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「おいしいね」言葉だって鮮度が命だ

鎌倉に住む3歳と6歳の姪は、じいじとばあばの住む富山県が大好き。

食べ物がおいしいからだそう。やんちゃな3歳の妹の方が「富山はバナナがおいしいからね」と言う。思いがけない食べ物に、「え、そうなの!?」と聞き返すと、すまし顔の6歳の姉も「そうだよ。富山はバナナがおいしいんだよ」と自信たっぷりに答える。

「おいしい」の基準は人それぞれ。
だからこそ、誰かがそう言い切る瞬間は愛おしい。「きっとあなたもそう思うはずだよ」と言われているようで、うれしくなる。

それは文章でも同じ。
例えば、新明解国語辞典の「赤貝」の語釈。

【赤貝】海でとれる二枚貝の一種。貝殻は心臓形、肉は赤くてうまい。

「うまい」という率直な表現に、書き手の体温を感じ、思わず頰がゆるむ。
料理研究家、小林カツ代さんのレシピ本もあの陽気な声が聞こえてくるよう。

「(たれを)ジャーッ!と入れて」、「プクッとしたら」、「クツクツしてきたら」といったオノマトペ満載の説明文は、よくこんな風に締めくくられる。

「じんわり味がしみ込んでおいしい」、「好みで醤油を少しかけて食べてもおいしい」、「ひんやり冷たーいのもおいしい」、「冷めてもうまい」。

何度も作って食べた実感がこもっていて説得力があるし、なんといってもチャーミング。

「おいしい」「うまい」と言う文字に、人柄や親しみを感じてしまう。顔を合わせて食事しながら「おいしい」と言い合えば、やはり少し仲良くなった気がするもの。

食事と気持ちの相関関係を検索してみると、「ランチョンテクニック」という心理学の用語を発見した。飲食をしながら交渉すると、相手に良い印象を与えられるんだとか。

 そうかも、と共感する一方で「テクニック」と言った途端に「おいしい」にあった愛嬌はなくなった気がした。「コスパがいい」という表現と同じくらいに。

「おいしい」と言うなら、感じた瞬間に思わず口から出ちゃった感じがいい。みずみずしくて。「おいしい」その言葉だって鮮度が命。新鮮な方がいい言葉なんだろう。

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