NutmegLabs 社史(2018‐04~2023‐03)
この記事は、社員や5周年記念イベント参加者の皆さんに共有するために書き下ろした創業ヒストリーです。
表現が関係者向けなのですが、5年という節目にこれまでの歴史と創業時・入社時の各々の思いを、ここに残しておきます。
世界で戦う決意とAndrew との出会い
2018年初頭、前職で手掛けていた新規事業のグローバル展開の中止が、決定的なものとなる。
やむを得ない事情ではあったが、「グローバルで戦ってみたい」という野心をぬぐい切れない中口は、独立を決意する。
「タビナカ*における課題は山積。それらを解決できるプロダクトは世界を見ても登場していない。ーであれば、自分がその問題を解決し、世界を変える」。そして「世界一」をとると胸に刻んだのだった。
世界で戦うだけのプロダクトをつくるには、卓越した技術力をもったエンジニアの力が必要だ。そう考えた中口は、スーパーエンジニアとの出会いを求めて自身のネットワークを駆使するも大苦戦。そんななかで、前職でプロダクト開発を手伝ってもらっていたAndrew Spencerにコンタクトをとる。
AndrewはMicrosoft本社でシニアエンジニアとして開発に関わっていた経験を持つ、文字通りハイレベルなエンジニア。同じくアントレプレナーシップを抱いていたAndrewと中口は意気投合。Andrewを共同創業者・CTOとして迎え、世界への挑戦が始まった!
*参考NOTE記事:
Day1からグローバルを目指した決断【業界No1を目指す道筋・ストーリー・行動】
シリコンバレーでNutmeglabs誕生
10代の頃にミュージシャンを目指して単身渡米した経験があるものの、中口は決して帰国子女レベルの英語力をもっていたわけではない。しかしながら、気おくれすることなく、未経験のことにチャレンジできるのが中口の強み。
Webで情報を探してみると、さすがは起業文化が強いアメリカだけあって、比較的簡単に法人登記や資金調達できるサービスを発見することができた。
こうして、Weworkでオフィスを借り、無事にシリコンバレーで法人登記をやり遂げる。
2018年4月 小さなグローバル企業・Nutmeglabsの誕生だ。
2018年5月には、エンジェル投資家から100万ドルの資金調達を完了。
国内外で数名の仲間を得て、プロダクトの開発がスタートする。
*参考NOTE記事:【実は簡単!?】シリコンバレーで創業する方法とメリット・デメリット<グローバルProductを目指すストーリー>
プロダクト開発開始(PSFフェーズ*)
Nutmegは当初、B2Cの販売チャネル(VELTRAやじゃらんなどのOnline Travel Agency等)に接続し、商品の在庫を一元管理できるGDS(Global Distribution System)機能。そして予約受付後のアナログな業務フローをデジタルトランスフォーメーション化することをコンセプトとして開発された。
あるとき、中口とAndrewは開発を進めるためにフィリピン・セブ島に2週間の出張に赴く。
日中はアクティビティやツアーに参加して、旅行者目線での課題抽出。同時に催行会社(事業者)へのヒアリングや商談をこなし、夜になると日中にとらえた課題と要望をプロダクトに反映すべく開発を進める。
1人で何役もやらなければならないからこそ、作業は毎晩深夜1時、2時に及び、翌日は早朝から活動を開始する毎日。
美しい海と景色を横目に、体力的にキツかった記憶しかないそうだ。
プロダクトのリリースと世界へのアプローチ
2019年1月には一部の事業者向けにプレ・リリースを行い、4月に本格的に営業を開始。ターゲットは、英語圏の観光事業者だ。セールスのメンバーたちは、オーストラリア、セブ、ハワイ、グアムを駆け回る。
しかし、名も知らぬ小さなスタートアップに対して、現地事業者の反応は鈍い。毎日毎日大量のメールを送信し、移動と商談を繰り返す身に、じわじわと疲労感が襲う。
スタートアップが必ず通る険しき道なき道を乗り越えて、2019年夏にはVELTRA社とAPI接続を完了。2019年末には、50社ほどの事業者と契約を交わす。リリースから半年を経て、ようやくPMF*が見えてきた瞬間だった。
新型コロナウイルスの勃発
2020年2月、Nutmegの稼働ユーザーは50社を超え、流通総額が1億円に近づく勢い。「これはいける」と手応えを感じたタイミングだった。
2020年3月、新型コロナウイルスの流行がパンデミックとして認知され、世界中の国々が国境を閉じた。人々は旅行どころではなくなり、海外旅行市場をターゲットにしていたNutmegの流通総額は翌月4月にはゼロになった。
バブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災…ここ数十年に起こった不況を見ても、これだけのスピードで売上が落ち込む事態と市場が、かつてあっただろうか。
いつ、コロナが収束するか分からない状況下で売上が立つ見込みもない中、Nutmegは事業を続けるか否かの判断を迫られる。
*参考NOTE記事:コロナ禍で直面した「HARD THINGS」を乗り越えられた3つの理由【観光業界 × SaaS】
仲間との別れとピボットの決断
手元のキャッシュは、向こう3~4か月で尽きることが見えている。
雇用を維持するため、中口は補助金の申請や資金繰りに腐心するも、この状況でどれだけの期間乗り切れるのかもわからない。
アメリカは企業の救済策が遅れ、もはや国策に頼る選択肢はなかった。
2020年7月、行き詰った中口とAndrewは、アメリカ・チームのレイオフという苦渋の決断をする。
もうひとつの重要な決断が、事業のピボットだ。
まず、海外旅行から国内旅行にターゲットを変更。
そして、コロナ禍収束後の旅行者の行動変容を見据えて、B2Bの流通支援であるGDSからD2C(直販)を支援するバーティカルSaaSへの方向転換を図る。
※参考NOTE記事「コロナ禍のピボットで辿り着いたPMF【バーティカルSaaSの苦悩や不安を赤裸々に告白】」
SaaSプロダクトをリリース。再びPMFを目指す
辛い別れの一方で、厳しい市況を理解しながらもプロダクトのコンセプトに賛同して仲間に加わってくれた者もいた。
中口の前職で開発部長を務めていた柳(ゴロー)だ。
この数年はマネジメントに携わっており、最先端技術と距離を感じていた柳は、今一度技術者として挑戦したいという思いを抱いていた。
Andrewと柳は、外部企業から開発案件を請け負う傍ら、新しいプロダクトの開発を進めていく。ハードワークは言わずもがな。しかし、ふたりは粛々と開発を進めていった。
そして、開発に取り組むこと半年後の2021年1月、現在のNutmegにつながるプロダクトをリリースする。
続いてJoinしたのがPdMの柴山(みっちー)だ。
PMを務めていた柴山は、前職でNutmegとAPIで接続する際に担当窓口を務めていた。その際Nutmegのシステムを触りながら、少数精鋭かつ短期間でこれだけのプロダクトができることに驚きを感じていた。
だからこそ、中口から声をかけられたとき、純粋に面白そうだと思った。旅行業界で仕事を続けることに家族の反対もあった。しかし、プロセスが固まっていないからこそ、これからつくっていけることへの興味が勝った。
国内旅行市場の開拓を本格化
プロダクトのリリースから1年超。全国旅行支援など国策も進み、国内旅行から市場は徐々に回復。2022年の春には海外渡航も徐々に解禁されていった。
次のステップに行くためには、資金調達が必要。しかしそのためには、まず足元の売上を立てなければならない。
国内の営業強化のために中口が声をかけたのが、沖縄に移住し、タビナカ事業者向けの営業経験が長い森(シュンスケ)だった。
森には、沖縄のタビナカ事業者と関係を深めていくなかで、忘れられない出来事があった。ある事業者で、幹部候補として期待されていた優秀な担当者が、結婚を機に観光業界を去ることを決めたのだ。その理由は、「この世界では家族を養えないから」。
「収益構造に課題があるこの業界を変えていくために、D2C(直販)やDXは間違いなく価値がある」。そう確信しての入社決断だった。
シリーズAの資金調達を実現
売上的に自走のめどがついたこともあり、2022年はさらに開発にまっちー、カスタマーサクセスとしてみのりを仲間として迎え入れる。
そして、ベンチマークしていた年商の達成が見えてきたところで、中口は投資家へのアプローチを再開する。
実は1年前の2021年にも投資家とコンタクトは試みていたが、当時はまだコロナの影響が不透明だったことなどがあり、決まりかけていた出資がギリギリになって中止となる経験をしていた。
今回のアプローチでは、各社比較的反応はよかったものの、いくつかの観点でやはり苦戦を強いられた。しかし結果的には、複数のVCから出資の提案を受けることができた。
そんななかで、ALL STAR SAAS FUNDとCoral Capitalを選んだのには明確な理由があった。
それは、売上や利益といった数字ではなく、純粋に経営者とチームを見て判断してくれたこと。経営者に対するコンサルのみならず、社員を含めて事業成長に向けた多様なサポートがあること。そして、グローバルビジネスの知見があることだ。
ふたつのVCの後押しを受け、いよいよ大きな一歩を踏み出す準備ができたのだった。
世界一に向け、最強のチームをつくる
2023年4月23日、創業から5年を迎える。
いま、Nutmeglabsは、コロナ禍というHARD THINGSを越えて、本当の事業成長期に踏み出す。
目指すは、世界一のプロダクトで世界中の旅の体験を変えていくことだ。
そんな大きな挑戦に必要なのは、強いチームをつくること。
ここで言う強さとは、ビジネスパーソンとして優秀であることだけを指すのではない。
例えば「挑戦(Challenge)」という失敗を何度も重ねられる強さ。
多数の失敗を重ねてこそ、本当に良いものが生まれるという考え方だ。
そのPDCAを誰よりも早く(Quickness)回していく。
そして、旅を楽しみ、仕事を楽しみ、たくさんの人をHappyにしていく(Fun)。
何かしらの楽しみを感じ、夢中になれてこそ、HARD THINGSを越える力になるのではないだろうか。
そんな強いチームをつくり、みんなで世界をふるわせていく。
Shake up the world with a lot of Fun with YOU!