パッシブハウスを斬る
外気35℃の真夏にパッシブハウスを体験した。
勉強になったが、想定通りのこともあり情報共有したい。
体験した家の条件
6地域温暖地
5人住まい(夫婦、子供3人)、見学時来訪者4名
延床170㎡
平屋、ロフトあり(壁仕切りなし)
LDK真南
Ua値0.25、C値0.2
1種顕熱ダクト
体感
30畳ほどある広いLDKに大人5名、子供1名がいた。
170㎡を14畳エアコン1台で冷房(ダクトあり)をしていたが、正直暑かった。入った時には置いてあった温度計(人の頭の高さ)で28℃58%、30分後には29℃55%となっていた。周りに大人がいることと、立って話を聞いているとどんどん暑くなった。
涼しかったのは35℃の外気から中に入って数分。汗が一瞬引いたがその後はずっと暑い中の見学で辛かった。
エアコンの設定は18℃、風量マックス。これ以上強くはできない。
窓は南に大きいが、東西は最小限。南側の日射遮蔽はほぼ全てしてある。
アウターシェードをつけても、太陽が動くと西側から日が入ってくるので完璧には遮蔽できない。
日射と人の熱で暑さを感じた。
除湿も最低限はできているが、55%は切れたらもっと快適だなと感じる。私の家では場所によるがLDKは40後半〜55%(日射入って除湿捗る昼間は50%切る)なのでもっと空気がサラサラしてる。
うちは底辺G2で、このPHは大体2~5倍ぐらいの断熱材が入っている。しかし数倍の快適性は感じない。というか温湿度だけでいえばうちの方が快適である。
高断熱住宅はどちらかといえば冬に差が出る。
夏は日射遮蔽と空調計画。この2つで決まるということが再確認できた。遮蔽はアウターでもインナーでもやるだけ。設計者がポンコツで遮蔽計画を立てられなくても、住んでから簡単にDIYできる。(軒ゼロではさすがに無理だが)
つまり空調計画こそ最重要ということになる。それだけインパクトがあるからフエッピーさんは空調の探求と情報発信に最も力を入れてきたのだと思う。
話を戻そう。
断熱が厚いほど夏も有利にはなるが、魔法瓶である高断熱住宅に日射が入れば逃げにくいし冷房能力が足りて無ければ暑い。
14畳一台でもいいが、欲張らずに2台稼働した方が涼しそうだった。
もう1つ問題だと思ったのが、14畳のメインエアコンをダクトで各部屋に繋いでおり各部屋にエアコンは無いのでバックアップが無いというのだ。
他にエアコンは2台あったが、1台は床下エアコンなので冷房では使えないので実質1台しか夏の予備はない。しかしそれはダクトで繋がってないから全館は冷やせない。
メインエアコンが故障すると復旧する数日から数週間真夏は過ごせないだろう。
この緊急時の弱さも印象が非常に良くなかった。
また冬は有利というが、11月までは室内が暑い(高断熱すぎて熱が逃げない、夏ではないので軒で遮蔽ができない)らしいのでその効果を発揮する期間は短いよう。温暖地なので寒いのは12~2月の3ヵ月。
その短い期間に対して2~5倍の断熱を行うか、ガデリウスやさとうの窓、zehnderのような超高額な設備を入れるかというと自分の家でお金を出してやるなら絶対NOだと再確認できた。
それを入れて喜んでいる人は自分とは価値観が違いすぎてウマが合わないことも体感で理解できた。(こういうことを定期的にXで投稿しているからか、G3・PH施主に軒並みブロックされている)
夏だけで言えばPHでしか感じられない凄さはなかった。
いわずもがな、今の日本は夏が長く猛暑日が増加。冬より夏の方が対策として重要になっている。
昔のように春夏秋冬が順番に来るのではなく、ゴールデンウイークですら30℃を超えることも温暖地では起きている。
お金持ち、もしくは断熱が好き(?)、PH認定がほしいなどそれ自体が目的化している人ならいいだろうが、普通の庶民であるボリューム層がPHを建てる経済合理性は全くないと想定通りの結論に至った。
冬は体験してないので、冬にG2・G2.5と比べて圧倒的な快適性があるなら評価は変わる可能性はあるが、それでもたった3ヵ月に対しての快適性であること、今は冬より夏の猛暑の方が大変なのでPHにした方がいいとはなりようがない。
11月~3月に毎日氷点下を下回り、最低気温がマイナス5℃よりも低い日が多い豪雪地帯でPHを採用するかどうかではないだろうか。
6地域よりも暖かく、恐らく沖縄の次に温暖であろう鹿児島初のPHは今年4月にできているが、日射取得により無暖房下で真冬でも室温30℃に達するという”欠陥住宅”が生まれている。
高断熱住宅に住んだ人や温湿度を計測している人は分かるだろうが、冬の快適な室温は22~24℃あたりで25℃を超えてくると暑い。30℃なんて話にならない。
断熱にやりすぎというのは基本的にないが、このケースについては設計に問題があるといっていいだろう。
PHは断熱性能はさることながら、かなりの量の日射取得を得ることが基準なのでこういうことが起きる。
外気は冷たいから窓を開ければ電気代いらずでいいのかもしれないが、これが快適なのか、いい家なのかは私には理解できる範疇ではない。
また話を見学した家に戻す。
冬についての解説もあったが、曇りが続いて日射取得ができないと18℃になるので過ごせるけど肌寒いと言っていた。その時に暖房をつけるらしい。
日射があるなら無暖房で行けると。
これだけ聞くとG2、G2.5で日射取得できる家と変わらないような。。底辺G2であるうちも、日射取得できる空間については昼間は無暖房で夜に数時間暖房をつける程度。
いや分からない。何かすごいことがあるはず。
じゃないと、、何でめちゃくちゃ高いお金かけてPH申請費用をドイツのPH研究所に払ってまでやる理由が分からない。
結論は出てて、今日本でPH建てる人はPHが経済性に適っているという計算や判断をしているのではなく、最上級の性能にしたいというロマンを追っているからだろう。そこに理屈はない。その判断に否定もしない。
というとPHに住んでる人は怒るだろうが、自分は注文住宅を建てる程度の経済能力がある一般庶民のコスパがいい家はどのラインかということを最重要視して勉強や情報発信しているので、ロマンに対しての評価は厳しい。
注文住宅自体がロマンの要素が強いし、追うべきだとすら思っているのでロマン系の家は好きなのだが、「PHはG2や2.5と比べても圧倒的な差があるよ」「お金かける価値があるよ」と言う人がいれば言い過ぎだろう。そこははっきり線引きしたい。自分の家だから盛ってしまうのは仕方ないが、これから建てる人のノイズになるんでね。
各々がやるのは好きにしていいが、人に勧めるなら根拠が必要だ。嘘はよくない。
なぜG2、2.5ではダメなのか、具体的にどれぐらい体感や温湿度、電気代が違うのかを提示しないと嘘つきになる。
体感したことでPHがいかほどのものかよくわかったので有意義だった。
恐らくこの記事を読むと「PHアンチだ」「高断熱住宅アンチだ」と思うひともいるだろうが、そうではない。
やりたい人はやってください。基本的にいいものではある。
私は建築費が高騰する中、一般庶民が建てられる予算の範囲で一番バランスがいい性能、意匠、施工を追求して情報発信しているので、その文脈で言うとPHはいらないというだけ。
「家は性能」だと思っている人は一条やウェルネストホーム、PHを建てればいい。
「家は性能」ではないと思っている大半の人は、PHに関しての知識は持っていていいがそれを目指す必要は全く無いということ。
床下エアコンは中性能住宅の設備
空調に関する話が面白くて、その家にも床下エアコンはあるが全く使ってないそうだ。これが一番の発見だった。
晴れれば日射取得で夜も無暖房、曇りの時はロフトエアコンを数時間稼働すれば暖まるよう。
その数時間を床下エアコンにすればいいんじゃない?と思うはず。
しかし、暖房をつける日が極端に少ないので、日が空いて数時間のために床下エアコンを稼働させるとすぐに家が暖まらないらしい。
床下エアコンはまず躯体を温めることになり、その後室内に温風が出てくる。
躯体が冷え切っている状態で数時間稼働すると、室内に温風が来るまで時間がかかるという話。
それなら室内側のロフトエアコンをつければ十分。床下エアコンではなくても裸足で過ごしているそうだ。
これは面白かった。
だって床下エアコンは高性能住宅(の中でもハイレベルな家)の設備という認識がされている。
しかしPHクラスになるといらなくなる。この家に限らず、他のPHでも床下エアコンは使わないことが多いらしい。
つまり、「ちょっと先の未来へ」とか言って床下エアコンをやってる会社もあるが、せいぜい10年ぐらいはハイレベルでそれ以降は凄くない性能の家なんだろう。
結局、G1が2030年に最低基準になるから今G2を標準にしているだけで、大してレベルは高くない。今現在ちょうどいいだけ。未来じゃない。
既にHMすらG3の商品をたくさん作っているから、10年もすればG3も珍しくなくなるし、G2はしょぼくなる。G1が国の最低基準になればまともな会社は最低G2で建てるからね。
床下エアコンがいらない(あった方がいいけどそこまで活躍しない)家も増えてくる。
床下エアコンは今現在安く床暖房できる優れた暖房方式であることは間違いないが、それに頼るということは性能的にトップレベルの家ではない(少し未来の家ではない)ということは認識した方が良さそうだ。
私自身、性能の最終系はどこなのかとしばらく考えていた。
それを言及する実務者もおり、単純に「G3が性能の最終系です!」とだけ定義してる人もいたが違和感が強かった。少なくとも今回の話で、性能の最終系は単なるG3ではないと思った。
G2が未来と言ってる会社と同じで、単に国の最高等級だから最終系と言ってるだけ。自分の頭で考えてない。
引き続きこのテーマは考えていく必要はあるが、床下エアコンが過去のものになる可能性が知れたことはよかった。
これで床下エアコン採用でドヤっている会社がいれば、進化の過程であって最終系には程遠いという正しい評価ができる。
おまけ
参加者は実務者3名と私(素人)。しかし、参加者の実務者のうち一人は高性能住宅を建ててそうだったが、他2名は全く詳しくなさそうだった。
なんでも施主が詳しくなり、高性能住宅の要望が強いので急いで勉強している様子。zehnderもガデリウスも夢窓も知らないようだったので、正直自分の方が詳しかった。このぐらいのレベルの実務者が大多数を占めるはず。
彼らがする質問も建築に関する基本的なことは全員わかってる前提で、私が素人ということはおかまいなくプロとして会話してたのだが出てくる用語や意味で理解できないことは1割もなかった。ほぼ全て理解できたのは自信になった。
彼らを馬鹿にするつもりはなく(家アカには高断熱、高気密を後発で始める会社を馬鹿にする最低な素人がいるが、、)、むしろ今まで取り組んでなかった人が興味を持っているのは日本にとっても施主にとってもプラスでしかないだろう。
また、彼らは国の基準ではなく施主の要望を受けて動いていたので、施主は住宅会社に対し性能面(断熱、気密、空調、換気、耐震等)を強く要望していいと思う。
今までさぼってきたつけなのだから、そこに対応できないなら他がどれだけよくても契約する人はいないという危機感を持たせた方がいい。
おしゃれなゴミはもういらない。
住宅業界はすごいスピードで縮小しており、今後も市場が小さくなることは確定している。
毎週のように工務店やビルダーの倒産のニュースを見かけるが、今現在供給過多なのだからどんどん淘汰されていい。
まともな家を建てられない、施主に評価されない会社がいなくなって困る施主はいないのでわがままに最低限の性能(PHクラスではなく)を求めてほしい。