながらも、1,2,3…とカウントダウンが始まる。言葉がわからなくても不思議と雰囲気で伝わるものがある。娘ちゃんのおどけた表情から、これはかけっこだな!と察した私、娘ちゃんと同時に走り出す。意外と良い勝負でふたり笑いながらしばらく走ると暑くなってふたりともダウン。またのんびりと何を言っているかは分からないけど楽しそうな娘ちゃんのワヒー語?をBGMに歩き始める。

しばらく歩くと、先ほどナマドグッド村から歩いて来た時に気になった、扉と壁に変わった装飾のある家の前で娘ちゃんがこっちに来いというように手を振って私を招いた。イベックスやマルコポーロシープの頭蓋骨や角が飾られた扉の横に、小さな祠の様なものがあって、石が入っている。娘ちゃんはその石に手で触れると、胸、額、唇、胸の順に自身の体に触れると、私に同じ事をする様に促した。私が見よう見まねでその動作を終えると、娘ちゃんは扉を開けた。中に入って驚いた。変わった装飾の家だなと思っていた場所は礼拝堂だったみたい。

礼拝堂の門。入口脇にある祠のようなものの中にある石に祈りを捧げてから入る。
礼拝堂

たわわに実ったアプリコットの木の下に、ひっそりと佇む礼拝堂の建物は、小さいながらにすごく雰囲気があって、不思議な空気に満たされていた。

娘ちゃんが礼拝堂の扉を開ける様に促す。失礼にならないように低頭しながら扉を開けると思わず息を呑んだ。なんだこれ?!礼拝堂の中心には、イベックスやマルコポーロシープの頭蓋骨が積み上げられ、火を燃やした様な形跡があった。イスラム教伝播前にゾロアスター教がワハーンでは信仰されていた事もあると聞いてはいたけど、これはゾロアスター教の祭壇なのだろうか?

天窓から差し込む光に照らされた頭蓋骨達は物語らぬ髑髏なはずなのに、すごく胸に迫るメッセージを語りかけられているような気がした。

マルコポーロシープやイベックスの頭蓋骨と
炎を燃やした様な跡。
天窓があるのは伝統的パミール建築?

娘ちゃんが私の真似をして!と言うように目配せしてくる。娘ちゃんは向かって左手前のコーナーストーンに触れると、入口の石に触れてしたような、胸、額、唇、胸と触るお祈りをし、時計回りに4つのコーナーストーンに同じ祈りを繰り返した。私も真似し終わると、行くよ!とジェスチャーで促されたので、退出しようと祭壇に背を向けかけた時、あ〜!!と娘ちゃんが叫び、手を横に振ってノー!と叫んだ。何事かと思うと、どうやら祭壇に背を向けてはいけないらしい。娘ちゃんはこうやって後ろ向きに退出するんだとバックで下がるように私に教えた。

礼拝堂の外に出ても私は茫然自失だった。なんだったのだろうこの礼拝堂は?よく見ると礼拝堂の入口にはイスラム教のイマームのような髭を蓄えた男性の小さな肖像画が飾られている。イスラム教イスマイリー派のモスク?イスラム教って火を燃やす儀式あったっけ?シルクロードやワハーン回廊の貿易を通じて、いろんな宗教やら哲学やらがこの地を通り抜け、他の場所とは異なる形で定着したのかもしれない。めちゃくちゃ興味深い。実際火を燃やしたりしているところを見てみたいが、いつ何時お祈りの儀式等は行われるものなのだろうか。

礼拝堂を離れ、カアカ砦へ向かう。時刻は15時近くなりかなり暑い。カアカ砦に到着すると入口でカアカ砦の説明を見せ写真を撮った後、娘ちゃんは帰ろうと言ってきた。確かに結構な距離歩いたし、直射日光が厳しい。

3世紀ごろ建てられたと考えられているカアカ砦。
保存状態は良くない。

が、私は砦の高いところに登って、対岸のアフガニスタンの景色が見たい。もうイダだ!帰ろう帰ろう!と怒り始めてしまった娘ちゃんの説得を何度か試みるものの、半泣きになって帰ろうと繰り返されてしまう。バス!バス!と叫ばれたのだが、これは多分もう十分という意味。確かスペイン語やキルギス語?でも十分はバス!なはず?不思議な言語的偶然。登らなくていいから!ここで待ってて!走って行ってくるから!と伝えるも、娘ちゃん怒り心頭。戻ってこーい!的な事を叫ばれるが、ジェスチャーで待って待ってと伝えながら、砦を高みに向かって走る。娘ちゃんのめっちゃ怒ってる声が聞こえなくなってからは振り返らず進むことに。ようやく高みに到着。やっぱり素敵な景色。この辺りは、対岸のアフガニスタンもタジキスタンも緑に溢れている。

川端が比較的狭いので、緑豊かなアフガニスタンの
大地が目の前に迫る。
この地域はタジキスタン側も緑が豊か。

急いで砦を降り、砦の入り口の木の下あたりの日陰で娘ちゃんが待っていてくれる事を期待したが、娘ちゃんの姿はなかった。トコトコ3kmほどの道を1人で戻る。ごめんな〜ちょっと遠くて暑かったよな〜と思うも後の祭り。村に着くまで娘ちゃんに追いつくことはできず、家の前の小川のところに戻る。小川で車のフットマット等を洗っていたお母さんとおばあちゃんに娘ちゃん戻って来た?!と聞くと、笑いながら戻っているわよ〜大丈夫よ〜と言ってくれた。家に入るも姿は見えない。小川に戻り皆と座っていると、おもむろに車の中から姿を現す娘ちゃん。ごめんね〜!とハグすると仕方ないなぁ〜と笑顔を見せてくれた。良かった良かった。

ナマドグッド・ボロ村では日暮れごろ過ごしやすい時間になると、人が通りに出てくる様になり、小川沿いはちょっとしたソーシャルスポットになる。特に日本人が迷い込んだらしいと噂になっているからかも知れないが、この人英語できるから!とふたりほど英語が出来る女性を連れて、近所の人が遊びに来てくれたりと、とてもにぎやか。そんな中、木の枝を持った鹿島アントラーズのTシャツを来た男性が通りかかった。木の枝を持って夕方に歩いていると言うことは、なんらかの動物を飼っているということ。スイマセン!と呼び止めて、翻訳アプリでロバを飼っていらっしゃいませんか?と質問。いや、飼ってない。との回答。涙。そうよね、そんな簡単にはいかないよな…誰か飼っていらっしゃる方をご存知ありませんか?と質問。何用?食べるの?いや、荷物を持ってもらって一緒にランガールまで行って欲しいんです。なんだそりゃ?!車で行きなよ!いやいや車だと一瞬で通り過ぎちゃうだけになっちゃうんで…ゆっくり巡りたくて…どなたかロバ…飼っていらっしゃいませんかね?

すると牛飼い?の男性、その場に集まっていた村人にロバ〜!ロバ飼っている人〜!ロバ売りたい人〜!と声をかけてくれた。すると収穫した家畜用の干し草の巨大な塊を担いで運んでいたおばあ様がうちにロバいるよ!売ってやってもいいがいくらで買うんだい!?と聞いて来た。ジゼフ渓谷のおじい様曰くロバは500ソモニ(50ドル)程度。キルギスでもロバは50ドル程度…が、イシュコシム辺りにロバはいっぱいいるよ〜と言ったおじい様の情報はかなり古く、イシュコシム辺りではロバはほぼ絶滅状態である事と、ワハーン、パミールの物価は僻地であることから高い事を考えると50ドルはちょっと値切り過ぎだろうか…翻訳アプリを通じて500〜800ソモニと伝えてみる。牛飼いのお兄さん、高い方の金額800のみおばあ様に伝える。1,000払いな!とおばあ様。やや湯婆婆味ある。ロバを見てから決めたいのですが…と伝えると、うるさい子だね!今見ての通り忙しいんだよ!明日の夕方にみせてやるよ!とやや怒り気味に吐き捨てて行ってしまった。

売ってくれそうな人が見つかったような見つからなかったような…?湯婆婆からロバを買うのは怖いような?が、正直他にいくらでもチョイスがあるようには感じられない。ロバ、声は聞こえど姿は見えずだし…明日まで待ってみるしかない。

08/Aug/2024

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