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#61 ワハーンロバ旅 ヤムチュンからヴランへ

朝7時半、朝食が出てくるのを待つ。昨日の夕方に到着した自転車旅中のドイツ人のおじ様達は、なかなか朝食が出てこない事に痺れを切らし、いいや!朝食なしで出発しよう!と立ち上がりかけたところを孫くんが、もう出てきますから!と制してまた腰を落ち着けたところだ。彼らは今日ランガールまで行くらしい。私もなる早で出発したいけど、アキム・ホームステイの若女将、ビビファトマの効能で、子供が欲しいと思い続けて14年越しにようやく初めての赤ちゃんを授かったばかり。生後2ヶ月の乳飲子をかかえ、色んな事が遅れがち。赤ちゃん優先!当たり前だし仕方がない。

ようやく朝食が出てきて、食べ終え出発の準備。アキムおじいちゃんとお孫さんがミシュカへの荷積みを手伝ってくれる。何本かある紐をどう使って荷積みするかは人によって異なる。この紐を大体の人がここに使いますよ〜とおじいちゃんに伝えようとしたら、孫くんが、じぃちゃんは昔ロバを飼っていたんだ!ロバに詳しいプロなんだから、とやかく口を出さずにプロに任せておきなよ!と私を制した。はい!ありがとうございます!口出ししません!と大人しく見ていると、まず荷物を地面に置き、紐でまとめ上げるところから始め、それをミシュカの上に乗せると、バランスを見て残りの紐で上手に固定してくれた。確かに今まで手伝ってくださった人たちの中でも1番上手…明らかにロバに慣れている…

ミシュカへの荷積みを手伝ってくださる
アキムおじいちゃん。

皆に見送られミシュカと出発。Maps.meはヤムチュン城壁を越えていけとか言ってくるけど、昨日の感じだと、ハードコアなガチキャラバンの人たちでないと越えられなそうな道だったので、大人しく車道を降り、メイン道路に出て進む事に。畑仕事のために家から下の畑に降りてきていた孫くんが、最後までナナ〜!ミシュカ〜!バイバーイ!と叫びながら手を振ってくれる。ありがとね〜!と手を振り返し、いざ出発。

今日歩く距離は13kmほど。今までの20km越えの目標と比べれば現実的だし、村が続くエリアなので日陰もある上に平坦で歩きやすいはず。

なかなかに整備された車道。
トコトコ、トコトコ。

村が多いエリアなので、畑仕事の休憩中の村人がみな呼び止めてくれて何かとお裾分けをしてくれてありがたい。こちらのご家族からはスイカを頂きました。

畑仕事途中のスイカ。

また、車で通りすがりに色々くださる方もいて、果物や野菜の配達トラック?のおじ様からはクッキーを頂きました。

クッキーの差し入れ。


しばらく歩くと、湿地帯に。キレイで道草が多いのはいいのだけれど、停滞した水が多いからか、急に蚊が大量発生!思い出されるイスカンダル湖の悪夢…ミシュカも虫が嫌いのようで、イライラと尻尾を振り、後ろ足を蹴り上げながら草を食んでいる。

途中の牛の放牧地。
美しい湿原だが蚊が多い。
湿原の村で働くロバ。


蚊を追い払いながらミシュカに道草を食ませていると、地元の少年たちが現れた。年頃は10〜15歳ほどの5人組。どこに行くの〜?と聞くのでヴランまでと答えると、一緒に行こ〜と言ってきた。同じ方向に行くのなら、一緒に行ってもいいが、やや面倒くさそうなことになりそうな雰囲気を醸し出している。いや、ロバに草食べさせなきゃいけないから先に行って〜と先に行くのを促したら、じゃあ先に行くかと先に行ってくれたのだが、ちょっと行った先で私達を待っている。ここは蚊が多過ぎて、長居したくないが、あの子達に追いつきたくもない…前門の寅、後門の狼。ゆっくり進むも男の子達は待っている。仕方がないので追いついて一緒に歩くと、色々拙い英語で質問してきた後に、ロバはオス(Boy)かと聞いてきた。そうだよ、男の子だよと伝えると、男の子は好きか?と質問してくる。はい、やっぱり面倒くさいことになった。おい、お前面倒くさいぞ?と顔に出すも、しつこく男の子好きか?と聞いてくる。いい加減にしろよ?と顔に出すと、流石に空気を察したのか、私達をチラチラ振り返りながら、先に進んで行った。はぁ良かった。ワハーン渓谷、青年が面倒くさい。

しばらく行くと、湿原の中にポツンと一軒家。ちょっと前にクッキーをくれたおじさんの配達トラックがその家に繋がる私道から道路に出てくるのが見えた。その家の前を通りかかると、家の人がふたり大きく手招きをしているではないか。寄ってけ寄ってけ。どうやらトラックのおじ様が、ロバで旅してる変なやつこの道通るぞ。と配達先の家の人に伝えたっぽい。チャイに寄ってけと誘われる事に慣れ始めた私。遠慮なく敷地に寄らせて貰う。お兄さんとそのお母さんと思われる女性が笑顔でチャイ?と聞いてくれる。遠慮なく家にあげて貰うと、パンとお茶菓子とコーヒーが振る舞われた。ミシュカにもパンとリンゴが振る舞われる。どうやらミシュカはパンが大好物のようなので、嬉しそうに食べている。そのパンを食べるミシュカを自分の娘に見せるお父さん。面白いなぁ、ロバそんなに珍しい動物でもないはずとは思うけど、そこまで身近な生き物でもなくなっちゃったのかもな。お兄さんの奥さんが赤ちゃんを抱いて現れ、ここで寝て行きなよ〜!と誘ってくれた。ワハーン渓谷の皆様みんなオープンだな!?ありがたい話だけど、今日中にヴランに到着したいのでお断りして先を急ぐ事に。

子供にミシュカを見せるお父さん。

ヤムグ(Yamg)村でソーラーカレンダー800mと書かれた看板を見つけ、なんだろそれ?見に行くべきか?と思ったけど、ミシュカがなぜかやる気(パンの効果か?)でグングン進んでいる時だったので見に行くのはやめにした。グングン進むミシュカと歩いていると、ミシュカを見たおじさんが、自宅横?の畑から道路に走り出てきて、ロバ!ロバ欲しいんだ!売ってくれ!と言ってきた。おじさんは道端の棒を拾って、地面に400と書いた。400ソモニで売ってくれと言う意味のようだ。

400ソモニで売ってくださいと言われたミシュカ。

翻訳アプリで、すいません、ランガールまで行かなければならないので、売れません。と答えると、心底残念そうな顔をして、そっか〜わかったよ〜と手を振った。ロバ売ってくれと言ってもらえるのは嬉しい。少なくともランガール周辺に着いた時に、ミシュカの新しい家族を見つけてあげられないという最悪の事態は避けられそうと思えるから。金額ではなく、誠実で優しそうな人にお譲りしたい。

次の村、ヤムギ・ボロ(Yamgi・Bolo)を越えたあたりで、向かいから2人組のサイクリストが走ってくるのが見えた。近づくに連れ、あれ?あの人達知っているような?と思ったら、ドゥシャンベのグリーンハウスホステルでロバ譲ってもらって、ワハーン回廊ロバと旅したいんだよね〜とロバ旅への想いを聞いてもらったオランダ人カップルだ!向こうも私に気がついて、笑顔で自転車を停めると、ロバ見つけられたんだね〜!今朝ちょうどロバ見つけられたのかな?って他の旅人と話してたんだよ〜。良かったねロバ見つけられて!と言ってくれた。しばし再会を喜びあった後、ミシュカとの写真をお願いした。一頭と一人で旅しているので、一緒に歩いている写真がないのだ。

ミシュカと歩く写真
オランダ人サイクリストカップルと再会した礼拝堂

お別れをした後、オランダ人カップルと出会った場所のすぐ横に礼拝堂があり、ちょうどミシュカを繋げそうな水道があったので、ミシュカを繋いで中を見学させて貰うことにした。ミシュカを繋いで離れようとすると、後を追ってこようとするミシュカ。ちょっと待ってね〜礼拝堂見学するだけだから。すぐ来るよ〜と伝えて門をくぐる。この礼拝堂は古木を利用したスタイルで、アミニズムな雰囲気が日本人の信仰スタイルにも通ずる所があるような気がして感動した。思わず、素敵だな〜的な事をひとりごとで呟いたら、塀の向こうに耳だけ出ていたミシュカの耳が、ピクピクっ!と私の声がする方を向いた。お、ミシュカ耳だけ見えてる。私の声に反応してる?可愛いじゃん。と思ってこっそり壁に近づき名前を呼ぶと、再び耳がピンっ!と立った。そ〜っと壁の下に移動すると、バァ!と顔を出す。すると僕を置いてどこへ行っていたんだよ〜!心細かったんだからなぁ〜!と言うかのように、前足を踏み鳴らし、頭を振りながら大声で鳴くミシュカ。可愛すぎる…

巨木を生かした礼拝堂。
アミニズム感があって素敵。

ヴランに差し掛かると、ヴランは想像していたよりも町だった。お店、薬局、カフェ、ホテルがメインストリートに立ち並んでいる。


今日のお宿、ヌクルズ・ホームステイ(Nekruz Homestay)に到着。庭のチャイハナスペースに横になっていた宿のおじさん、ロバと現れた私にビックリして飛び起きると、英語のできる娘さんを呼びに宿の中に走って行ってくれた。呼ばれて出てきてくれた娘さん、ロバで来たの〜?面白いわね〜と言いながら、宿の中に、◯◯さーん!お友達がロバと来たわよ〜と声をかけた。その声に呼ばれて旅人がでてくる。東南アジア人と思われるその人は、私とミシュカを見るなり、うわぁああァあ〜!本当にいた〜!!ロバと旅している日本人〜!!噂には聞いてたけど、本当にロバと旅してるぅ〜!!すごい〜!!と叫んだ。ん?噂?なんの噂?詳しく話を聞いてみると、インドネシアから来た彼女は、まずムルガブでアメリカ人の旅人から、ロバと旅をしたいと言う日本人にドゥシャンベで出会った。彼女がロバを手に入れて本当にロバと旅をしているかすごく気になっている。と言われ、昨日までここに泊まっていたオランダ人サイクリストカップルにも同じ事を言われ、そんな日本人いるんだ…気になる…と思っていたら私がロバと現れ驚愕したとのこと。ウケる…私ワハーン、パミールで都市伝説になってる…

しばらくホステルでのんびりした後、ミシュカにはモグモグタイムをしていてもらって、インドネシアちゃんと私はホームステイからほど近い、6世紀頃建てられたと考えられている仏教のストゥーパを訪ねることに。畑をぬけて、丘を登ると、ストゥーパとその背景に広がる絶景。ストゥーパは高台にあるのでパンジ川が一望できる。しかも貸切!パミール高原、ワハーン渓谷のハイシーズンは夏、8月だと言うけど、ハイシーズンとは?と思うぐらいどこに行っても観光客が少ない。強風が谷を吹き抜けていく。ここ最近風が強い。ワハーン渓谷の短い夏が終わろうとしているのかもしれない。

仏教ストゥーパとパンジ川。

ホームステイに戻ると、ミシュカが草を食み終わってまったりと横になっていた。今日の行程は比較的楽で良かった。やはり最初に計画した通り、1日10kmぐらいが1番暑くなる15時前に歩き終われて良さそう。今日は楽ちんで良かったねミシュカとミシュカの横に私も横たわる。本当にミシュカは人慣れしたロバだ。私がちょっとお腹にもたれかかってみても、頭の上に顎を乗せてみても嫌がらない。

まったりミシュカ。

ほらほら歩いて歩いて!とシャキシャキ歩く事を促すと、耳を伏せて怒るまでしないものの、目が不幸せそうに三角形になるミシュカ。今みたいにゴロゴロしている時は、目もトロンとしてリラックスしているのが伝わってくる。ロバって表情豊か。

日暮れが近づき、宿のお父さんがミシュカを個室に連れて行ってくれた。ワハーン渓谷の家々のすごいところは、どの家に行っても、ロバで来たの?!と驚かれる事はあっても、ロバ用の部屋がないという事がない事だ。たまにヤギさん達とドミだったりするけど、基本夜は安全な囲いの中でミシュカに過ごして貰う事ができる。ホームステイの家の前は絶景。ぼーっと夕日にじんわりと色を変える岩山を眺める。ミシュカとお別れをする日が来るかと思うともうすでに悲しい。日が落ちて、谷がとっぷり暗くなるまで外で山を眺め続けた。

ミシュカの個室。
お父さんとヤギ達。
ホームステイの目の前に広がる景色

おーい!いつまで外にいるの〜!?夕飯だよ〜と娘さんが呼びにきてくれて、じんわり浮かんでいた涙を拭って家に入ると、今日はふたりともお客さんがアジア人だからね、夕飯はお米にしてみましたと娘さん。パンやパスタが多かったから、こういう気遣いは本当に嬉しい。ご飯を頂き、シャワーを浴びて早めに就寝。明日は15kmほど歩かなきゃ。おやすみミシュカ、良い夢を。

14/Aug/2024

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