真の美食家は「辺境メシ」もおいしく食べる
この前テレビを見ていたら、プロデューサーのナスDが苔を食べていた。
木や地面に生えている苔をちぎってそのままムシャムシャ。
「甘い!水がいいから甘いなぁ」
自生している苔を平然とそのまま食べる姿にはなんとも言えない迫力があって、まぶしかった。究極の美食家だと思った。
その映像を見ながら、私はノンフィクション作家の高野秀行さんのことを思い出していた。
高野さんは辺境を訪ね、現地の人が食べているヘンな料理を味わう。
タイではタガメの炙りを食べて「和食に合う」と評し(ライムのような香りがするそう)、ネパールでは水牛のリンパ液炒めを「塩味のミルクプディング」と表現、ペルーではカエル丸ごとジュースを飲んで「胃の中でカエルが跳ね回っているような感じがする」と綴る。
そんな高野さんが数年前、講演会で富山にやって来た。
関係者らで港町のお寿司屋さんへ行った。
高野さんは最初にかっぱ巻きを口に入れた。
「うわぁ、すごい! 水がきれいなところで育ったのがわかりますね。おいしいなあ!」
驚いたようなうれしそうな明るい顔をして言った。
その言葉に、田植え直後の青々とした苗から黄金色の稲穂がゆれるまでの風景が一気に頭をかけめぐる。
そうか、その一口の白米には、立山連峰を源にした冷たい水が注がれ続けた春から秋までの月日が凝縮されているのか!
高野さんの「おいしい!」には、そんな富山の田園風景を想像しているような朗らかさがあった。
世界中のヘンな食べ物を受け入れるたくましさの正体は、きっと想像力。
その作物や料理がつくられるまでの過程や文化を想像する力が、固定概念をとっぱらう。真の美食家は、経験や観念といったたくわえたものから自由になれる人のことを言うのかも。
「生卵を食べるのはヘビと日本人だけ」なんて言葉があるくらい、世界では生卵は食べないのが一般的らしい。
タイやネパールやペルーの辺境の人たちは、生卵をすする日本人は「信じられない!」かもしれない。
そんなことを思って食べる卵かけご飯は、ほんのちょっと楽しくて妙においしい。
「企画でメシを食っていく」って知っていますか?その4期生の有志でコラムを寄稿している「コラム街」それぞれの気づきを書いてます。
コラムはこちらから↓
https://note.mu/bookandmusic/n/n918043f2d2f2
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