雨女、雨男
田代夏見 21歳
一応これでも学生なのだ。8月に生まれたから夏見、
でも夏は全然苦手。そして今は梅雨、最近空が泣い
てばかりいる。…この日も泣いていた。
私は町のパン屋さんでバイトをしている。
自慢じゃないが、うちのクロワッサンはまじで美味
しい!看板商品ももちろんクロワッサン。
この日は午前中でバイトを終えた。お店を出るとポ
ツポツと雨が降ってきた。今日天気予報見て来なか
った罰だと思った。私は傘を持ってない、その時後
ろから、
『彼女』、『彼女~』と声がした気がした。私が振り
向くと、メガネをして自転車に乗っている男性がい
た。「なんですか?」と私。『これ、じゃあ』と言
って傘を私に渡して、その場から立ち去ってしまっ
た。私は渡された傘をさして呆然としていたと思
う。男性の姿はもう見えない。私は帰ることにし
た。家に就いて傘を玄関にさして、部屋に入る。し
ばらくあの男性のことを考えていた。パン屋のお客
さんでもないし、考えないようにすればするほど考
えてしまうもものだ。それからも、しばらく考えて
いた。雨が降った日なんか強烈に考えてしまう。
傘を見つめても答えは出ない。
…
ある日私は用事で、代官山の蔦屋に来ていた。
この日も雨だった、傘を2つ持って出た
お目当ての本がなかなか見つからなくて、お店の人
に声をかけた。「あの…」振り向くとあの男性だっ
た!私は驚いて腰を抜かすかと思った。
男性の休憩時間に話した、パン屋のこと、それとど
うして傘を貸してくれたのか?
『負のオーラ出してから』
と、言って男性は笑った。それより、いつ会えるか
わからないのに、律儀に傘を持っててくれることに
驚いた。
と男性は言った。
それは私の性格なのだ。
男性に傘を返すと私は「それじゃ」と言った。
すると男性が、
『君の働いてるパン屋、クロワッサン美味しい?』
と言ってきたから
私は
「はい!」
と迷わず答えた。
それから数日後、私はいつものようにレジ打ちをし
ていた。
『クロワッサン下さい』
私が見上げるとあの男性だった。
『美味しいクロワッサン下さい』
と男性は微笑んだ。
私は赤ら顔でそれに答えるのであった。