文章
*この作品には一部ショッキングなシーンや表現が含まれます*
(これはbfc6決勝戦用に書いた掌編です、また、以下は同内容のテキストとなります)
伊藤なむあひ「文章」
天使は商店街に並ぶすべて店の二階で正座している
天使はハーネスをつけられ散歩に出る
天使は棒で叩かれる
天使は人間によって棒で叩かれる
天使は人間の気分によって棒で叩かれる
天使はごみ集積所のネットの重しにされる
天使は小学生の運転する自転車に轢かれる
天使は公園の砂場に横たわっている
天使は犬猫におしっこをかけられる
◆そして
天使が自販機の下に挟まっている
天使が鉄棒に引っかかっている
天使が公園で一番高い木の一番高いところに引っかかっている
天使が市民体育館のとても高い天井のあのバレーボールがよくはさまっているところにも引っかかっている
天使が公衆トイレの個室に押し込められ口の位置にある穴に爆竹を詰め込まれている
天使が発泡スチロールを全身にくくりつけられ公園の横を流れる浅い川に流されている
天使がお弁当箱の空いたスペースに詰めるために指の先から細かく刻まれ丁度良い大きさのものを使用されおかずがぐらぐらするのを防いでいる
天使がメルカリの緩衝材として重宝されている
天使がメルカリで売れ残っている
◆かつて
天使の言葉が待たれていたこともあった
天使の言葉について人々はそれを予言と呼んだ
天使の予言は恐れられた
天使の言葉について、、、
天使の言葉ってなんだっけ?
天使の肉が食卓に並ぶようになる
天使の肉はまずくもうまくもなくキノコと魚の間みたいな歯応えがする
天使の自殺が相次ぐ
(天使のことはもう忘れなさい)
◆よって
天使を棒で叩いた青年が死んだ
天使を自転車で轢いた子どもが死んだ
天使を漬物石の代わりにした老人が死んだ
天使を描いた女性が死んだ
天使を食べた人間が死んだ
天使を数えた人間が死んだ
天使を美しいと感じた人間が死んだ
天使を知っている人間が死んだ
天使を夢で見た人間が死んだ
◆やがて
天使は自殺をやめた
天使が人間の真似をはじめた
天使のモノマネは天使に好評だった
天使を笑うものは他にいなかった
天使は人間と名乗ってみた
天使が「悪くないな」と言った
天使の声を聞いたのは天使だけだった
天使を見つけた人は連絡をください
天使は存在しません
天使は存在しない
天使は文章を書いている
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