セミの断末魔
セミの断末魔の叫びを聴いた。
イベント設営のアルバイトに向かう道。
白いシャツと黒いパンツの制服で、スマホで集合場所を探しながら歩いていると、耳元でそれは爆ぜた。
夏の蝉の声はBGMだ。
しかし、それは極めて大きな存在感をもって私の耳を斬り裂いた。
思わず足が止まり、横にある木に目を向けると、落ちるセミ。
コイツが音の主か。
なんでか分からないが絶対にそうだと思う。
地面に落ちたそれは、静かに足を開いてそのまま死んだ。
マンドラゴラとかいう架空の植物は、地面から抜かれる時に叫び声をあげる。それを聞いたものは呪われ、死ぬという。
そんなことを思い出して、少し背筋が寒くなった。
断末魔は仏教用語だがその言葉の成り立ちは意外なことばかりだ。
断末魔の意味の区切りは「断・末魔」。末魔というのは体に存在すると言われるとても小さな急所のことだ。これに触れると死んでしまうとされている。そんな急所を断つ。つまり、死ぬ間際の苦しみのことを断末魔、と言うのらしい。
そんな苦しみから漏れ出た叫びが断末魔の叫び。
やはり、私は呪われたのかもしれない。