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愛すべき嘘つく人たち その1

「嘘つきは泥棒の始まり」子どもの頃、大人によく言われた。「正直に言いなさい」そんな言葉とセットになって。

嘘をつくのは本当にいけないことなんだろうか。

嘘って何?

不都合なことを言わないのは嘘?

似合わない服を着ている友人に
「それ、似合わないよ」と言う代わりに
「わあ、個性的な服を着ているんだね」と言うのは嘘?

"white lie"(罪のない嘘)と"black lie"(悪意のある嘘)の境目は何?

小さな嘘はたくさんついてきた。自分を守るための嘘。そういう私は嘘つきでダメな人?

小さい頃からずっと考えてきたことの一つだ。

これまでの人生で何人か、すごい嘘つきに出会ってきた。どうしてそんな嘘をつくのだろう、当時は多少なりとも怒りを感じたり、理解できないと距離をとったりした人たち。でも、今、その大嘘つきたちを受け入れることができるようになってきた。心からのコンパッション(共感)を感じて、ああ、私が出会うべくして会った、愛すべき人たちだったと思うようになった。

一人ずつ、そう言う人たちのこと、書いていこうと思う。

まず、一人目。

彼女には私が10代の頃、アメリカに語学研修に行った時に出会った。アメリカのとある語学学校のESL(English as a second language 英語が第二言語の人たちのための英語)のクラス。同い年の日本人の女の子で、長い黒髪、個性的な美人。どこか不器用さというか、暗さみたいなものを感じる人でもあった。話をするとすぐに、彼女がとても賢い人だと分かった。英語力もかなり高い。

ところが、クラス分けテストをしたら、彼女は下のクラスに振り分けられてしまった。私は上のクラスだった。

「もう一度テストを受けさせてもらったほうがいいよ、絶対、上のクラスに入れるよ」

私だけでなく、彼女を知る他の人は皆言った。

彼女は
「そうかな〜」
とは言いながら、数日は下のクラスにいて、その後、
「やっぱり、先生が上のクラスに行きなさいって言ってくれた〜」
と言って、上のクラスに編入してきた。

彼女は、クラス分けのインタビューテストのようなところでパッと自分の英語の実力を示せるような器用さは持ち合わせていない、そういうところがあったのだと思う。

ともあれ、私と彼女は同じクラスになり、英語の授業だけでなく、語学研修とセットになっている観光プログラムやイベントなどにも一緒に参加するようになった。買い物やBBQ、美術館に行ったり、スポーツをしたり、いろいろなプログラムを、皆、楽しんでいた。10代の女子らしく、恋愛の話などもした。彼女は恋愛に関しては、当時の私よりもずっと経験があり、その頃の私にとってはかなり刺激的な話をしてくれたりもした。そんなふうに、彼女との絆を深めていた。

ある日、リバーラフティング(川下り)に行くイベントがあった。川で濡れる可能性があるので、服装は水着の上にTシャツ、短パンを履いてくるように言われた。彼女は、
「私は参加しない、みんなが川下りをするのを見てるから」
と言って、いつものように長ズボンでやってきた。そしてツアーの車でみんなと一緒に乗ってきた。ゴムボートで川を下るラフティング、やれば絶対楽しいのに・・・と思ったけれども、人によっては怖かったり、露出の多い服装をするのが嫌な人もいるだろうからと思った。私たちは、カバンなど川下りに必要ないものは全部、車に置いて、ラフティングに出発した。ラフティングは最高にスリルがあって、楽しくて、みんなでゲラゲラ笑いながら過ごした。彼女は私たちの川下りの様子を写真に撮ったりしてくれていた。

それから数日後、ESLプログラムの最終日には卒業パーティーがあり、各国で出し物をやったりした。私たち日本人チームは二人羽織を取り入れて、コメディ劇をやったりして、みんなの笑いをとった。そんな時も彼女はニコニコしながら一緒にやっていた。

(そういうパーティーの間、私たち日本人は治安の良い国育ちならではの不用心さで、お財布の入ったカバンをぽんと机の上に置いたりしていた。)

ESLプログラムが終わってからも、私は、しばらくホームステイ先の人のところに泊めてもらっていた。そのホームステイ先の人に遊びに連れて行ってもらっていた時、財布を開けたら、ハッと気づいた。クレジットカードがない。親にもらった家族カード。ない。無くした?取られた?どこで???

焦ったけれどとりあえず、母になくしたことを電話で連絡。母が日本からクレジットカード会社に連絡して、止めてもらった。私がカードがないと気づいたのは、なくなってから何日目のことだったのか自分ではわからない。そして、時差もあるので止めてもらうまで、なくしてからクレジットカードを止めてもらうまで、おそらく3日間ほどあったのだと思う。

その後、数日で私は日本へ帰国。

帰国後すぐ、驚いたことに彼女から私の自宅に電話があった。当時、まだ国際電話の高い時代。時差もあり、おそらく早朝だったかと。私は半分寝ぼけていたような覚えがある。そして、彼女は言った。

「クレジットカードをなくさなかった?」

私「あ、なくしたよ」

彼女「私、それ拾ったの。持っているから送ろうと思う。」

私「ん??そうなの?あ、でも、もうそのクレジットカード、止めてもらったから、もうどっちでもいいの。もう使えないから。」

彼女「そうなんだ、でも、一応、送るね。」

短い電話は終わった。

私は母に

「クレジットカード、私落としたらしい。電話してきた日本人の友達の人が拾ったって〜」

と言った。

数週間後にクレジットカード会社から、私がなくしたカードで10万円ほどの買い物がされていて、購入時に漢字の名前でのサインもされているようだと連絡が来た。請求書から察するに、デパートでの買い物約10品、おそらくバッグや細々したものなど様々なものを買っている。2日間くらいの間に、すごい勢いで。

その請求書を見て、私と母は気づいた。

あ、その日本人の彼女にクレジットカード取られたね、それで、クレジットカードが急に使えなくなって驚いたからか、バレたと思ったのか、電話してきたのね、、、と。

そう、私は、彼女のそばに何度も、自分の財布を入れたカバンを放置していた。リバーラフティングで、フェアウェルパーティーの会場で。他にもたくさんチャンスはあったのだろう。彼女は私の財布の中にクレジットカードがあることを知り、ふと盗んでしまったのだろう。

クレジットカード会社は、紛失による本人以外の買い物であると認めてくれ、私は支払いをせずに済んだ。彼女が盗んだという証拠もないので、私は彼女に連絡をすることも、そのことをクレジットカード会社に報告することもしなかった。でも、ほぼ、彼女が盗んだことは確実だった。

それから数ヶ月後、一緒に留学をしていた別の友人から連絡があった。私は2週間ちょっとで帰国したけれど、最初に私に電話してきた彼女も、今回電話してきた友人もそのままアメリカに残って、長期留学を続けていた。

その友人は言った。

「お金を盗まれちゃったの。それで、多分、私がカバンを〇〇ちゃん(例の彼女)に預けた時なんだよね・・・、そんなことってあり得ると思う?」

と。

ああ・・・・と思った。

ああ・・・彼女はやっている、何度も、同じようなことをいろんな人に。

もはや彼女の話の何が本当で何が嘘なのかはわからないけれど、彼女は確か、結構裕福な家の一人娘だったはずだ。アメリカに長期留学をぽんとさせられるくらいの家庭だから、それなりではあったはずだ。持ち物や言動を考えてみても、お金に困っているふうはなかった。

お金を盗まれちゃったと連絡してきた彼女も、だからなぜ、彼女が人からお金を盗む必要があるのか全くわからないと言っていた。私も、本当に彼女が盗んだのかどうかも証拠はないし、とにかく、これからは気をつけてあまり付き合いをしない方がいいと思うとだけ伝えた。

なぜなのか、それは今もわからない。

何か、理由があったのだと思う。彼女なりの。そして、罪の意識もあった。だから、私にクレジットカードを返すとわざわざ連絡してきたのだ。

どれだけ、ドキドキしただろう。
どんな気持ちでカードを使い、買った品物を使っているんだろう。
どんな気持ちで私に電話してきたんだろう。

彼女は今もアメリカにいるんだろうか?
今も、嘘をつきながら生きているんだろうか。

嘘つきは泥棒の始まり。
そう、彼女は嘘つきで、泥棒なんだと思う。

ここまで書いてみると、私自身がなぜ、「愛すべき」嘘をつく人たちというタイトルでこれを書き始めたのか、ふと、わからなくなってきた。愛すべき?なぜ、愛すべき、なのか?

私がこれから一人一人、私が出会ってきた大嘘つきな人のことを書いていけば、きっとなぜ、愛すべきなのか、少しずつわかってくるに違いない。

コンパッション、きっと、それだとは直感している。

彼女の心の闇に、私は共感し、憐れみを感じているのだと思う。



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