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吐き戻しが多いのは昔からだった。食欲が落ちていたのも、ああ今年も夏バテかなんて気にもしなかった。こちらが撫でようとしても軟体動物みたいにぐにゃりとよけ、出社前の忙しいときや疲れて動けないときに限って「撫でなさいヨォ」と脛や肘に顔をこすりつけてくるのもいつも通りだったのだ。 異変を認識できたのはめずらしく私とネコの、撫でたい/撫でられたいのタイミングが合ったからだ。指先にはっきりと背骨と腰骨の感触があった。持ち上げてみると異様に軽い。 「おまえ、もしかして病気なのか」 ネ
ビルの前の水溜りがあるのを見つけた。薄いゼリーのような、どこか柔らかさを感じる水面。映った朝の光があまりにも綺麗で、わたしはそれを家に連れて帰りたいと思った。考える時間はなく、ビルに入っているお惣菜屋のアルバイトが終わってもまだ光がそこにいたら連れて帰ろうとだけ決め従業員入口に向かった。 お昼休みにどうしても気になり、わざわざ制服から着替えて水溜りを見に行くと光はまだそこにあった。従業員割引で買ったおかかおにぎりとカニカマ天を頬張りながら、誰にも気に留められることのない
生徒宅、もしくは各自治体が指定した施設で行われるオルタースクールでのオンライン授業の環境がようやく世界的に整備されたといえるタイミングで、正式に世界の共通言語がクリンゴン語に決定した。人口の激減によるアメリカの没落。イギリスの事実上の消滅。英語以外を母国語とする多くの国からの反発。理由は様々だが、最終的にはその時点で一番大きな力が働いたのだろう。これにより、ほぼすべての生徒がそれまで目にしたことのなかった人工言語を新たに学びながら学校に接続することとなった。 学校という