エゴ
私は小さな英語教室を運営している。15年前、教室を作ったのは3人の我が子のため。子育てと教室運営を通して、私は「近くにいても愛していても手の届かない範囲」の存在を知った。でもこれは本当に曖昧で、未だにその存在はわかっているけれど、境界線はわからない。時々間違う。
それが私のエゴ。自分が常に向き合わなければいけないもの。
英語教室と親子えいごサークルと、小学校での英語授業と大人の英会話。0歳から年配の方まで日々多くの方々の学びの伴走をしていると、嫌でも膨大なデータが自分の中に蓄積していく。その内に、こういう人は伸びる。こういう人は足踏みする。こういう人は学びを止めてしまう。それも見えてくる。
今現在私の中のキーワードは「心のゆとり」と「英語への興味」、「話せる様になりたいという願望」その3つ。これが揃っている人は爆発的に伸びる。ただ、子どもは成長過程で興味が出たり失せたり…その繰り返しであることは当然。だから声かけも「自分で強弱つけていいから」としている。私の顔色を見てはいけない。あなたが選んですることだ、と。したくない時にいくら強制されても、心が離れていくだけ。でもしたくなったらいつでも先生は全力応援するからね。
もちろん、ちゃんと心がこちらに向く様な声かけは毎週続けていく。
その点、モチベーションの高い大人の方で心の余裕がある方はグングン伸びる。イメージ的に子どもの方が伸びるのが早そうに感じるけれど、会話で言うとある程度学ぶ意味を持っている大人の方が伸びている、と私は思う。
教室の卒業生が、綺麗な英語を話す高校生になっていて驚くことがある。彼らは必要な時に「手を伸ばした」のだ。
英語講師はただ「技術を指導する」よりもむしろ、励ましたりその人のモチベーションが上がる様に工夫をしたり、また心の安定が見えない時には話を聞いたりしてまずは心を整えるところから始めたりする。語学習得は心を開きながら行うと効果的なので、心を柔らかく開く必要があるのだ。
だから、私は心理学やカウンセリングを学んだ。人の心に微細に寄り添う必要があるから。子どもたちには「とにかく英語から心が離れない様に」気をつけ、大人の方には「自分が上達している実感」を味わってもらう。
そんなふうに工夫や学びを重ねて伴走を始める。そこで私は自分のエゴと出会う。自分の抱えている問題が大きすぎて、英語どころではない子どもたち。学校で英語の授業準備のための時間を確保出来ない先生方。みんなにちゃんと伴走できる様jに。ちゃんと自分にかける言葉を持っている。
『あなたにとって英語教育はライフワーク。でも彼らには、今もっともっと優先させるべきことがあるのかも知れない。』
あぁ、せっかく準備したレッスンプランが準備不足でうまく機能しなかった。あの子、ずっと今日はぼんやりしてたな…そんな時にイラついたり悲しくなったりしないための心の準備。当然英語がみんなにとって最優先ではないことは理解している。けれど、時々無性に虚しくなる瞬間もある。
そんな時は、「彼らにも今、最優先すべきことがある。タイミングを待とう」自分にそう声をかけてそっとしておく。しばらく一人になる。心が凪になる。その繰り返し。そうやって私はいつも凪いでいようとする。それも仕事の内だと思ってる。
同じ仕事の方々と話すと、ほとんどがその悩み。良い教材、良いレッスンプランを用意してどんな子でも伸びるはず!と期待しても、いつもどの子も「学びたい欲全開」で来るとは限らない。歯痒い気持ちになるのは本当によくわかる。
でも、敢えて私はそれを「自分のエゴ」として自分を戒めていたいと思う。自分にとって一番が、あなたにとっても一番でなければいけない!は怖い押し付け。かつて数学や物理が苦手だった私に先生が言った「こんなに簡単なのにどこがわからないんだ?」という言葉で自分は数学や物理とはもう二度と仲良くなれない、と決めてしまったことを思い出そう。
幾らそれがその後その人のために良いと思っていても、自分にとって楽しいものであっても、目線は常にその時の相手に合わせるべき。
ここでせっかく出会えたからこの人にはたっぷりと英語の力を贈りたい、と溢れる愛情で願ってしまうけれど。何にしても過ぎたるは及ばざるが如し。それに「自分が欲しいものを取りに行く」というマインドは、私が英語力以上に子どもたちに贈りたい力。
「こんなに良いものがあるんだから、はい、これやって、これやって...」と次から次に課題を与えられる環境よりも、「ここにこれ置いておくから必要な時に取ってね。手が届かんかったら声かけて」くらいが丁度良い。
英語に限らず、このマインドさえあれば子どもたちは自分が今何を欲しがり、そのために何をしなければいけないのか、まず立ち止まって考えるだろう。
正直英語を教えることなんて、常に英語に真っ直ぐ向いている人が相手なら、めちゃくちゃ簡単なこと。むしろ苦労はその外側。自分自身だって、常に英語を学びたいわけではないんだから、誰だってそう。英語にこだわりながらも、まずは今日のあなたに寄り添いたい。
英語の先生だけど英語の先生じゃないみたい。英語教室っていうよりも「ハニラミ」っていう場所って感じ、って言われる所以かも知れないな。
人に寄り添うために、まずはエゴに塗れた自分と向き合って心を整える。そんな日々を送っています。