0と1の狭間に
希望が好きだった。手札やロジカルな運命を知りながらも、奇跡だとか目に見えない力だとかそういった愚かなものを信じるしかなかったのだ。この命を繋ぐには。
出来損ないから脱することは出来ない。出来損ないであるか、冷静に考えれば尺度は様々なわけで、場面的には決して該当しないだろう。それを理解しきった上で、この世に「生を授かる」対価に「存在意義」を求められ、その尺度にはどれだけ足掻いたって届かないのだ。努力不足なのか、遺伝や先天的な限界値なのか。目指す場所を自分で選べればいい。自分の存在意義を自分で肯定できればいい。有能でも無能でも、尖っていても丸まっていても。この世に契約召喚して呼び出した人間から、指を刺されなければ、それだけで日常的な不服や不満はあれども本当は豊かさや幸福に満ち満ちているのだ。
自分だけは魂を穢さない様にと、私はこの世界には望まれていないからお暇した時に、遠くない未来にきっと出会う羽目になるだろうお天道様に恥ずかしくないように。誰かの評価を前提とした偽善や慈善では無意味だ。自分が人間にそうであってほしいように優しさと寛容さを体現してきたはずだった。
人間は穢いのだ。
悪意の有無ではない。故意でも過失でも、問題は大抵その後に映る。自己保身という名の、利己的な自己完結した世界。さっきまで相手の世界の登場人物だった私は、処理されるべき問題に変化する。今までそこに在った利他は、何度ボロボロで立ち上がっても、どうしても取り戻すことなんかできなかった。
運命。もっとロジカルに落とすなら、人を見る目が壊滅的にないんだろうな。結婚願望も出産願望も希薄だ。それは両親を反面教師に幼少期に自己暗示で自戒し続けて、大人になると自己完結の情動で冷静な判断力を失うと思ったから。こんな風にそんな物事を穿って生きなきゃいけない苦しみは最低だ。
給料三か月分の突然のプロポーズに涙を流して、妊娠報告をしたら泣いて喜ばれて、金銭的に豊かではなくてもそんな世界を見ると苦しくなる。不妊治療の辛さも知っている。それでも、心の熱量は違っても、時間やお金をかけてまでそれを幸せと願うのだ。
結婚願望や出産願望の希薄な私は、都合の良い人間だ。避妊に失敗したらアフターピルを飲ませれば良い、妊娠したら堕胎させればいい。そもそも生理痛が辛いならそれを慮るふりでもすれば低用量ピルで男性側の負担をゼロ以下にして快楽だけを貪れる。愛を囁いたって、そんなのはプレイを盛り上げるスパイスだ。責任も将来も愛情も、現実に近づけば途端にそれは重い地雷になるのだ。
倫理的に狂っていたとしても、グループ内で尺度が共有されて、誰かがスケープゴートになることのない幸せな家庭で育っていれば、幸せを願っても届かないことは無かったのだろう。
呪いに負けたくなかった。抗ったし戦ったし、泣くだとか傷だとかそんな温い世界じゃなかった。それでも、結局いつも漂着するのは、人を信じた結果だ。自業自得で涙も出やしない。
昔読んだ本で「エンジェルダスト」って麻薬をネックレスにしている人の話が印象的だった。ぶっとんじゃって死ねちゃう違法薬物。その本は自殺の方法を詳細に示したものだったけれど、その本自体が「いつでも死ねるんだから」と気楽に生きれるようになればいいと前書きに書かれていた。
睡眠薬を何年もかけて溜めた。市販薬のODで母は私を殺せなかったし、処方箋の致死量も過少記載しているだろうから。致死量の倍を遥かに超える量を、いつでも一気に飲めるようにボトルに詰めていた。先日終わらせようとしたそれは、若干のふらつきと頭痛と鼻血程度で終わってしまった。意識も失わないから救急車も呼ばれない。きっとラムネか何かの狂言だと思われたのだろう。部屋中の薬をかき集めれば、重篤な症状くらいにはなるだろうと思う。でももうそんなのは疲れたし、これだけ準備してここまで肩透かし喰らったら、もうどうでもいいね。
いつかどこかの世界線で、今よりは幸せを願ったり、人を信じられる場所に至れますように。
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