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愛すべき嘘つく人たち その3

ゆう子ちゃん。
まさか夢に出てくるとは。
嘘つく人たちのその3には、本当は違う人を書こうと思っていたのに、ゆう子ちゃんがどうも登場したいようで。

ゆう子ちゃんが夢に出てきたのはとても意外でした。私とゆう子ちゃんは小学校1、2年生の頃、クラスが一緒で何度か家に遊びに行ったけれども、クラスがバラバラになってからはほとんど付き合いがなくなり、私も途中で転校したのでもう何十年も連絡もなければ、どこに住んでいるかもお互いに全く知らないからです。

それでも、私の夢の中に出てきたと言うことは、私の記憶の中でとても大切な何かがあったのだろうと思うので、ゆう子ちゃんのこと、書いてみることにします。

「ねえ、うちに遊びに来て。」
小学生にとって、うちに遊びに来てと招待されることは、他のクラスメートよりも一歩親しい中になることだと思う。ゆう子ちゃんにそう誘われたのはとても意外な感じがした。ゆう子ちゃんはいつもきちんとした服を着て、ピンと姿勢がよく、挨拶をきちんとする、いわゆるお行儀のいい子のイメージだった。私は、もっと自由でリラックスした感じの子どもで、へえ、ゆう子ちゃんが私と遊びたいのか〜と不思議な感じがしていた。

ともあれ、ゆう子ちゃんの家に遊びに行くことにした。

ゆう子ちゃんの家の近くの町内会館で待ち合わせて、家に向かった。そしてしばらく歩いたあと、ゆう子ちゃんは立ち止まって真剣な顔で私を見つめて言った。

「あのね、おばあちゃんが家にいるの。それでおばあちゃんが出てきたら、『おじゃましてます。いつもゆう子ちゃんにお世話になっています。』って必ず言ってね。」

確かに、それが礼儀ね、とは思ったものの、「お世話になっています」って、私、ゆう子ちゃんにお世話になってたかなあとか思ったりした。

ゆう子ちゃんの家に着くと、居間にはおやつ用のお菓子が入ったお皿があった。アメやチョコ、クッキーなどを食べながら、本を読んだり、おしゃべりをしたりした。しばらくすると、おばあちゃんがガラガラと入ってきた。

私が

「おじゃましています。いつもゆう子ちゃんにお世話になっています。」

と言うと、

「あら、ごていねいに。どうぞ、ゆっくりゆう子ちゃんと遊んでやってくださいね。」

と奥の部屋に戻って行った。どんな怖いおばあちゃんかと思っていたけれど、ごく普通のおばあちゃんだった。ゆう子ちゃんはそのやりとりを息を詰めたような緊張感を持ってみていた。そして、おばあちゃんが行くと、ほっとしたようだった。

それから、ゆう子ちゃんは、アイドルの歌の歌詞の載っている雑誌を持ってきて、

「どれ歌う?」

と。私は、アイドルの歌番組は見ていなかったし、どの歌も知らなかった。

「え、私、歌えない〜」

と言うと、

「じゃあ、私が歌うから、お客さんをやってね」
と言われ、ゆう子ちゃんはノリノリで何曲も何曲も、アイドルの歌を歌った。途中で疲れたのか、

「お菓子の時間ということにしよう。コンサートの係の人のふりして、お客さんにみんなお菓子を配って。」

と言われた。私は、え、そんな演技しなきゃいけないの?と思ったけれど、仕方なく、

「それではお菓子を配ります〜」

とか言いながら、お菓子を配る真似をした。ゆう子ちゃんは満足して、自分もお菓子を食べて、ジュースを飲んで休憩した。そして、

「帰る時には、おばあちゃんに聞こえるように大きな声で『ごちそうさまでした。おいしいお菓子をありがとうございました。』って言ってから帰ってね。」

と言った。
なるほど、それが礼儀だ。確かに母にもそういう挨拶は言ってから帰ってきなさいとは言われているけれども、友達に、セリフまで指定されたのは初めてだった。

翌日、学校に行くと、他の友達から言われた。
「ゆう子ちゃんち遊びに行ったんでしょ。おばあちゃんに、ちゃんとあいさつしてって言われたでしょ〜。」
私がうんと答えると、さらに
「あと、ゆう子ちゃん、ずっと歌ってたでしょ〜」
「ゆう子ちゃん、お母さん、ずっと前に死んじゃってるんだよね、だから、おばあちゃんに育てられてるんだけどさ、けっこう、おばあちゃんと二人でいるとこわいらしい。お父さんも家に帰ってくるの遅いし。」
と。

それから、数ヶ月後のことだ。いつも礼儀正しくて、ちゃんとしているゆう子ちゃんが、わんわん泣いていた。

一人の男の子がふざけて、ゆう子ちゃんの傘を取って投げてしまったらしい。そして、その傘が壊れてしまっていた。ゆう子ちゃんは本当に取り乱した感じで泣いていて、誰もなぐさめようもないような感じだった。いつものゆう子ちゃんでは考えられないような様子だった。

すると、私のそばにいた、他の子が私にそっと言った。
「あの傘、お母さんに買ってもらったって前にゆう子ちゃん言ってた。」
なるほど、あの傘は、お母さんとの思い出の傘だったのか。だから、あんなに泣いてしまったのだ。



・・・・

ゆう子ちゃん、
私のゆう子ちゃんに関する記憶はこれくらいしかありません。ゆう子ちゃんが、私のこの「嘘つく人たち」シリーズに出てきたかった理由はなんですか。確かにゆう子ちゃんは自分もお行儀の良い子のふりをしてたのかもしれないし、私にお行儀がいい子のふりをさせたかもしれない。でも、嘘というほどのものでもないでしょう。おばあちゃんもゆう子ちゃんと二人の時は怖くて、友達の前では優しいおばあちゃんになっていたかもしれないけれど、それも嘘というほどのものでもないでしょう?それとも、嘘をついていたのは私ですか?

ゆう子ちゃん、とりあえず、私はこの「愛すべき嘘つく人たち」を、思いのままに書き続けてみることにします。


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