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ともえちゃんのラリアート

全二話





10年前 18才



私たちは友達だ。ともえちゃんとはいつも一緒にい


る気がする。それほど仲良しなのだ。帰りの方向が


同じというのもあって、仲良くなった。私たちは高


校生。三年生にもなると進路の話題が多くなる。と


もえちゃんには夢があった。女子プロレスラーにな


って、脚光を浴びること。夢のない自分にはそれが


凄く羨ましく思えた。小さい頃に観たキューティー


鈴木という選手が好きだったんだとか。プロレス


に疎いわたしは、ともえちゃんの話に相槌を打つこ


としか出来なかった。それでもともえちゃんと過ご


す時間は私の中で特別で楽しいものだった。


ともえちゃんは喧嘩が強い。私がちょっとイジメに


あうと相手をボコボコにしてしまう。だから私はイ


ジメにあう事がなくなった。『美保は進路どうする


の?』ともえちゃんが訊いてきた。(ともえちゃんは


ボソボソ喋る、それが可愛いのだけど。)私の家は貧


乏だから進学は考えてない、私も勉強したい事がな


いし。


だから働いて家にお金入れると思う。そんな事をと


もえちゃんに言った。ともえちゃんは『ふ~ん』と


言っていた。














10年後 28歳



『はい、わかりました。宜しくお願いいたします』



美保は忙しく働いていた。都内にある携帯カスタマ


ーセンターで働く美保。その中で一応リーダーだ。


部下達からは好かれている。付き合いで飲みに行く


ことも少なくない。この日も飲みに誘われていた


が、美保はともえちゃんと飲む約束をしてたのだ。


待ち合わせは新宿西口のバスロータリーにした。


美保は仕事を早く片付けて、会社を出た。まだ5月だ


というのに蒸し暑い。美保は待ち合わせ場所に着い


た。遠くからでもともえちゃんとすぐわかる、ダボダボ


したTシャツにジャージという格好だ。大きなバッ


クを斜め掛けしている。私たちは約3年ぶりに再会し


た。とにかく嬉しかった。とりあえず居酒屋に向か


った。


個室タイプの居酒屋にした。私もともえちゃんもビ


ールにした。ビールが届いてカンパイした。冷たく


て美味しかった。ともえちゃんは腕やら、首やらが


傷だらけだった。おでこにも傷があった。しかも前


歯がなくなっていた。「仕事大変そうだね…」私はつ


い口にしていた。ともえちゃんは『自分で選んだ道


だからね。』と呟いた。ラリアートという技がとも


えちゃんの得意技らしい。やり過ぎて右腕が痛いと    


言った。今度『金網電流デスマッチ』をするから観


においでよと言ってくれた。












結局、私は流血、金網、電流、とやらが怖くて観に


行けなかった。それと仕事の疲れもあった。ともえ


ちゃん程の疲れではないが、私にも疲れは溜まる。


ともえちゃんは無事だろうか?ともえちゃんの団体


は滅多にメディアに出ない、小さな団体だから結果


がわからない。本人に電話してみたが、留守電にな


っている。LINEを送ってみた、しばらくすると画像


が送られてきた。包帯ぐるぐる巻いて、足を吊って


るともえちゃんの写真だった。私はなんだかそこま


でしなくても…という思いしか出てこなかった。


居酒屋で言ってた『自分で選んだ道だからね。』


その言葉の意味をもう一度確かめていた。














良く晴れた日だった。ともえちゃんが入院先の病


院から退院出来たその日は。でもまだ松葉杖は必


要なともえちゃん。私が退院の荷物を持って私の小


型自動車のトランクに詰めた。「ともえちゃん狭く


てごめんね、じゃあ、ともえちゃん家向かうね!」


私はそう言うと車を動かせた。『美保の運転なんて


初めて』ともえちゃんは笑った。40分ぐらい進んだら


カーナビがともえちゃん家の新高円寺付近だという事を


教える。この辺は道が狭い、サイドミラーぎりぎりで


小道を進み。ようやくともえちゃんの住むコーポに


着いた。


私は近くの駐車場に車を入れて、それからともえち


ゃんの部屋へ向かった。

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