心象風景と心象画。
前回の絵画類型。
・具象絵画
・抽象絵画
・象徴絵画
これは、絵を描く前提としての【モチーフ(題材)が明確に在る】と言うことを前提にした分類だった。(椅子や建物のような具体的なものか、抽象的な概念のようなものかを問わず)
実は、モチーフがはっきりと在るような状態ではなくても、絵を描く場合が多いと思う。
日常生活で絵を描く場合、とくに目的もなくぼんやりと描いてみることもある。
自分の手や、部屋の花瓶の花、家族の顔など。
こうしたものは絵の題材として身近であるし、愛情や愛着のような気分が、題材を選ぶ動機になっているように思う。
もう少し変わった場合はならば、幼年期の記憶や旅行の想い出などをもとに、何かの風景やイメージを描く。
今現在の気分やイメージを漠然と描く、など。
絵のモチーフ(題材)を自分の記憶や気分のような方向に向かって探す場合、そのイメージとなるものは【心象風景】などと呼ばれる。
>心象風景(しんしょうふうけい)とは、現実ではなく心の中に思い描いたり、浮かんだり、刻み込まれている風景。現実にはありえない風景であることもある。
その心象風景をモチーフとして描いたものを、心象画などと呼ぶ。
心象画のモチーフとしては心象的な風景に限らず、心象的な物や人物・状況やその他、何らかの視覚的イメージ全般と考えて良いだろう。
『こころの中に思い浮かぶ』と言うニュアンスから、それは抽象絵画の抽象的モチーフのような広く一般的で普遍性のある概念よりも、絶えず変化する気分的・即興的なもの、と言えようか。
『こころの中に刻み込まれている』、つまりある程度は固定されたイメージがある場合でも、それは個人的イメージの性格が強く、それを観察する内省的気分のほうも変化する。絵を描くときの気分に応じて、描かれる絵の特徴が変化するような感じ。
比較的に広く長い目で見た場合、それぞれの時代や地域によって、人々の持つ心象が変わる。
心象はある程度は社会的に共有されていて、それがその時代ごとに、ある国や地域の文化的様式や流行になる。
鎌倉時代には鎌倉時代の人々が共有していた心象。
江戸時代には江戸時代の人々が共有していた心象。
現代ならば、現代社会の人々が共有する心象。情報化社会では、共有される心象も比較的に早いペースで変化するかも知れない。
情報化社会であっても、やはり共有される心象は地域によって差がある。
日常における生活スタイルや環境などの、それぞれの国や地域の違いから来るものである。
ごく個人的な心象のほうは、その個人にかなりはっきりと固定された心象(幼年期に作られたもの、それ以降でも心理的に何らかの強い影響を受けた場合など)がある場合があり、芸術などではこれが独特の個性として表現されることがある。
あまり固定されていない心象は、その人の基調になる日常的な気分性格、イベントや旅行などの刺激、本や音楽ほか他人のアート作品やエンターテイメント商品などから受けた一時的な影響、人との交流や会話、ちょっとした記憶や想い出など、日々のあらゆる生活体験がもとになっている。
こうしたものは、個人の内面で絶えず変化していて、揺らぎがあり強弱がある。
絶えず変化しているから、絵画で表現しようとしても、対象として捉えどころが無い感じになる。
表現したい気持ちはあるのに、何を描きたいのかはっきりせずにモヤモヤする、と言う感じになりやすい。
一時的にうまく描けた気がしても、後で見たらあまりよく描けていない気がする、と言うこともよくある。
心象が変化しているから、その絵を描いた時の心象と、後で見直してみたときの心象では、絵のイメージが変わって見えるのが一因である。
絵を描いた時とその後での、気分の変化や違いもある。
単純に、心象を描くための表現技法が伴わない、などの理由もある。
いずれにせよ、心象画は日常生活でも多くの人によって頻繁に描かれ、描かれようとしているはずだが、しっかりした作品として残りにくいのは想像できる。
つまり、心象をモチーフ(題材)にした絵が比較的に優れた絵画作品として成立するのは、ある程度の固定された心象があって、それを適切な技法を用いて、うまく表現できた場合である。
【心象画のモチーフ=個人的心象+時代的・地域的に共有された心象】
そして、モチーフになる心象をよく内省・観察・感知して、的確に表現する技術。
心象を固定したり内省する、と言うのは精神的鍛錬によっても可能かも知れない。
山や滝など特徴ある風景を繰り返し眺める、古典芸能や古典音楽を習慣的に鑑賞する、など。
都市の風景や一時的な旅行などは、比較的には心象が固定されにくいかも知れない。
心象画は非常に個人的である、または即興的であると言えるが、非常に個人的かつ即興的でありながら、他者の共感や理解が広く得られるのならば、それは【技法が適切であったり、目を引くようなもの】であり、【時代的・地域的に共有された心象が、絶妙なバランスで含まれている】ためである。
広く共感されやすい心象画は、
・絵のモチーフに、その時代その国や地域で共有されている心象を含む。
・そのための表現技法が、人々に受け入れられやすいように最適化されている。
日々、新しい心象画がたくさん制作公開されるし、短期的には他者に受け入れられやすい、とも言える。
もともと気分的なものが基調だから、軽い共感が頻繁に得られやすい。
音楽で言えばポップミュージック、本で言えば軽いエッセイ的なものである。
流行りやすいが、大量に作られて飽きられやすいとも言える。
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