もどき【読まないでください】

炎天下の浅草

何にも言わずに、彼女はそこにいた。

足が少し悪いらしかったけど、それを感じさせないくらいすっと立っていた。



親友O氏からの連絡、いきものフェスがあるから一緒に行こうとのことだった。

僕は二つ返事でOKをして、当日会場に向かうと、老若男女が300人ほど列を作っていた。

販売会場は全部で3フロアあり、持ち時間の2時間ではとても見切れない広さだ。

そこには、各国から集められたエキゾチックな生物が所狭しと並んでいた、魚、蛇、ヤモリ、フクロウ、ネズミ、虫、カエル、、、とにかく各地の珍品が集結していた。

そんな中、爬虫類ショップで気になったのは

とあるレオパードゲッコーだった。

メスのB品、いわゆる訳ありの生体だ。

彼女は足に奇形があるらしく、値札には大きくバッテンがつけられてかなり値段が下げられていた。

隣にはサバンナモニターが元気にウロウロしていた。

ひとしきり見物し終えて、僕たちはその売り場を後にして、ネズミのブースへと移った。

ヒメハリテンレックという聞いたことのない動物が白い涙を流すらしいという聞いたことない雑学を聞きながらも気もそぞろだった。

さっきのレオパードゲッコー、、、大丈夫かな。

それがどうしても気かがりになって、O氏に無理を言ってさっきの爬虫類ブースに戻ってもらった。

戻りながら考えた。

命には値段がある。

その空間では全ての命に値段がついていた。

ただ、人間だけを除いて。

俺に値札が付いていたならば、どうだろう

間違えなくB品だ。

値札にバッテンのお手頃価格。

…何も言わないでくれ

わかってるよ。

そういうの、よくないってのはわかるけどさ

なんか、ひょっとしたら俺たちうまくやっていけるかもしれない

それに、俺、お前のこと変だと思わないよ。



あーあ

エゴ丸出しの自分本位エンジン全開

底辺の底辺のくせに

そもそも、ペットを飼うという行為自体

エゴっぽい感じあるのに。

それに加えて、「俺たち似てるね」ってバカ言うなよな

何食ってたらそんなに能天気になれんのか教えてほしいよ。



訳ありのレオパードゲッコーは、まだそこにいた。

隣にいた、元気なサバンナモニターは売れてその姿はなかった。

そりゃ、お前さんが爬虫類とか育てたことある人のところにいけりゃ、そりゃ1番いいのわかるけど、、、

俺のとこに来てくれよ。

店員さんは、10年生きるって言ってたよ。

10年あったら、何があるかわからない。

こっちの命が燃え尽きる可能性は全然ある。

そしたら、お前さんも葬式に出てくれよな。

それくらい、お世話させてもらうからさ。

そういう、約束にしよう。



僕はそのレオパードゲッコーを購入した。

プラケースを包んだ紙袋はレオパードゲッコーの体色から程遠く、質素な佇まいだった。

僕が爬虫類ショップで時間を使ってしまったせいで、O氏はなんとかダッシュで水草を買ってお土産としていた。申し訳ない、、、

帰りのO氏車のなかで名前が決まった

モルフ(模様)がハイポタンジェリンと言うそうだから

そこから引用して「牡丹ちゃん」とした。



この時は、全然ご飯を食べずイヤイヤをして、心配と不安な時間が待っているとは思いもしなかった。

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