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#66 ワハーンロバ旅 ゾング村からビビファトマへ

体は疲れているはずなのに、気が立っていてうまく眠れない。3時半ごろ、You have to do justice to him というメッセージで目が覚めた。そうだ、私のエゴでミシュカを連れ出してしまったのだから、最後まで責任をもたなくては!

カウチから飛び起きると、残金を確認する。ワハーン渓谷をヒッチハイクなどの手段で巡る場合、1番の難関となるのはランガール(ワハーン渓谷最東端の町)からアリチュール(パミールハイウェイ上の町)間と言われていて、足がないことを知っているランガールのタクシー運転手達はこの間の移動に、高額な金額を請求する事が多いと聞いていたので、この区間のタクシー代として1,000ソモニ用意していた。その金額を使って、ミシュカをなんとかビビファトマまで輸送してもらい、ランガールからアリチュールに行くのは諦め、ビビファトマからホログに戻り、ホログからムルガブを目指せばイイのではないか?!ロバを積めるピックアップトラックは見つかるだろうか?いや見つけるんだ!なんとしても見つけるんだ!

そうと決まったら荷物をパッキングしよう!私はウロウロと部屋の中を歩き回るのをやめ、荷物を一気にパッキングして外に出るとミシュカを迎えに行った。昨日夜21時まで青草を食べさせたとはいえ、お腹を空かせているかも知れないし、村人の朝は早いから、最後の足掻きでゾング村で素敵な家族を探すにしても、ピックアップトラックを探すにしても早いに越したことはない。朝日が山の後ろから谷を照らすより前にメイン道路にミシュカと立つ。まだ薄暗い村はさすがに寝静まり、ひとっこひとりいない。ミシュカに草を食ませながら待っていると、ランガールを出発したのだろうか?満員に人と荷物を積んだジープが数台通り過ぎていく。やはりピックアップトラックは見当たらない。

少し経つとロバに乗ったおじいさんが側の畑にロバを繋いだり、ロバに乗った草刈機を持ったおじさんが通りかかったりしたので、ロバもう1匹必要じゃないですか?とダメ元で聞いてみるものの、いや、いらないねぇ…との事。やはり車だ!車を探さなくては。頼ってばかりで申し訳ないが、ズグヴァンド村の英語ができる女の子に、知り合いにロバを乗せられる車を所有している人がいないか聞いてみる。すぐに返事をくれたが、思い当たる人はいないとの事。ヒソール村の友達に、ロバ必要な人いないかもう一度聞いてみるね!とは言ってくれたものの、多分色良い返事は貰えないだろう。必要なのは車だ。

ふとなんちゃってゲストハウスを振り返ると、昨日は暗い&疲れていて気がつかなったが、一昨日チェックインした時には見当たらなかったジープが2台家の前に停まっているではないか。そういえば、ランガールの後はアリチュール、ムルガブに行くと次女に伝えた時、うちにも車あるからうちの車で行きなよ!と言われたな。その時はプライベートタクシーだと高くついてしまうから、乗合タクシー探すから結構ですと断ったけど…この車の事か…三菱の古そうなジープの中を覗き込むと、3列目の座席構成が横ではなく縦となっている。これは、座席を跳ね上げれば、ミシュカを乗せられるスペースが出来るのではないだろうか?!

そこへ朝も早よから部屋にいない私を探しに次女が家から出てきた。チャイの時間だよ、あと宿泊代、払ってもらえる?と言う次女について部屋に入り、チャイを頂きながら宿泊代金を支払うと次女の顔に喜びの笑みが広がった。食事なしの料金だったのに結局食事食べたじゃない。食事代払ってよ!と言われることもなく、むしろお前は全然食べなかったから、このパンとお菓子を持って行けと袋に詰めてまでくれた。悪い人たちではないのだ。ただちょっとお金に困っていると言うか、お金が欲しくてたまらないだけと言うか…はて、待てよ?お金にがめつそうと言うことは、ちょっとした無理難題もお金さえ積めば聞いてもらえるかもしれない…中央アジアでは、社会主義の影響なのか、以外とその金額ならいいや〜◯◯ソモニならやりたくな〜い。という感じに頑張ってお金を稼ごうと言う気概が感じられない事が多いのだけど、この家族ならお金さえ払えばロバをジープに積んでくれるかもしれない。

早速交渉する。ロバと私をビビファトマまで車で連れて行ってくれませんか?という私の依頼に、ロバも?!いやロバは無理でしょ。ロバは置いて行きなよ。と最初は言っていた女性陣だったが、お金はもちろん出します。と伝えると、急にこの上客を逃してはならないのではないか?と目がギラつき始めた。車を運転するであろう男性陣を抜きにして、ロバを乗せられる前提で交渉が進む。ビビファトマのアキム・ホームステイまでは約40キロ。シェアタクの場合は35〜40ソモニが妥当な金額のはず。なのでまずはその10倍、400ソモニから交渉を始める。女性陣は600だと言う。いや500!550!500!500で行けないならズグヴァンドに行けば車があるからそこまで歩く!嘘だけどそう伝えると、女性陣はあーでもない、こーでもないと相談した後、わかった!500でロバとお前をビビファトマまで連れて行ってやろう!と言ってくれた。

女性陣が運転手である男性陣を探しに行っている間に、アキム・ホームステイに電話をかける。昨日かけた時は繋がらなかったが、今日は数回の呼び出し音の後に、懐かしい孫くんの声が聞こえてきた。ナナだよ!今日ミシュカとアキム・ホームステイに戻るね!と伝えると!やったぁ!ミシュカも戻ってくるんだね!わかった!待ってる!との事。お孫くんの声を聞いただけですごくホッとする。と、ホッとしたのも束の間、男性陣が現れると、高々500ソモニでロバを乗せられる訳ないだろ!って言うかロバ、そもそもジープに載せられないだろ!と話が振り出しに戻る。載せられます!ロバ、ミシュカはジープに載せられます!この動画を見てください!と軍のピックアップトラックにミシュカを積み込んだ際の動画を見せる。うぅむ…確かに…ロバ積み込めているな…と思案する様子のお父さんとお婿さん。ピックアップトラックは屋根がないが、自分達が所有している三菱のジープには屋根があることはあまり気にしていなそうで、この動画のピックアップトラックには屋根ないじゃないか!というツッコミは受けなかった。助かる。

その後も屋根の上に載せたらどうか?(ヤギはジープの屋根の上に5匹ほど縛られて輸送されているのを見た)とか、やっぱり500ソモニじゃなくて700ソモニだ!とか押し問答は続いたが、ミシュカは後部座席に積み込めます!もう値段に関しては同意し終わっているので変更不可能です!で押し通し、最終的に私の粘り勝ちでミシュカをジープに積んで500ソモニで送迎してもらえる事になった。

いざミシュカを車に積み込む。お婿さんが前からミシュカの手綱を引っ張り、私とお父さんが片足ずつ持ち上げて車に積み込む。間違いなく屋根がある車に乗せられたのは今回が初めてのミシュカは、ピックアップトラックに積まれた時よりも首を振って乗りたくないと抵抗した。後ろ足を持ち上げようとする私にお父さんが蹴られるぞ!と注意したが、ミシュカは蹴らない!と思ったし、蹴られたとしても、何としてでも載せる!もうこれしか方法はないんだから!!と気合いでミシュカを載せ込んだ。フーフー!と鼻息を荒くして少しバタついたミシュカだったけど、ドアを閉めると諦めたのか動かなくなった。もちろん物理的に動けなくもある。

後ろのシートを跳ね上げれば
ミシュカを載せられるかも?
扉を閉められ諦め顔のミシュカ。

やったぁ!よし!出発しよう!って思ったら、また長女がお金が〜と言い始めたので、流石に辟易とした顔を見せると、違う違う!ガソリンが入っていなくて、ガソリン代がないから先払いで!と言ってきた。本当にギリギリの生活なのかも知れない。ガソリン代として半額先に払うとようやく車は出発。ミシュカフレンドリーでなかったホテルの隣のガソスタに寄ると、沢山の村人が、え?ロバ?車の後部座席にロバ?と集まってきた。最初は500ソモニだなんて安すぎる〜とブーブー言っていたお父さんも、皆の注目を浴びて凄いだろう!ロバと日本人を乗せてビビファトマに行くんだぜ!とノリノリに。ビビファトマに行きたいという4人の村人も乗せていいか?と聞かれたので、ロバと一緒でよければどうぞどうぞ!と伝え、車は6人の人間と1匹のロバを乗せビビファトマへ出発した。

ガソリンスタンドで村人の注目の的になる。

乗り込んできたおば様と娘さんふたりはミシュカの飛び出した鼻先に笑いながら戦々恐々。この鼻先、あなたの方に向かない?とジェスチャーで言われたので、私の頭でミシュカの鼻先をブロックする。大丈夫ですよ〜ミシュカは大人しいロバなんで噛んだりしませんからね〜と心の中でおば様に言っていると、後頭部にゴリゴリっと何か硬い感覚。え?もしかしなくてもミシュカさん、私の頭噛んでません?と振り返ると、今にも泣きそうなミシュカの顔があった。

今にも涙が溢れそう。

そうだよなぁ…怖かったよなぁ…何すんだよ!だよなぁ…ごめんなぁ…でも今から素敵な新しい家族のもとに行けるんだよ。アキム一家に貰って貰おうなぁ。とミシュカの顔を撫でる。もし万が一、中国に薬として売り飛ばそうみたいな悪い奴に捕まりそうになったら、さっきみたいに大人しく車に乗ったり、今みたいに甘噛み程度に抵抗するんじゃなくて、本気で蹴ったり噛んだりして逃げるんだぞミシュカ。

ホッとしたのと別れの時が近づいてきた事に悲しみが込み上げてきて涙が溢れる。涙を隠すために車窓から外を見ると、ミシュカと歩いた荒野が、絶景が変わらずそこにあった。ここで道草を食ったなぁ…とか、ミシュカが砂浴びしたくて動かなくなっちゃって大変だったなぁ…とか、ここでお茶を頂いて、りんごを頂いて…と思い出と感謝の念が込み上げてくる。ありがとう…ワハーン渓谷、ありがとう…ミシュカ。

ロバと歩けば3日の距離は、車だとあっという間。ヤムチュンで他の村人を降ろし、アキム・ホームステイに向けて坂を登ってもらう。詳しい送迎先を娘から聞かず、トゴーズ村あたりとしか聞いていなかったお父さんは、坂登るのかよ〜聞いてないよ〜坂登るなら550ソモニだよ〜とまたブーブー言い始めたが、もうすぐだから!と説得して坂を登ってもらう。アキム・ホームステイ前に到着し、車のドアを開けると、ミシュカなんとうんちしてる…1日に数回しかしないのに、あえてジープの中でするとはやってくれるぜ…俺のジープはロバのトイレじゃないんだぜ〜臭い臭い〜と鼻をつまみながらミシュカを車から降ろしてくれたお父さんに、残りの半額が550ソモニになるようにお金を渡す。お金を数えたお父さん、あれ?50多いな?と困惑した顔を浮かべたので、ミシュカのトイレ代です。と伝えると、すごく嬉しそうな笑顔になった。ここでいや最初に請求した金額は600だから50足りないぞ!とか言ってこないところをみると、やはり悪い人たちではないのだ。お互い笑顔でありがとう〜と手を振ってお別れする。

門を開けてアキム・ホームステイに入ると、お嫁さんが迎え入れてくれた。あぁ、帰ってきたって感じ…やはりこのホームステイはいい空気が流れている。

昼下がり、アキムおじいちゃんとお孫くんが戻って来たところで、ミシュカの新しい家族になってくれないかと交渉。お金ではなく、可愛がってくれる家族にお任せしたいので、一泊分の宿泊費250ソモニ(3,390円)とバーターでどうかと提案。宿泊費ももちろんお支払いできたけど、完全に無料で!と、一切身銭を切らない状態でお渡ししてしまうと、ミシュカに対する責任を感じられなくなってしまうかな?と思いバーターを提案。アキムおじいちゃんは少し考えて、うむ!わかった!ミシュカの事はわしが預かろうと言ってくれた。

早速庭に出て、ボロボロになってしまっていた手綱を外して、頭絡の金具にしっかりとした鎖をつけてくれたり、お孫くんに伝えて干し草を持って来てミシュカに与えてくれたりするおじいちゃん。お孫くんも、俺ロバ大好き!可愛がるよ。俺も面倒見るから!と言ってくれた。手綱が外されて、アキム・ホームステイに落ち着いていくミシュカを見ていたら、涙が込み上げて来た。それを察したアキムおじいちゃん、ミシュカの手入れの手を止めて私に近づくと「ミシュカの事はわしに任せておけ。ロバにわしは詳しい。何の問題もない。また尋ねて来なさい。元気で幸せにしているミシュカに会わせてあげるから。」と言いながら私の涙を手で拭ってくれた。ありがとうございます。ミシュカをよろしくお願いします。

ミシュカのロープを解いてくれるアキムおじいちゃん。
俺ロバ好き!とミシュカにハグしてくれるお孫くん。
ボロボロになったミシュカの鞍を、
早速直してくれるアキムおじいちゃん。


ミシュカが満足気に草を食べまったりしているので、私はちょっと病院へ足を運ぶ事にした。南京虫の被害が凄すぎて、持参したステロイドの塗り薬も、抗ヒスタミン剤も底をつきそうだったからだ。

病院から戻ってくると、庭にミシュカがいない。あれ?!どこに行っちゃったんだろう?!立派な鎖に繋いでもらってたし、ゲートだってあるから逃げたりは出来ないはずだけど!?ちょっと焦ってアキムおじいちゃんにミシュカは?!と聞くとそこじゃよ〜と高台の下の庭を指差される。下の庭を覗き込むと水場の側に繋いでもらったミシュカが大好きな砂浴びをしている。砂浴びもできて、草も食べられて、水も飲める場所、さすがアキムおじいちゃんロバのことをわかっていらっしゃる。

アキム・ホームステイの庭は広い。

病院の帰りにスイカをひと玉買って来ていた。半分に切ると、その半分をおじいちゃんのご家族に、残りの半分を私とミシュカで分け合うことにして、下の庭に繋いでもらったミシュカを訪ねる。大きめに切ったスイカをありがとうな〜と感謝の気持ちと共にミシュカにあげると、大きくむしゃむしゃっとスイカの塊を口に入れ、口の中で汁を回すように味わうミシュカ。可愛い。ウザいだろうけど撫でさせて〜とスイカに夢中のミシュカの頬を撫でる。あ〜本当にさよならなんだねーミシュカ…本当にありがとうな〜ミシュカがいてくれなかったら、とてもじゃないけどひとりでは歩けなかったよ。重たい荷物を持ってくれ、たまに話し相手になってくれ、心強かったよ。またすぐに遊びにくるからね。それまでアキムおじいちゃんの言うこと聞いて、ちゃんと働いて、可愛がってもらうんだよ。

スイカよ汁を口の中で回して味わうミシュカ。

塀に座って、砂浴びしたり、草を食んだりするミシュカを眺めて最後の時間を過ごす。ジープに載せた時は泣きそうな顔をしていたミシュカだけど、落ち着いたのか私がズボンのポケットに入れているりんごを欲しがり、リラックスした顔で太ももに顔を擦り寄せてくる。仕方がないなぁ、もうひとつあげよう。

りんごあるんでしょ〜?くださいよ〜?

そうだ、ミシュカの大好物は沢山あれど、1番好きなのはパンなんだった。ゾング村のなんちゃってホームステイの次女に頂いたパンがリュックに入っているんだった。パンを取りに家に戻ってミシュカの元に戻ってくると、アキムおじいちゃんがミシュカの鎖を解いているところだった。パン、あげちゃマズイかな…これアキム・ホームステイのパンじゃなくて、他の家で貰ったパンなんだけど…と思っていると、パンあげなさいとアキムおじいちゃんが目で示してくる。ミシュカの鼻先にパンを持っていくと、待ってました!とばかりに大きな口を開けてパクリ。よく噛んで味わうミシュカ。アキムおじいちゃんは、青草の場所を変えて、あと1時間ぐらいして日が暮れて来たら家畜小屋にいれるからと言いながら、モグモグといつまでもパンを噛み締め、味わっているミシュカがパンを食べ終わるのを気長に待ってくれた。思えば私はミシュカを急かしてばかりだったな…本当に良かったなミシュカ、アキムおじいちゃん優しくて。

夕方、今はミシュカひとりぼっちだけど、もう少し経ったら、ピーク・エンゲルス・メドウに放牧に行っている他の動物達が戻ってくるから、友達沢山できるよ!と私を気遣って嬉しくなるような事を言ってくれるお孫くんとミシュカを放牧地に迎えにいく。ナナ!ミシュカに乗ってみたら?とお孫くん。いやいや私は重いから〜と断るものの、最後だからほらほら!とお孫くん。ジゼフ渓谷のおじいさん曰く、オスのロバは100キロまでの荷物を持てるらしいし?私より重そうなおじさんもロバに乗っていたし…ちょっとだけなら…とミシュカに跨ってみる。太ももの下にミシュカの暖かな体温と、お孫くんがミシュカを先導し、ミシュカが歩くたびに肋の動きが感じられてますます愛おしさが募る。ありがとうなミシュカ。

ミシュカに乗せてもらってミシュカの体温を感じる。

アキムおじいちゃん自慢の野菜畑を抜けて、家が近づくと、お孫くんが俺もミシュカに乗ってみてイイかなぁ?と聞いて来た。もちろんだよ!と言って乗り替わり私がミシュカを先導する。タジキスタンではトルコだかアラブだかの時代劇が流行っていて、それをアキムファミリーが夕食の時に見ていたことがあるんだけど、そのドラマのセリフなのかな?馬よー走れ〜!みたいな事を言いながら嬉しそうにミシュカに乗って、満面の笑みを浮かべながらミシュカに抱きつくお孫くん。その様子をにこやかに見守るアキムファミリー。アキムおじいちゃんには生まれたばかりの男の子のお孫くんもいるから、その子がもうちょっと大きくなったら、その子もミシュカに乗ってくれるはず。本当に良かったなミシュカ…大人しく小屋に入ったミシュカにおやすみを言って家に戻る。

いっぱい乗ってあげてね!

後は無事タジキスタンからキルギスへの国境を越えるだけ。これに関しては私だけの問題だから、もう心配するまでもない。今日は久しぶりによく眠れそうな気がする。おやすみミシュカ良い夢を。

19/Aug/2024

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