窓の考察パート3 東西南北遮熱型という流派
私は過去に2つ窓の記事を書いてます。
家を建てる前から契約して設計したあとも、着工した後も悩み続けているのが窓です。それだけ考える価値があると思っています。
「南をペアとトリプルのどちらにすればいいか悩む」「断熱と遮熱側どっち?」いまだにそんな疑問の声が聞こえてきます。
最近気になったのが「東西南北全て遮熱型」というものです。
いやパッシブ設計のセオリーどこいった?日射取得どうする?というのが今までの通説を知っている人の感想だと思います。
でも意外と理にかなってるんじゃないかという話。
ウェルネストホームは全棟遮熱に変更した
知らない人もいると思いますが、ウェルネストホームは全棟遮熱窓になっていて、断熱の選択はできないケースもあるようです。(少なくとも昨年時点)
性能については自信があるのでWHに任せてほしいというスタンスなので、あまり口出ししない人が多いはず。
これに対して、面白いのがフエッピーさんのブログ(2020年5月投稿)。
あれ?と思いませんか。
そうです。2020年時点ではWHは冬の日射取得をするために北以外が断熱タイプになってました。
それが2022年までの間で遮熱だけに仕様変更されたということになります。
まずこれが発見でした。
フエッピーさんは「一条も杓子定規に遮熱窓だけにするんじゃなく、WH見習って断熱窓を併用して日射取得していこう」という提言をしてましたが、WH側が一条に寄った結果になったのです。
考察
なぜこのようなことになったのか個人的な考えを書きます。(本当は早田さんに聞いてみたいです)
まず一条を理解する必要があります。
一条は住宅四天王エースの言葉を借りれば「高性能なサイボーグ住宅を全国に広める」という会社。
年間棟数はそこらの工務店と比べ物にならない供給量なので、物理的に土地や営業・設計担当者による提供品質のばらつきを考えると個別対応はできません。できないというかしない方がいい。
担当者に求めようともパッシブハウスのようなものはできないということです。(施主力を上げて、施主側が指示すれば一部可能。一部というのはそもそも一条はHMの中でも制約が大きすぎるため施主力上げたところで限界アリ)
そこでどのように高性能住宅を大量に提供しているか。ポイントは以下です。
断熱マシマシ
窓は全て遮熱型(品質のばらつき防止、業務負荷削減)
床暖房(空調計画を考えなくても絶対に暖かい)
基本的にこの3つであり、パッシブ設計のような考え方はありません。
高断熱にしても足元は寒いし、工務店のようにエアコン1台での空調計画なんて全棟でできるわけがないから高額な床暖房でゴリ押しということです。
100点を目指すともっとやることはあるけど、1万棟前後の供給量でそれを実現するのは不可能なので70点、80点でいいよねということです。(厳密には工務店が行う緻密な空調計画も床暖による快適空間も結果は大きく変わりません。後者の方が初期コストも更新コストもかかりますが、お金で解決できるので面倒だからお金で解決したいという人には何の問題も無い)
WHですが、年間100棟の規模になってきたようで地域ビルダークラスに当たります。HMと比べる規模ではありませんので、一条の理由(個別対応が不可能)がそのまま当てはまりはしません。
ではなぜ日射取得型ではないかというと2つ考えられます。
寒くて困るのは夜と朝方
根本的な話ですが、冬とはいえ昼に暖かすぎても心地よくはありません。
私の話をすると、賃貸ですが南にかなり大きな窓がある家に住んでました。
Low-Eも入ってないアルミサッシで、家は低気密低断熱ですが真冬でも晴れたらリビングが暑いんですよね。無暖房で。
窓が大きいのはあるにせよ、太陽光の威力を感じる生活でした。夜や朝方は寒くなるのに、昼は暑いので真冬にブラインドを下すというなんとも無駄な生活。
これが高断熱高気密だったらどうなるか。良くも悪くも室内の熱は逃げにくいので、先の賃貸の家よりも暑くなるはずです。
無暖房で暖かい家には間違いなくなります。でも昼間汗ばむほどの室温の家は快適なんでしょうか。
計算上熱収支はよくなりますが、それは快適性にも比例しているでしょうか。電気代と住む人の快適性を天秤に考えているでしょうか。
また、1日の生活リズムを考えると暖かくしたいのは昼間ではなく帰宅後、入浴、就寝する夜、起床時の朝ではないですか?
昼間の日射取得をそれほど気にする必要が無いとすると、日没後は熱が逃げない遮熱窓(室内側にLow-Eがあるため)が有利になります。エアコンと家電や人間から発せられる熱が逃げにくくなります。
特にWHの断熱、気密性能は凄まじいのでエアコン1~2台回せば快適になるはずです。
オーバーヒート、日によるばらつき、物件によるばらつき、電気代には優しいけど人間にとっては住んでみたら暑い、というリスクを考えたら性能でごり押せるからこそ日射取得に頼る必要はない気がします。
ちなみに軒を出す、アウターシェードをつけていれば窓が遮熱型である必要はないと思うので、対策がしやすい南に遮熱型を選択するのは夏の対策を優先して冬を捨てているからとは思えません。むしろ冬にも有効なのではと考えています。
熱収支の話の根っこは「夏の冷房よりも冬の暖房費が高い」というところから始まっています。松尾先生も冬の電気代削減の話を良くされてます。
熱収支上は日射取得するほどいいとして、快適なのかという話が抜けている。近年の異常気象を考えると冬よりも夏の猛暑日の方が危険だということが抜けている(高気密でZEH以上なら冬に極寒という家にはならない)。
熱収支だけを見た議論がされるから現実的な快適性と乖離するのではと思います。
太陽光発電とカニバる
今の新築で敷地条件に問題がなければ太陽光を載せない人はいません。
昼間の使用方法にもよりますが、基本的に昼間の自家消費において電気代を気にする必要はなくなります。
昼間の暖房費用を気にせず、寒ければガンガンエアコンをかけられるとしたら日射取得はどれほど重要なのでしょうか。
もちろんエアコンの手を借りず無暖房時間が長い住宅はいいものだと思います。でも太陽光があるなら少なくとも昼間は無暖房かどうかはどうでもいいはずです。
断熱厨は無暖房に生きがいを感じていますが、趣味でやるならともかく一般の人からすると快適なら無暖房だろうが太陽光によるエアコンだろうが床暖だろうがどっちでもいいわけです。(太陽光が載せられない条件ならパッシブ設計は最大限取り入れた方がいいでしょうね)
加えて、言うまでもないですが毎日晴れるわけではありません。日本海側や山間部など晴れが少ない地域もあります。
そういう気象条件を1棟ずつ検討するのはかなりの負荷ですし、太陽光絡めると「足りない分はエアコンで解決すればよくない?」となっても違和感はありません。なんというか、労力のわりに得られる果実が少ないのです。その工数を他の工数に割り当てられます。
外が晴れようが豪雨だろうが室内は暖かい。その方が普通の人からすると嬉しいはずです。
パッシブハウスは家をガジェットのように使い倒したいオタク、一条やWHは性能はHM側で担保してくれという一般人のようにも捉えられます。
南のペア vs トリプル問題
ここまで整理すると南のペア、トリプルも通説のペア(日射取得型)は見直しが入りそうです。
私も南は日射取得型にしましたが、遮熱でよかったと思い始めました。
寒くて困るのは夜と朝方、日射取得できる昼間が寒いとしても太陽光でエアコンぶん回せばいいやんと考えているからです。
となると日射取得のためにペアにする必要性もなく、トリプルの選択肢が出てきます。
リビングの配置にもよりますが、窓に近い位置にソファを置くような間取りなら冷気を感じにくいトリプルの方がいいはずです。
なので高気密(C値1.0以下)、高断熱(G1以上)、太陽光有の家なら南の窓はトリプルで遮熱型がおすすめ、というのが現時点の見解です。
東西北にトリプル、という通説でしたがリビングが配置される南はある意味一番窓に接近し、一番長く滞在するのでむしろトリプルの優先度が高いとも言えます。
問題は窓サイズが大きいので金額というところ。
そこは予算次第ですが、通説の「南は日射取得型のペア」というのも見直しをする時期かもしれません。
この方向に向かったとしたら、先見の明がある一条は本当にすごいですね。間違いなく性能のトップランナーです。
またWHも日進月歩で改善を加えてて素晴らしいと思います。
WHはベタ基礎から布基礎に変えた、という興味深い話もあるので継続してWHの研究は続けたいと思います。