【記録】2020年のマーケティング組織_DHBR_2014.10
マーケティング戦略について調べる機会があり、2014年のダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)のマーケティング特集号(2014年10月号)を読んだ。
記念すべき1回目のnoteには、本特集の冒頭に掲載された「2020年のマーケティング組織」の内容のピックアップと、それに対して自分が考えたこと・感じたことを書き留めておきたい。
本論に入る前に、最近学んだマーケティング戦略の背景を簡単に記載しておく。
マーケティングは、単なる広告やブランディングを担う一部門から、全社戦略を下支えする横断組織へと転換する流れの中にある。ITやシステム部門が全社のテクニカルなインフラを担うのに対して、意識的なインフラ(志向性の統一)をマーケ部門が担うと言っても良いかもしれない。
この背景には2つの事象がある。
1つは、グローバル市場での苛烈な競争や、地政学的リスクを主要因とする環境の不安定さにより、非線形な事象が生じやすくなっているということ。平たく言えば、過去の延長線上に未来があるわけではないということであり、緻密な計画よりも柔軟かつ迅速な変化対応が重要になる。そのためには、戦略と顧客接点とのリンク(情報共有)がスムーズになされなければならない。
そしてもう1つは、顧客のシームレスな体験(例えば店頭とWeb上の両方で自身が検討しているサービスを確認できるなど)の提供が求められているということ。これを実現するためには、物流・販売など各部門がリアルタイムで顧客情報を共有し、連携して動かなければならない。つまり何らかの形で部門に横串をさす必要がある。
これらの2つの事象を元にして、全社戦略とマーケティング(とTech)の結びつきが強固なものとなってきている…ということだ。
さて、ようやく今回の本論、DHBR2014.10月号「2020年のマーケティング組織」(P.24~P.35)の内容に入っていく。
本稿は、グローバル・マーケティング戦略コンサルティング会社:ミルウォード・ブラウン・フェルメール社の2人が起案したマーケティング・リーダーシップ研究プロジェクト「マーケティング2020」の成果を元に書かれている。
この研究プロジェクト、
・350人以上のCEO、CMO、代理店責任者への詳細な定性インタビュー
・CMOを集めての10回以上の円卓会議
・92か国、1万人以上のマーケターを対象とした定量オンラインアンケート
を行っい、ハイパフォーマーとローパフォーマーの違いを調査したものである。
※なお、ハイパフォーマーとローパフォーマーは、3年間の売上成長率(対競合比較)によって分けられたとの記載がある。
以下、本稿の目次内容に沿って書き連ねていく。
++++(目次)++++
1.ハイ・パフォーマーに共通するマーケティング原則
ⅰ.ビッグデータと深いインサイト
ⅱ.意義あるポジショニング
ⅲ.顧客との関係を強化する全方位的経験
2.組織の成長を支える五つの要因
ⅰ.連携
ⅱ.発奮
ⅲ.焦点
ⅳ.機動的な組織
ⅴ.ケイパビリティの蓄積
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1.ハイ・パフォーマーに共通するマーケティング原則
ⅰ.ビッグデータと深いインサイト
マーケターは顧客データを山ほど入手するが、ターゲティングを改善するといったごく狭い方法でしかこうした情報を活用していない。優れたパフォーマーは、これらのデータを「なぜ」そうするかというナレッジに統合する能力に優れている。
これはマーケティングに限らず戦略等でも見られる“あるあるネタ”で、数値を意味と切り離して扱ってしまうことで生じる問題だ。データ(数値)の改善だけを考えてしまうと、根本課題までたどり着くことが出来なくなってしまう。
これは、顧客価値よりもKPIなどの定量指標が重視される企業文化の中で起こりやすい事象である(定量指標が悪いわけではないが、バランスの問題)。データは貴重な素材であり指標でもあるが、それが手段の側から目的の側に移った時点で、データの本来の有効性は失われる。
ⅱ.意義あるポジショニング
ブランドの意義は、機能的ベネフィット(機能面のニーズを満たす)、情緒的ベネフィット(感情面のニーズを満たす)、社会的ベネフィット(フェアトレードなど)の3つである。
ブランドの意義が強力かつ明確であれば、顧客を巻き込み、従業員を発奮させることに加えて、組織全体の動きがさらに一致し、あらゆる顧客接点でメッセージの一貫性が保たれる。
これ(2つ目)は完全に合意である。
本論とは少しずれるが、私自身の考えとして、
・企業ビジョンが確立・周知されている
・企業ビジョンに合致した企業戦略が実際にとられている
・企業ビジョンに共感する/誇りを持つ/プライドを持つ人が集まっている
・企業ビジョンに則した判断ならば一定の裁量が与えられる
という4つの条件が満たされた時に、従業員個々人のポテンシャルが活かされ、事業環境の変化にも柔軟に対応できる強い組織になるのではないかと考えていた。
「事業環境の変化柔軟に対応できる強い組織」という話は、リーダーシップ論の文脈でもよく登場してくる。先ほどは企業ビジョンという抽象的なものを扱ったが、リーダーシップ論では強い組織を作る(束ねる)のは属人的な力、つまりリーダーの力であるとする。
具体的には、
・属人的な巻き込みの力を使うリーダーシップ的方法
・ルールとしくみの力を使うマネジメント的方法
の2つがあり、リーダーシップ型は有事/変革時に必要、マネジメント型は平時/継続的遂行で必要と切り分けられている。
しかしこの切り替えが頻繁に求められる現代では、マネジメント型の組織運営が容易でないのは勿論のこと、大規模な企業ではリーダーシップ型も効きにくくなる。300人を超えるような企業であれば、属人的に組織の一体感を醸成するというのは非常に難易度の高いタスクである(歴史的にも証明されている)。
私は、これらに代わる一体感醸成の根源として、「意識/判断基準の自律的な集約と、それに則した柔軟な判断が可能な企業文化」が不可欠であろうと考える立場である。
やっと本論に戻るが、そのための材料として、本稿では「企業ビジョン」ではなく「ブランド」が示されている。ただし意味合いは似通っており、むしろ「ブランド」の方が社内だけではなく顧客とも一体感が増すという点で、より有意ではないかと思った次第である。
ⅲ.顧客との関係を強化する全方位的経験
製品やサービスを好みに合わせた仕様とすることで顧客との関係を深めている企業もあれば、顧客接点を増やして関係の幅を広げることに注力している企業もある。ハイパフォーマンス企業はその両方を実行し「全方位的経験」を提供している。
2.組織の成長を支える五つの要因
組織の有効性を高めるための5つの要因として、
ⅰ.マーケティングを事業戦略やマーケティング以外の部門と連携させる
ⅱ.あらゆる層の従業員をブランドの意義に深く共感させることで組織を発奮させる
ⅲ.従業員を少数の優先課題に集中させる
ⅳ.機動的な部門横断型チームを組織する
ⅴ.成功に不可欠な内部のケイパビリティを蓄積する
と述べられていた。
ⅰ.連携
よくあるのが、全社の事業戦略とは直接関係しないブランド目標やマーケティング目標(ブランド・エクイティの拡大など)を追求することだ。今日、ハイパフォーマンス企業のマーケティングリーダーは、単に自部門の活動を全社戦略に合わせるだけでなく、全社戦略の立案に積極的に関与している。
マーケティングのためのマーケティングになってしまった場合は、人事評価制度設計を見直すべきであろう。
マーケティングが他部門と同じ事業目標のために戦っていることが実証されると、全部門で信頼やコミュニケーションのレベルが高まる。社内の連携を強化するためには、マーケティングを含む複数の部門を一人のリーダーに任せる方法もある。マーケティングとITのシニア・ヴァイス・プレジデントの兼任など。
複数部門の統括がメリットをもたらすというのは、概念としては理解できるが、実質的に非常に大きな負担となることが予想される。とはいえ、分担するよりも1人で兼務した方がメリットは大きそうである。
ⅱ.発奮
従業員同士の連携が強化されると、顧客と接する従業員が増えても顧客経験の一貫性が確保される。
発奮の鍵は、マーケティングが社外で最善を尽くしていることを社内でやることだ。つまり、魅力に満ちたメッセージやプログラムを作り、全員参加を促すのである。
この有効性に関しては重々感じているものの、社員の出入りが激しい場合になかなか定着しないという懸念がある。ここには企業ビジョンやブランドに対する共感・誇りが勤続年数と相関しているなど、「発奮」を引き起こす第三ファクターが隠れている可能性もある。
面白いと思ったのは、以下のような仕組みである。確かに転職回数があまり気にされない欧米企業では、有効な手段の一つになるのだろう。
有名な話だが、ザッポスは入社して4週間後に「いま辞めるなら3,000ドル(約33万円)を提供する」と伝えることで、企業文化・指針に感化されない人と効果的に縁を切っている。
ⅲ.焦点
ハイパフォーマンス企業は、「ローカル・マーケティングはグローバル戦略を理解している」と「グローバル・マーケティングはローカル・マーケティングの現実を理解している」という項目に賛同する割合が圧倒的に高い。
これは全社戦略と事業戦略の関係性に似ているが、マーケティングの場合はよりローカライズの重要性が高いと推測できる。だからこそ逆に、グローバル - ローカル間のリンクよりも、ローカル単体に注視・優先してしまうケースが多くなってしまうのかもしれない。
ⅳ.機動的な組織
企業は国際展開を進めるにつれて、グローバル規模であることのメリットと、ローカルに適応する必要性とのバランスをとれるように組織再編せざるを得ない。その結果、大部分のブランドが数年前よりもはるかに一元管理されるようになっている。
これもマーケティングだけでなく、R&Dなど他の場面でも見られる現象である。中央指揮官とベースの全社戦略があり、その上に個別対応、ということである。
マーケティング・チームは伝統的にゼネラリストが多かったが、ソーシャルメディアやデジタルメディアの台頭により、その構成が変化してきた。現在、優秀なチームは
・データや分析に焦点を当てる「思考」マーケター
・コンテンツや制作に焦点を当てる「行動」マーケター
・消費者エンゲージメントに焦点を当てる「感性」マーケター
という3タイプのマーケターをそろえている。
中心となるリーダーが「ローカル・チームは戦略を理解し、その実行のために協力する」という確信を持てる企業文化だ。グーグル、ナイキ、レッドブル、アマゾン・ドットコムはいずれもこの哲学を信奉している。ジェフ・ベゾスは「我々はビジョンにはこだわるが、細部には柔軟である」と述べたが、それはまさにこの精神の表れだろう。
ⅴ.ケイパビリティの蓄積
企業研修も重要であるとのことだ。
具体的な取り組み内容の例は以下。
【スタッフ】市場調査、競合情報、メディア・プランニングなどの伝統的なマーケティングとコミュニケーションの専門知識を身に付ける必要性
【シニア・マネジャー】消費性向、競合戦略、小売動向に関する専門知識を共有する
【シニア・リーダー】(現代ならば、キャッチアップのための)デジタル・メディア、ソーシャル・メディアに関する内容
【ディレクター】ポートフォリオ管理やパートナーシップ形成など戦略上の論点を重視
しかし「取り組みに顕著な違いがある」というわりには「ローパフォーマンス企業は年に半日、ハイパフォーマンス企業は年に丸2日近く」という程度の頻度差で、想定外に少ない印象であった。
以上、だいぶ長くなってしまったが、今回はこのまま載せて、次回以降の書き方を考えたい。
※情報は原典掲載時点(2014年7月)のものであり、現在とは異なる可能性があります。
【出典】
「2020年のマーケティング組織
1万人超マーケターへの調査から読み解く」
Diamond Harvard Business Review, October 2014. pp.23-34.
マーク・デスワーン・アロンズ Marc de Swaan Arons
グローバルマーケティング戦略コンサルティング会社
“ミルウォード・ブラウン・フェルメール” 最高マーケティング責任者
同社前身“エフェクティブブランズ” 創業者
フランク・ファンデンドリースト Frank van den Driest
グローバルマーケティング戦略コンサルティング会社
“ミルウォード・ブラウン・フェルメール” 最高コマーシャル責任者
同社前身“エフェクティブブランズ” 創業者
キース・ウィード Keith Weed
“ユニリーバ” 最高マーケティング・コミュニケーション責任者
“マーケティング2020” 諮問委員会議長
※原典:“The Ultimate Marketing Machine” HBR, July-August 2014.
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