小説『集落街』無料試し読み その3
襖の奥の部屋は、電気が灯っていない。気の集中には暗闇が適している。十歳の少女が横長のソファに寝転がっている。金髪のストレートが綺麗に垂れ、白のワンピースの腹のところで、丸い水晶を手に包んで気を集中させている。名をリリー。
リリーの顔を覗きこむ、スキンヘッドのずんぐりとした体躯の白衣の男 、「問題は、ないようですな」と言う。名はロロ。医者。
部屋の端に立っている、整った身なり、タイトなスーツに身を包んだ長身痩躯な男。眼鏡を指で押さえて咳を喉元で堪える。名を西成。役割、秘書。
リリーの傍で片膝ついて見守る女性。我が子を支えたいが、そのためには沈黙が一番適していると判断した綺麗な母。じっと我慢している。名をシンシア。長夫人。リリーの母。
リリーの寝そべるソファに向かい合う形にある革のソファには、オールバック、百九十センチの大柄な男が座っている。屈強な筋肉をオーダーメイドのスーツに包み、汗ひとつかかず、娘を見守っている。太い指には、一つ、指輪――左手の薬指。名をチュウジ。役割、長。
リリーは寝そべりながら、〝街〟の底部を感じる。そこから、エネルギーが突き上げられてくる。それに自身の能力を乗せればいいということは、もう学習済。
「どうやら、たどり着いたようですな」ロロが言う。
リリーは、流れに乗せて、最良のタイミングで、口を開く。
「いつまでもそんな辛気臭いところにいるんじゃないわよ」
変声期前の声は、やや生意気。
それを聞いたチュウジ、テーブルに置かれた資料――西成がまとめた――を夜目で、ちら、と見る。本人に気づかれないように撮った写真には、右目を隠すヘアスタイルの、青年。
求 (きゅう) という名前の青年は、こうして〝街〟から呼ばれた。
その4へ続きます
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