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#64 ワハーンロバ旅 ズグヴァンド村ーゾング村

朝、村人に見送られ、ゾングに向けて出発。とは言っても、ゾングまではわずか3km。今日は本当に行程に余裕がある。歩き始めてすぐ、川端が広くなった。早速休憩。今日は時間はいくらでもある。

川幅が広くなってきた。
浅いからアフガニスタンに歩いて渡れそう…

途中、ランガールまで10kmという看板が出てきて、もう少しで最終目的地だなぁ。遠くまで来たものだなぁと感慨深くなる。ミシュカはもう使わないから私に売られてしまった訳だけど、本当に私のエゴだけでミシュカを住み慣れた村から連れ出してきてしまって良かったのか…少なくとも優しい家族を見つけてあげなくては。特に虫が苦手だと分かってからは、虫が少ない地域に新しい家族を見つけてあげたいと思う。

もうあと少し!

あっという間にゾング村に到着。子牛さんにご挨拶するミシュカ。Maps.meに載っている最初のゲストハウスを覗くものの、営業している気配がないというか人の気配がない。まだ午前中だから畑仕事に出ているのだろうか?中に入って待たせて貰っても大丈夫かな?と考えていたら、村人が通りかかった。ホームステイ?と尋ねると、ここじゃない、あっちあっち!ともっとメイン道路を進めと言ってくる。地図を確認すると、村の反対側の端にもうひとつゲストハウスがあるようだ。ビビファトマで出会ったアイルランドちゃんはゾング村方面から来たのだが、ゾング村には、メイン道路沿いにある大きなゲストハウスしかないと言っていた。この人の気配のないゲストハウスは大きくないからこれじゃないのか?

ゾング村のメイン道路脇には美味しそうな青草が沢山生えている上に、収穫された際に落っこちたと思われる麦がポロポロ落ちていて、ミシュカは麦を見つけるたびに大喜び。まっすぐ歩いていたのに急にグンっと向きを変えることは今までもアプリコットやりんごを見つけた時にあったけど、麦穂のような小さいものまで逃さず見つけるとは、目がいいのか鼻がいいのか…

まさに道草を食いながらノロノロ進んで、ようやく村外れに到着すると、牧歌的な村に似合わないホテルとも言えそうな建物が現れた。1階はお店で2階、3階がゲストハウスのようだ。チラリと裏庭を覗かせて貰っても、ミシュカが草を食んでのんびりできそうな場所もなければ、夜に入れておけそうな家畜小屋もない。いままでのワハーンでの宿や個人宅はみなロバフレンドリーだったから、この見るからにロバお断りな立派な建物に面食らってしまった私はしばし呆然とその場に立ちすくんでしまった。ここしかゲストハウスはないのだろうか?ゾング村はスキップして2km隣のヒソール村に移動しようか。しかしミシュカと行きたいと思っていたハイキング先のピーク・エンゲルス・メドウへの登り口はゾングかランガールからのみで、ヒソール村に移動してしまうと、ピーク・エンゲルス・メドウへのアクセスが悪くなってしまう…どうしたものかと思っていると、裏庭でジープを修理していた男性が表に出てきた。一応今晩泊まれますか?と確認すると、オーナーに電話で聞いてくれると言う。オーナーが電話に出なかったので、一旦ミシュカに青草を食べさせるためにゲストハウスの前を離れる。泊めてくれるとなったとしても、ミシュカの居場所がないこの宿が最適解であるとは思えない。しばらくすると、先ほどの男性がジープで通りかかり、満室だから無理だってと伝えてきた。明らかに誰も泊まっていない雰囲気があるのに満室?まぁいずれにせよミシュカフレンドリーじゃない宿には泊まりたくないからいいのだけれど。

ミシュカに草を食べさせながら、ヒソール村でオススメと言われたゲストハウスを調べてみるが、写真を見るとこの宿もなかなかにハイソな見かけ。また、予約をしていたのに、急に前日になって、親族に不幸があったから予約をキャンセルさせて欲しいとドタキャンされ、本当かどうか怪しかったので実際に訪ねて行ってみると、他の旅行客のジープが停まっており、そのジープの団体客を取るために、個人客の自分達の予約をドタキャンしたのだとわかって怒りが込み上げてきた。という口コミもあって、ミシュカを連れた、飛び込みの謎の日本人客ひとりを歓迎してくれる雰囲気の宿ではないのかも…と思うと2km歩くのがリスクだと思える。団体のジープ客を取りたいがために、個人客を断る宿が一定数ワハーン渓谷にはあると聞いてはいた。

ヒソール村に続く道を見ると、日陰がなく、乾燥した道にカゲロウが立っている。今日は歩いた距離が少ないとは言え、歩きたい感じの道ではない。来た道を戻って、もう少し村の中に入って行ってみようか…と考えていると、4歳ぐらいの男の子を連れた女性が畑を挟んだ向こう側の家から出てきて、うちもゲストハウスとお店をやっているよ?と言ってきた。すごい悪い人という感じではないが、ややチクチクした雰囲気を感じる。おいくらですか?と尋ねると、食事つき?なし?と聞いてきた。食事代を過剰に請求されたくないので、なしで2泊と答えると、3,000ソモニとのこと。相場より高いが背に腹はかえられない。畑の中にある家は、ミシュカが青草を食む場所もあり、夜を過ごせる小屋もある。了承すると、家に案内してくれた。

女性の言う通り、家の前には小さな店があるが、なんの看板も出ておらず、ゲストハウスもオフィシャルなゲストハウスではなさそう。家は大きく、いくつかある部屋から大きな個室をあてがってくれた。この部屋もゲストルームという訳ではなさそうで、床にハサミが落ちていたり、ソファの上には薬が放置されていたりした。まぁ何度も言うけど、背に腹はかえられない。荷物を降ろして、ミシュカとのんびりしたかった。チャイは飲むか?と女性が提案してくれたけど、お腹は空いていなかったので、とりあえずミシュカと散歩に出る事にした。

青草たくさーん!
ペットのようなミシュカと働くロバさん。

メイン道路を犬を散歩させるようにミシュカを散歩させる。麦穂や青草、沢山お食べよミシュカ。ゾング村やヒソール村では、今だに農業にロバが使われていると聞いていたけど、確かにかなりの数のロバがいまだ使われているのが見れた。ミシュカにいい家族が見つかるといいけど。

ロバで商店にお買い物に来たおじさん。
働くロバさん。
働く働くロバさん。
木立が美しいゾング村。

しばらくすると、店に買い物に行った帰りのおじさんがミシュカを見つけて声をかけてきた。いくらなんだ、そのロバ?もうこのおじさん雰囲気が良くない。あなたにはどんなにお金を積まれてもミシュカを渡したりしないと思いながら、ヤムグ村で提示された400と伝えてみると、高すぎる!ロバは200〜300ソモニが妥当な値段だ。最近ではいらなくなって殺されているぐらいなんだぞ?と首を掻っ切る仕草をするおじさん。いらなくなっていると言う割にはジロジロと不躾にミシュカの体付きを眺めたりと、とにかく嫌な感じ。200とか安い値段で買えるなら買ってやらんでもないという雰囲気を出してくるが、当然売る訳がない。無視していると立ち去って行ったけど後味が悪い。その後も何人もの人が通りかかり、ロバを連れた日本人の物珍しさに声をかけてくれたけど、さっきのおじさん以外にロバの値段を聞いてきた人はおらず心配になる。今まで順調過ぎるほどに順調に進んできた今回のワハーン旅だけど、ここに来てちょっと曇り模様…体調を崩したとはいえ、もっとドゥシャンベ近辺の滞在を短くすれば良かった…時間に制限があるから尚更焦りもあって心配になる…と後悔してももう遅い。

夕方になるまで村でふらふら道草を食ってゲストハウスに戻る。暗い気持ちのままこのなんちゃってゲストハウスに戻るのは気が引けたけど、他に行く場所もない。庭にいた女性が、ミシュカを家畜小屋に入れようと言ってきた。草は十分食べさせたし、もう日暮れだし同意すると、家畜小屋を開けた女性はミシュカを最初の部屋に入れたのち、さらに奥の部屋に入れようと棒でバシバシお尻を叩き始めた。しかし奥の部屋には窓がなく真っ暗で、暗闇を恐れたミシュカは入りたがらない。大きな声を上げながら更に棒で叩いて追いやられたミシュカは、恐怖で腰を抜かしてしまった。怖がっているんでやめてあげてくださいと止めに入ると、女性は困ったような顔をして、もう少し経ったらヤギ達をしまわなきゃいけないのよ…まぁいいわ仕方がないわねとミシュカを奥の部屋に追いやるのをやめてくれた。分かってはいたけど、ここタジキスタンではロバは家畜でしかないから扱いが優しくないし、ヤギのように価値のある家畜でもないから優先度も低い。ドアを閉めた女性が家に帰った後、格子が嵌められた窓からミシュカを呼んでごめんな…と謝る。牛用なのかスイカの皮が地面に落ちていたので、小さく千切って格子の間から押し入れるも、ミシュカは顔を振って、スイカの皮なんていらない!ここから出してくれ!と訴えているように見えた。

ますます暗い気持ちになってゲストハウスに戻るとチャイ飲む?と女性が聞いてきた。食欲はないが、飲まないとずっと聞いてくれそうなので、とりあえず座ってチャイを頂くことにした。この家の家族構成は、お父さん、お母さん、娘3人と長女の旦那のようだ。チャイセットが私にあてがわれた個室に運ばれて来て、長女と次女?(最初に声をかけてきた女性)が一緒に座る。ゲストハウスではゲストだけの時間を設けてくれるけど、一般宅では良くも悪くもプライベートな時間はない。コミニュケーションを取ろうとしてくれるのは嬉しいけど、時に息が詰まる。この家の人達は悪い人達ではないのだけれど、失礼な言い方をするとちょっと民度が低い。お父さんがノックもなしに突然私の部屋の扉を開けて入ってきた時には、びっくりして固まってしまった。シルギン温泉のおじ様達だって部屋のドアはノックして、私が開けるまで待ってくれたのにな…

ミシュカの未来を思って落ち込んでいるから尚更放っておいて欲しいのだが、娘ふたりは翻訳アプリを使って私に話しかけてくる。私が日本人だとわかると、じゃあお近づきになりましょう(Let’s get to know each otherという英訳)を提示してきたので何のことかと思ったら、日本で働くためのVISAの招聘状を出してくれとか言ってくる。仕事が欲しい。お金が欲しい。とギラギラした空気に辟易する。日本語も英語もむしろロシア語も怪しい人には無理と適当に話を打ち切って、寝るので出て行ってくださいとお願いする。

状況からいって明日はミシュカと山登りなど行かずに、村を練り歩いて新しい飼い主を見つけた方がいいんじゃないかと思ったが、絶景を見て、暗い気持ちを一新し、気を新たに新しい飼い主探しをした方がいいという結論に至り、明日は予定通りピーク・エンゲルス・メドウに山登りに行くことにした。

ミシュカに素敵な家族が見つかりますように…と祈りながら眠りにつく。おやすみミシュカ…ごめんなミシュカ…

17/Aug/2024

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