NICUの責任

「保育園落ちた日本死ね」という匿名ブログが話題となっています。「障害児を産んだから人生終わった」という匿名ブログもあります。

看護師になり今年で9年になります。ほとんどの年数を新生児集中治療室NICUで経験しています。第一志望で配属された部署で、当時は「ブラックジャックによろしく」というマンガとドラマの影響でしたが、何よりも赤ちゃんが可愛くて続けられました。最近では「コウノドリ」でも取り上げられていたNICU。この手のドラマを観る習慣はないのですが、同僚たちからの反響は大きいものでした。「医療モノの作品は厳しい目で観てしまう」という医療者あるあるの通り、「修正26週で日齢2の子の皮膚が修正36週みたいだった」などNICUを経験した人でないと分からないような目線でみんな観ていたようです。まあ正直ホンモノの修正26週の赤ちゃんというのはテレビで映せるような状態ではないのですが。気管内挿管と人工呼吸器を装着され、骨に薄い皮が貼りついただけの身体には点滴が入っています。一見人間の赤ちゃんだとは思えない状態ですが、数ヶ月経てばどこから見ても人間の赤ちゃんへと変貌を遂げるのです。もちろんそうなる前に消えてしまう命もありますが。

医療の進歩は日進月歩とは言いますが本当に目覚ましいもので、NICU勤務を離れた2年間で驚く位治療が変わっていました。まず超未熟児の死亡数が下がったように感じます。数十年前は修正25週体重600gなんて赤ちゃんが産まれた場合、NICU医師は三日三晩保育器に張り付き、安定しないモニター値を観察しながら呼吸器設定や投与薬剤を調節し、その甲斐虚しく生後3日で小さな命が消えたと同時に休憩室のソファに倒れ込むという状態だったそうです。それが今では修正22週400g台が助かります。
また、以前は超未熟児で産まれた場合長期に渡る気管内挿管や人工呼吸器管理が余儀なくされ、それに伴う感染や呼吸器離脱困難が多くありましたが、今ではかなり早期に呼吸器離脱が可能となりました。もちろんそれを行う医師の知識や管理する私達看護師の技術の求められるレベルも高くなったため神経を遣いますが、それを行うことでお金を貰っています。

いくら新生児医療が進歩したとは言え、やはりそれに伴うデメリットがあるのは否めません。本来であれば40週母親のお腹で守られるべき赤ちゃんが3ヶ月も4ヶ月も早く産まれてしまうということでは、主には脆弱な血管のために起こる頭の出血や人工呼吸器管理による肺損傷、動脈管などが塞がらない心疾患があり、心臓に関しては手術を余儀なくされる場合も少なくありません。肺が悪ければ退院後も酸素投与を必要とし、走ることはもちろん赤ちゃんの仕事である泣くことすら制限されたりもします。消化器異常があれば胃管チューブでの栄養にもなり退院後はそれを家族がやらなければいけません。それまでに描いていた「家族」や「子育て」が丸っきり別物になってしまうのです。

それでも私達は「子どもを生かして家族の元に返す」ことを目的とし、両親のライフプランに寄り添うことがどうしてもおざなりになってしまいます。話題になっている匿名ブログが新生児医療に関与していないとしても、新生児を扱い保育園に預け辛い「障害児」を生み出す一端を担ってしまっている十字架を背負う覚悟がこれからのNICU看護師にも必要だと考えさせられました。

#看護師 #新生児 #NICU

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