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耳からよだれが出そうなシンプルな言葉

食いしん坊だと思う。

食べるのはもちろん、目や耳で味わう「語られるごはん」も大好き。人が話すある食べもの、外国文学やエッセイに出てくる料理は、どれもまばゆい。それがカエルの食べるちょうちょのサンドイッチでも。想像力というスパイスの効果は大きい。

昨年まで地方新聞社で記者、編集者をしていた。

ローカルマガジンを作っていたとき、レシピコーナーの取材が何より楽しかった。料理上手な主婦らに旬の食材を使ったレシピを教わるのだが、撮影中の他愛のない会話にも、耳からよだれが出そうな料理が次々と出てくるのだ。

おいしいものが語られるときには、合図がある。

「ほんと簡単なのよ」

この枕詞が登場したら、全身が耳になる。続きが聞きたくて仕方ない。
実際語られるのは、「オリーブオイルに漬けて弱火でじっくり火を入れるだけ」なんてシンプルなものばかり。絵本の中で語られる料理のよう。

おいしさを作るポイントはそう多くないらしい。

キノコは水分が多いので、焼くなら半日干しておくと味が締まること、青菜を炒める時は水分を一気に蒸発させるとシャキッと仕上がるので、調理直前まで水に浸けておくといいことなど。そんな少しの勘どころを的確に捉えるから、簡単と話す彼女たちの料理はシンプルでおいしい。

タイミングなんだなぁ、としみじみ思う。
料理も人生も。
時が来たと思ったら、潔く動く。

早くても遅くても、タイミングがずれていれば「おしい」ものになる。「い」を失うと残念な印象だ。

「い」と口の形を意識して声に出してみる。

その顔は笑っているようにも見える。「い」は笑顔。「おいしい」と「おしい」を分ける大切な要素が、そう、笑顔。ちょっと強引だろうか。でも、それがないとおいしくならないのは、料理も人生もきっと同じ。暮らしの中の笑顔を意識しながら、これから私はおいしい言葉を探していきたい。

全6回で「言葉のごはん」について綴ります。


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その4期生の有志でコラムを寄稿している「コラム街」
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