#67 ワハーンロバ旅 ホログへ さよならミシュカ
まだ暗いうちから起き出す。昨日南京虫の件でお世話になった病院のドクターが、明日ホログに行くから乗せて行ってあげるよ〜と言ってくれたのだが、出発は5時。最後の最後にミシュカの小屋を訪ねる。ドアを開けてミシュカ…と小声で呼びかけると、奥の部屋からのっそりと顔を出すミシュカ。なんだよ〜寝てたんですけど?もう山登りには行きませんからね?というやる気の無い顔。ごめんごめん。最後にスイカとパンあげるから!とエサを入れるバケツにスイカとパンを入れる。もそもそと食べ始めるミシュカを最後にひと撫してさよならを言う。本当にありがとうなミシュカ。また会う日まで元気でいてね。
ドクター曰く、アキムの前まで迎えに行ってあげるから〜という話だったが、約束の5時になっても村は静まり返っている。貰った電話番号に電話をしてみるものの、最初は呼び出し音がなったのに、2回目かけた時は電源が入っておりませんというアナウンスに変わってしまった。どう言う事だろう?置いていかれてしまったのかな…孫くん曰く、ホログ行きのシェアタクはビビファトマから来るので、朝の7時から8時の間にメイン道路の看板前で待っていれば乗れるはずとの事。まだそれよりは時間があるけど、もう起きてしまったし、荷物もまとめてしまったし、ミシュカにもお別れ言ったし、昨日の夜アキムファミリーにもお別れ言ったし…なんといっても今日中にホログに到着し、明日にはムルガブ、明後日にはタジキスタンを出国しなければならないので焦る気持ちがある。とりあえず麓の病院はいずれにせよメイン道路の看板の目の前なので、そこまで降りて行ってみよう。
ようやく少し空が白んで来る中坂を下り、メイン道路の看板にたどり着く。流石に朝早い村人達も寝静まる静かな朝。日が谷に差し込む前、蒼い空気の中看板の前に荷物を降ろす。ミシュカに荷物を背負ってもらってここで写真撮影したなぁ…あの頃はまだ、ひとりと1匹の旅が始まったばかりで楽しくて仕方がなかったよなぁ。ミシュカと立った場所にひとりで立つと、もうミシュカはいないのだ、ここから先は私ひとりで旅を続けて行くのだと言うことが切々と胸に迫ってきて、また鼻の奥がツーンとしてじんわりと目に涙が滲む。遠くロバの鳴き声が聞こえる。ミシュカはまだ寝ているはずだから、ミシュカの声じゃないはずなのに、声がする方にその姿を探してしまう。
今朝のワハーンはいつにもなく冷え込んだ。ワハーンの短い夏と共に、私とミシュカの旅が終わった。ようやく山の向こうから温かな太陽が上がってくる。ワハーンの風に冷やされた涙が金色の光に温められ乾いた。もう泣かない。ミシュカはここで幸せに暮らしていく。アキムおじいちゃんの畑仕事の手伝いや、お嫁さんの買い物の荷物運び、お孫くん達の遊び相手として、立派に働いて養ってもらえる。また会いにくるよミシュカ。本当にありがとうなミシュカ。また会う日まで幸せに。
結局7時を越えてもシェアタクは来ず…何人かのホログに行くと言う村人とビビファトマから降りてくるシェアタクを待つ。ようやく一台来たと思ったら、ひと席しか席に余裕がなくて、私が先に待っていたにも関わらず、村人のおばちゃんがハンドバッグひとつしか持たない軽装なのをいい事にひょいとその席を奪ってしまった。私の方が先に待っていたんですけど!?と抗議するも、言語ができないし、もう乗ってしまっているおばちゃんを引き摺り下ろすこともできないから勝ち目がない。私と同じでおばちゃんより早くから待っていたおじさんに、まぁまぁもっと車は来るはずだから…と諭されて、しぶしぶ車を見送ると、なんとそこにドクターが現れた。ちょっと!今日ホログ行く話どうなったの?!と問い詰めると、いや〜行かなくなったんだよね〜との事。行かなくなったなら連絡してよ!なにちゃっかり携帯の電源切って誤魔化そうとしてんの!?このドクターとの約束がなければ、もっとちゃんとアキムファミリーとミシュカにお別れが言えたのに…そして結果論なのだけど、ビビファトマから来る車はもれなく?アキム・ホームステイの前を通るので、アキム・ホームステイの前で待っていた方が残りひと席!とか言う時には有利なような…
今日中にホログに着きたい!イシュコシムまでなら行くぜ〜という車は何台か通りかかる。もうこれに乗ってとりあえずホログに近づいていたほうがいいだろうか?しかし基本的にシェアタクはイシュコシムからであろうと早朝にしかないはず…とヤキモキしていると、ようやくもう一台車がビビファトマから降りてきた。もうすでにぎゅうぎゅう詰めに人が乗っている。これに乗れるなら、さっきのひとりしか乗れないよ!って言われた車の方がスペースがあったような。しかし一緒に待っていたおじさんも今日はホログ行きの車少ないな〜と言っていたし、時間的にももう8時なのでこの車を逃せない…
いくらですか?と聞くと200ソモニ(2,727円)だという。本来なら150ソモニ(2,045円)程度で行けるはずだが、明らかに満員の状況も鑑みて、交渉の末じゃあ乗せないと言われると困る。なので200で同意し乗せてもらう事に。最後列に後ろの窓から乗り込めと言われたが、ヒュンダイの四駆なので、ランクルなどと比べて圧倒的に座席が狭い。なのにも関わらず、運転手+大人9人に子供5人、合計15人が一台に押し込められての出発。ホログまで7時間…背に腹はかえられない。
ぎゅうぎゅう詰めのまま車はすごいスピードでワハーンを駆け抜けていく。ミシュカとの旅では、ワハーンの絶景は360度私達と共にあったけど、車の旅には空がない。この車に限っては、ぎゅうぎゅう詰め過ぎて窓際に座っているにも関わらず、窓からの景色すら楽しめない。車ですら大変なこの道をよくもひとりと1匹で歩いたもんだ…
ナマドグッド・ボロ村までは起きていたい。思い出を追いながら、狭い窓から外を見る。あっという間に車はワハーン渓谷を駆け抜け、ナマドグッド・ボロ村も一瞬で通り過ぎてしまった。誰かしら知った顔がいないか探したけど、あっという間に通り過ぎてしまって、知っている顔がいたとしても手を振る暇すらないぐらいだった。
疲れたのと、とりあえずホログに今日中に辿り着く目処が立って安心して、残りの道のりは泥のように寝てしまった。ガヤガヤと賑やかになり、周りの乗客が降りる気配に、ホログに着いたのだと気がついた。地図を確認すると、以前泊めてもらったHostel Simpleは橋を渡ってすぐの場所だった。荷物を受け取り、リュックを前後に背負って歩き始める。旅を始めてすぐは、20kgだなんて背負って歩けないと思ったが、今は不思議と軽いと感じた。ミシュカとの旅で体が鍛えられたのか、それともミシュカがいなくても大丈夫と思いたい空元気か…
ホステルにチェックインを済まし、バタリとベッドに身を投げ出すと、携帯がブーブーっと震えた。寝転がりながら確認すると、ルシャンで出会ったイギリス人女性からメッセージが入っていた。「ナナ〜!元気?今どこ?ヴランでロバを連れたあなたに会ったというインドネシア人女性にホログで会ったわ!私は数日前からホログにいるよ!」彼女にはルシャンでロバと旅をしたいという私の夢を話していたから、私がロバと旅をしているという話を聞いて連絡をくれたみたい。「私もちょうど今日ホログに着いたところ!明日には出ちゃうんだけど、もし時間あったら今晩夕飯一緒に食べない?」とメッセージを送ると、いいね!との返事。アキム・ホームステイで一緒だったイギリス君もホログにいるはずなので、夕飯一緒に食べない?と連絡してみると、こちらもオッケーとの事。皆タジキスタンでの家庭料理はもう十分味わっているので、他の国の料理を食べようという事で、ホログの有名カレー店デリー・ダルバールに行く事にした。
出かける前に久しぶりの熱いシャワーをたっぷりの湯量で浴びる。あ〜最高!
夕飯の前に、川沿いでビールを飲めるレストランに集合し乾杯!イギリス君は行きつけのアキム・ホームステイにミシュカが落ち着いたことを自分の事のように喜んでくれた。話も酒も進む進む。ミシュカとの旅路では体調を崩せない!と色々慎重になっていたけどもう飲んじゃう!
その後デリー・ダルバールに移動して、本格的なインド料理に舌鼓を打った。スパイスって最高だな…
この後イギリス君はホログに2週間ほど滞在しペルシャ語を勉強し、イギリスちゃんはひとりで4,000mの峠越えがある山をトレッキングするそう。色んな旅人がいたもんだ!楽しい時間はあっという間。いつの間にか時間は22時。私が明日朝早いのでここで会はお開き。イギリスちゃんはもしビビファトマに行くことがあればミシュカに会って写真送るね〜と言ってくれた。それよりもひとりでのトレッキング気をつけて!
20/Aug/2024
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