民宿「はむ家」との出会い
8月30日
思った以上に奥まったところにあり、かなり迷ってしまったが、なんとか重い荷物を引きずりながらゲストハウス「はむ家(はむや)」の前までたどり着く。
「南国の男」はむさん登場
ここが自分に合えば留学期間いっぱい滞在させてもらい、合わなければゲストハウスに住みつつ1からおうち探しを始める予定だった。
事前に調べた情報だと、はむ家は日台夫婦が経営されている民宿で、オーナーのはむさん(本名公一さん)が日本人。
4人部屋のドミトリー(男女共用、女性専用)とダブルルーム、ツインルームから部屋を選べる。
他人と共同生活をしたことがないので若干の不安はあったが、値段のことも考えてドミトリーで予約した。
母はドミトリーに勉強机がないことを心配していたが、勉強は共用部屋でもできると思ったし、近くのカフェや図書館も利用できる。もともと、家では勉強できないタイプだ。
父が心配していたのは、はむ家がいわゆる「海の家」のような雰囲気ではないか、ということだった。
たしかにGoogleマップの写真を見ると、日本人がたくさん集まって盛り上がっているような写真が多く、もしや毎晩日本人で酒盛りを開いているのでは。そんなところでおまえは落ち着けるのか?とのことだった。
わたしもその点はすこし不安だったが、そもそもいまは入国制限が課されている以上日本人は少ないはずだし、Googleの口コミもとてもよかったので、百聞は一見に如かず、とにかく自分の目で雰囲気をたしかめようと思った。
ドアをあけようとすると、なんと鍵がかかっている。
隔離ホテルのときといい、台湾では、とことんチェックインに呪われているのだろうか。
そんなことを思いながら途方にくれていると、「ちょっと待ってて」と声がして、中からおじさんが出てきて、ドアをあけてくれた。
この方が「はむさん」だ。
Googleマップの写真とはずいぶん違う。なんだかかなり痩せた…??
TUBEとサザンのボーカルみたいな雰囲気を漂わせていて、こんがりと日焼けしている。服装はTシャツに短パン。ホテルのオーナーというよりは、親しみやすい「南国の男」といったほうがしっくりきそうだ。
「おつかれさま~。犬は平気ですか?」
と、いきなりそんなことを言う。
犬??
足元に目をやると、黒くてふさふさした大きなワンちゃんが寝そべっていた。
「くま」というらしい。はむさんの娘さんが命名者だとか。
平気どころか、犬は大好きだ。実家は共働きなので猫が精一杯。台湾でワンちゃんと毎日触れ合えるなんて、これは幸先がいいかもしれない。そんなことを思った。
改めて、はむさんの顔をまじまじと見る。
この人とうまくやっていけるか。
変な言い方をすれば、この人が自分のことを受け入れてくれなければ、また1から家探しの始まりだ。
でも、わたしは一目でこのオーナーの「南国の男」風のおじさんが好きになった。自分の父親とちょうど同じくらいの年だったのもあるかもしれない。
とりあえず3か月分の家賃を払っておいて、そのまま居残るか、別に家を探すか決めることにした。
「はむ家」の設備アレコレ
民宿自体も、わたしの想像をいい意味で裏切るような落ち着いた雰囲気で、わたしのほかには誰もいなかった。
はむさんによると、コロナの影響で日本人の客がぱったりこなくなったが、今は台湾人のお客さんから人気を集めていて、客足も戻りつつあるとのこと。
また、わたしのほかにも2人長期で滞在しているおじさんがいるらしい。
はむさんから、簡単に利用方法の説明を受ける。
まず、飲食は1階にある共用スペースで、とのことだった。
共用スペースにはゆったりとしたソファー、大きな円卓、そして勉強机が2つ。
壁にはテレビがとりつけられていて、もちろん誰でも視聴できる。
奥にはキッチンと冷蔵庫がそなえつけてあり、キッチンには皿・コップ・箸・鍋・まな板・包丁など、ひととおりの調理器具がそろっていた。(ただし調味料などは基本ない)
冷水機の水は好きに飲んでいいし、そばに置いてあるビスケットやお茶、コーヒーなども自由に取れるようになっている。
2階と3階は客室になっている。わたしが泊る4人部屋のドミトリーは2階だ。
ドミトリー内部もとても清潔だった。
部屋には二段ベッドが2つと簡単な化粧台。ベッドはカーテンが四方についているため、4人部屋とはいえどきちんとプライバシーが確保されているし、枕元にはライトもついていた。
トイレ(1階)とシャワー室(3階)はそれぞれ2つあり、共用になっている。
共用なのはちょっと…という人もいるかもしれないが、わたしはあまり気にならないタイプだ。トイレでは紙も流せるし、シャワー室には備え付けのシャンプーやリンス、ボディソープ、ドライヤーなどがある。
また、洗濯機(1階)も10元(※約50円)で利用可能だし、洗った洗濯物を干せるスペースがドミトリー・シャワー室の隣のドライルームに確保されている。
はじめての台南メシ
ひとしきり内見(?)を終えたので、はじめての台南飯を食べにいくことにする。
荷物を整理してから共用スペースに降りると、一人のおじさんがむしゃむしゃ弁当を食べていた。
はむさんが言っていた、長期滞在者の一人だろうか。
ザージーパイと少量の野菜が入った、隔離ホテルを彷彿とさせるような内容の弁当をかきこんでいる。
丸顔のおじさんで、灰色のTシャツに半ズボン。いかにも台湾らしい雰囲気だなと思った。
おじさんは人懐っこい人で、私を見るとすぐなんやかやと話しかけてくれた。
ついこの前まで、同じように日本人の女の子が1か月ほど泊っていて、その子の世話を焼いていたので、日本人にある程度慣れている(?)とのことだった。
日本語は全く話せない。(ただ、なぜかオトーサン、オカーサン、バカヤロウは知っている)
彼に、隔離ホテルのごはんは脂っこくて少し飽きたので、サッパリしたものが食べたい、なにかあるか、と聞いた。
すると彼の答えはといえば、うーん、そういわれても…。そうだな、火鍋かな??とのことだった。
え、火鍋?サッパリ???
いろいろと困惑していると、どうも台湾では日本と違って、おひとり様で食べられる火鍋料理店というものが多いらしい。これは知らなった。日本だと、火鍋と言ったら一人1500円~2000円はしそうだし、そもそも一人で行くというイメージがない。
まあそれは一旦置いておくにせよ、火鍋がサッパリしてる、というのはなんだか違う気もした。
挙句の果てには、カップ麺なら野菜も肉も入っているしヘルシーだ、などと言い出す始末…。
やれやれ、自分で探すしかないか。
といっても、どこがいいのかもよくわからないし、長旅で疲れていたので、適当に近くにあった店に入った。
はじめてのちゃんとした外食にドキドキしつつ、なんとか店員さんとコミュニケーションをとって400円~500円くらいの麺料理らしきものを頼む。(「魚」という字がメニュー名に入っていたので、まだしもヘルシーではないかと思った)
店内に入ってボーっとテレビを見ていると、ほどなくしてとろっとした汁がたっぷり入ったそれが運ばれてきた。
甘酢のような味付けで、塩味はぜんぜん感じなかった。そして、中には少量の玉ねぎとよくわからない魚、焼きそばの麺のようなものが入っている。
個人的に甘酢のような味付けはあまり好きではないのだが、好きな人にとってはかなり美味しいんじゃないかと思う。お店のちょっと汚い雰囲気、気さくな感じの店員さんからも、ああ、台南に来たんだな~ということを実感させられた。(ちなみにヘルシーではないと思う)
そのあとも少しだけぶらぶら散策し、そばにある廟や、新北と比べてずいぶんゆったりとした雰囲気の街をながめた。
まだわからないことだらけだが、直感的に、「この町が好きになれそうだ」、そう思った。