夢のお話。
思い出したことがある。
中学の時だった。
絶賛、中二病で勉強なんて全くしていないわたしに、なぜか家庭教師がついていた。
いまならはっきりと言える。
高いお金を払って、中学生に家庭教師つけるなんてやめた方がいい。それなら自分の欲しいバック買うとかヘソクリにまわした方が良い。
本当は旅行でも。と書こうと思ったけれど、中学生がいる家庭に家族旅行なんてつんつんするだけかと思った。
家庭教師の先生には、主に学校での宿題や分からないところを一緒にやるという感じだったと思うが、そんなのは建前で、先生が部屋に入るなりわたしがすることと言えば、今日は学校でどんなことがあったとか最近みたテレビの話を熱心に話すことだった。時には先生を質問詰めにしていたと思う。
それは先生が好きでとかではなく、
———先生は可でもなく不可でもなく、外見はちょっとふっくらした仲間由紀恵だった。たぶん全ては髪型のせい。
単に勉強したくないが故の必死の時間潰しだ。
毎度話す内容も思いつかなかったのか何度も言ったことがある。それはわたしの夢についてだった。
『わたしね、おばあちゃんになったら豪華客船に乗って旅するの』
他にもたくさん有る事無い事、夢を語っていた気がするが今となっては全然思い出せない。
なぜ、豪華客船だったのか。テレビか何かで見たのだろう。
デッキの白いイスに座り、優雅にコーヒーを飲む姿。その船はとても大きくて、何日いても飽きない程の大海原を渡る1つの街のように思っていた。
わたしが語った夢の多くは、〜になりたいという職業的なものではなく、
〜に行きたい。こういう人でありたい。そんなことだったように思う。
そして、その夢のわたしは決まっておばぁちゃんだった。
可愛いおばぁちゃんになる。そんなことも絶対言っていたに違いない。
先生はわたしが勉強したくないのを知っていたと思う。中学生の絵空事に付き合わされる時間。苦痛でもあり、それで時給もらえるなら最高な生徒だっただろうなと今思う。
いつの間にか夢を抱かなくなってしまったけれど、あの頃のわたしは確かに、そして純粋に夢を語っていた。
なんともつまらない大人になりかけているもんだ。わたしはもう一度、夢を語りたい。
『わたしね、豪華客船に乗って旅するの』
今度はおばぁちゃんの部分は省こう。
夢は言ったもんがちだ。
だから
声に出して夢を語ろう。
紙に書いて夢を残そう。
あ、もう一つ思い出したことがある。
家庭教師がくる日は、母の出す紅茶やお菓子が毎回楽しみだった。あと、もうちょっとで終わるとも思ってた。馬鹿だなぁ。
奈々