新型コロナウイルスは人間のことをよく分かっている
新型コロナウイルスは、人間のことをよく分かっていると思う。
私たちがどんなことに喜び、どんなことに悲しむのか。それが分かった上で考えられた感染計画があるみたいだ。
息をひそめるのが上手で狡猾。あぁ、憎き新型コロナウイルスめ。
と思ったときにふと、私は新型じゃなくても、コロナウイルスじゃなくても、ウイルスのことなんて何も知らないんだと気がついた。
そういえばウイルスってなんなんだ。
それでなんとなく気になった1冊を手に取った。
山内一也著「ウイルスの意味論ー生命の定義を超えた存在ー」(みすず書房)。内容を一言でいうなら、ウイルス学の研究者が解き明かす地球におけるウイルスの生命史。
ウイルスとは「遺伝情報を持つ核酸と、それを覆うタンパク質や脂質の入れ物からなる微粒子」で、細胞外にあるときのウイルス粒子はただの物質なんだそう。ところが、「ひとたび生物の細胞に侵入すると、細胞のタンパク質合成装置をハイジャックしてウイルス粒子の各部品を合成させ、それらを組み立てることにより大量に増殖する」という。
山内さんはこう例える。
「植物の種のように、芽生えることができる環境に出会えば、生命体としてのウイルスが姿を現す」
そんなウイルスの起源はなんと、30億年以上前。
哺乳類と細菌の共通祖先よりも前の時代にまでさかのぼることになるらしい。ホモ・サピエンスが出現したのは20万年前。ウイルスは、比べものにならないほど大先輩だった。
ウイルスは19世紀末、ウシの急性伝染病である口蹄疫とタバコの葉に斑点ができるタバコモザイク病の原因として発見され、ラテン語で「毒」を意味するウイルスと名付けられた。
本の中で紹介されるさまざまな実験の考察を読みながら、これまで映画や漫画で見てきたモンスターや異星人のモデルはウイルスだったんじゃないかと驚いた。
例えばウイルスには、こんなところがある。
・紫外線照射されてある部位が損傷しても、致命的な傷の場所が違うウイルス同士で傷を治して生き返る。(ゾンビじゃん!)
・3万年以上前の凍土層から採取された土壌サンプルをアメーバに加えて培養したら、再び増殖を始めた。(ミイラ再生!)
・親ウイルスは一旦忍者のように姿を消したあとに子ウイルスが生まれる。1個のウイルスが細胞に感染すると、5、6時間で1万個を超す子ウイルスが生まれる。(グレムリンか!)
実際、寄生バチの一種、ヒメバチのライフサイクルが、映画「エイリアン」のストーリーのヒントになったという。
ヒメバチはイモムシに卵を産み付けて、孵化した幼虫はイモムシを食べなぎら最後は皮を食い破って外に出る。
なんと、ヒメバチの卵と一緒にウイルスも注入されていて、そのウイルスがイモムシの免疫細胞を麻痺させ、幼虫の餌となる糖を産生させ、イモムシがチョウやガに変態するのを阻止するのだという。
このウイルスはヒメバチにとってはパートナーになっている。
そんなウイルスと宿主の共生関係についてもたっぷり紹介されていく。
その中には、ヒトの腸内にも膨大な数のファージ(細菌に感染するウイルス)が生息するという話も。
腸内には100兆を超す細菌が生息し、その数十倍のファージが存在すると推定されているそう。
そして、そのファージが「腸内細菌のバランスを維持することでヒトの健康に役立っている可能性が考えられている」んだそう。
ウイルスの中にも私たちの味方がいるなんて。
新型コロナウイルスが収束したら、このウイルスをモデルにした悪役との戦いや共生を描くフィクションが生まれるかもしれない。
私は見てみたい。
この困難な世界を物語にできるようになるまでは、相当な時間がかかるだろうけれど、そうなる日を想像する。
治療薬やワクチンの開発に奮闘する世界中のヒーローのことも想像する。
そして私もアルコールや石鹸の泡をつけた手をこすり合わせて戦う。祈るように。
新型コロナウイルスが憎いから、彼らが人間社会に乗り込んできたと思っていた節が私にはある。
でも、本当は、便利な暮らしを追求した人間が彼らの住処に近寄っていったようだ。
ちなみに、ウイルスの住処は海の中にも広がっているという。
「海洋ウイルスの総量は二億トンということになる。この重量は、シロナガスクジラ七五〇〇万頭に相当する。また、このウイルスの長さを約一〇〇ナノメートルと仮定すると、海洋ウイルスをすべて繋いだ鎖を作れば、銀河系の直径の一〇〇倍を超える長さになるという」
もうそのスケールが圧倒的で、全然ピンとこない。笑
でもそんな風に圧倒されながら、ウイルスの視点で世界を見てみる数時間。
思考の換気をしたような気分になった。
おすすめの一冊です。
https://www.amazon.co.jp/ウイルスの意味論――生命の定義を超えた存在-山内-一也/dp/4622087537/ref=nodl_
#新型コロナウイルス #日記 #読書 #読書感想文
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