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ほとり座で(坂本龍一「Opus」)

天命とは何か。物心ついてから私がずっと考えていることの一つだ。何をするために、ここへやって来て、ここにいるのか。

ほとり座(富山市)にて、坂本龍一の最後の映像収録であるコンサート映画「Opus」を観てきた。人生の最期に、探求し、模索しながら表現する坂本龍一の姿に心打たれた。「お前の天命を全うせよ」と言われている気がした。

坂本龍一自身が選曲した20曲。「日本で1番音のいいスタジオ」東京のNHK509スタジオで収録されたこのモノクロのコンサート映画。この映画を音のよい小さな富山の映画館「ほとり座」で観れたのは本当に嬉しい。大きなコンサートホールでライブで聴くよりも、音が良かったのではと思ったくらい。臨場感という言葉では表現しきれない、音が、響きが、私の魂を揺さぶった。一曲目から、涙がぽろぽろと。

彼のピアノはオーケストラを聴いているような壮大さと様々な表情があり、目を瞑って聴くと、私は色や映像や香りのようなものを感じる。もちろん多くの曲が映画のために作られたということが影響しているのかもしれないけれど、観たことのない映画曲でも、初めて聴く曲でも、その感覚はやってくる。

バッハ、ドビュッシー、ヴェートーヴェンなど偉大な作曲家の曲を聴くと、ああ、これは人智を超えている。何か偉大なるもの、神々しきものを地上に下ろしたものだと感じることがあるけれど、坂本龍一の曲もみんなそういう曲ばかりだ。しかも、彼は恐ろしいまでの鋭い感受性で、私たちが今受け取るべき偉大なるものからのメッセージをキャッチすることができる。そして、そのメッセージを音楽という形で表現して、私たちに伝えてくれる。絶え間なく起きる様々な自然災害や戦争や事件、多くの苦しみの中で生きている私たちを癒すために必要な音楽を、絶妙なタイミングで彼は表現してきた。だから、世界の人にこれだけ受け入れられ、多くの人の魂を揺り動かしてきたのだろう。

この映像の監督は、坂本龍一の息子である空音央(そら・ねお)さん。彼だから撮れた映像。モノクロの世界の中で、満月のようなライトが光るスタジオでピアノを弾く坂本龍一がふと、「今日はこのくらいにしとくか」とか、「ん、もう一回・・・」のように言葉を発する場面も入っていて、これが父が監督である息子にかけていた言葉であることを知ると、また沁みる。最期の近い偉大な父親である坂本龍一を見つめる息子の視線がこの映像になっている。痩せた体、たくさんの音楽を奏でてきた使い込まれた手。

愛しく、そして私は決して感じることができなかった父と子の深い関係。

20曲のセットリスト

Lack of Love
BB
Andata
Solitude
for Johann
Aubade 2020
Ichimei - small happiness
Mizu no Naka no Bagatelle
Bibo no Aozora
Aqua
Tong Poo
The Wuthering Heights
20220302 - sarabande
The Sheltering Sky
20180219(w/prepared piano)
The Last Emperor
Trioon
Happy End
Merry Christmas Mr. Lawrence
Opus - ending

この20曲の中で、私にとって思いが深いのは、ラストエンペラーだ。あの映画を観た時に感じた壮大さは、今でも忘れることができない。
https://youtu.be/fTtCXTry0DU 

シェルタリングスカイ 
https://youtu.be/LGs_vGt0MY8 
も大好きな曲だ。

YMO、忌野清志郎やダウンタウンとのコラボ。おどけたり、突拍子もない格好をしたりする坂本龍一。デビット・ボウイと共演した「戦場のクリスマス」でのシリアスな、でもどこかぎこちない演技。そして、この曲。https://youtu.be/LGs_vGt0MY8 なんて多才な人なんだろう。

鑑賞後、いろいろ検索していたら、この映画も、あの映画も、坂本龍一の音楽だったのか、、、というものがたくさん出てきた。中でも、日本の公害病“水俣病”を取材したフォトジャーナリストのユージン・スミスをジョニー・デップが演じた 『MINAMATA-ミナマタ-』(2021)https://youtu.be/av4xEkE5j8k や、韓国系アメリカ人のコゴナダ監督が、人型ロボットが一般家庭に普及した近未来に生きる家族を描いた『アフター・ヤン』(2022)などは、私がとても気に入っている映画だ。 

『アフター・ヤン』は、特に、前情報なく、ほとり座で上映されているから観てみたら素晴らしかった映画で、テーマ曲「Memory Bank」の美しい響きは、人型ロボットでのヤンのメモリーバンクの「愛」を感じる映像を思い出させてくれる。

私は子どもの頃から文章を書くことが好きで、書くことは仕事の一つでもあった。でも、しばらく本格的に書くことと向き合うのはやめていた。本当に書きたいことを書く場所がないような気がしたり、一体なんのために、誰のために書くんだろうと思ってしまったり。Noteで書いてみよう、心のままに。そうふと思えたのは、このOpusを観て、「天命を全うせよ」の声を聴いたからだ。これから、少しずつ、心のままに、書いてみようかと思っている。


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