見出し画像

ちょっと歴史の話。

私が植物療法を習ったのはフランスの植物療法士の方が書いたテキストの和訳なのですが、それを元に私の言葉で古代から現在までの植物療法の歴史を書いてみました。

植物療法は古くからあった

植物療法という言葉はなくても、植物を使って体調を整えることは先史時代から行われていたはずです。火を使うことができない頃は口でかみ砕き、火を使うようになってからは煮詰めたり煎じたりして。

それは代々受け継がれたり、ときに登場する博識な人が新しい知識を増やしたり知識を体系化したりして長い間続いていたのでした。

じっくりと時間をかけて身体に浸透させ、体調を整える。
それは、当然のこととして受け止められていた時代がずっと長く続いていました。

成分だけを抽出した薬の登場

時代が進み、あるときに植物から必要な成分だけを取り出して結晶化することに成功します(※)。
その結晶化したものを薬として飲むようになります。
すると…あっという間に治るのです。
症状がすぐに治まる。頭痛なら頭痛がすっとひく。
なんて便利!
そしてそれは急速に広まります。
さらに古来から続いていた植物療法に対して懐疑的な見方が世の中に広まっていきました。新しい薬の法が優れている!植物療法は時代遅れだ、と。
※アスピリンの有効成分の抽出に成功したのは1897年。

一方で、その薬はその場は効くのだけれど、ぶり返すこともよくあるのでした。たびたび薬が必要になる人が出てくるのです。
植物療法のスペシャリストは、首をかしげます。
「煎じ薬を飲んでゆっくりすることが本来は必要なのに、新しい薬はあっという間に効くけれどすぐにぶり返す。これはどういうことなのだろうか?」と。

植物療法士という職業が消える

時は経ち、人々が病院に行って薬を処方してもらい、それを飲むことで病気を治すことは当たり前になっていきます。
大病をしたときに適切な医療を受けることはとても大切なことですし、それにより多くの人が長く生きることができるようになりました。それはこれからも大きく変わらないでしょう。
ですが、ちょっとした風邪でも病院に行き、薬をもらって飲む。そしてわりとしょっちゅうそれを繰り返している人がいることも現実としてあります。
医薬品メーカーは、しのぎを削って新薬を開発し、その成分は秘密にされます。
そういった中で、植物療法士の存在は医薬品を製造販売する人たちにはちょっと邪魔な存在になっていきます。

植物療法は身体を根本から整えます。
ということは極端に言えば、その人は当分の間、薬を必要としない身体になる、ということです。

薬を買って飲んでもらいたい人たちにとっては根本的に治ってしまうと購買者が減るから困る、ということなのでしょう。
1941年にフランスではとうとう植物療法士という国家資格が停止されてしまいました。また、エルボリスト(植物療法士の仏語)という言葉を商業利用することが禁止され、種類によっては薬草薬局での取り扱いが規制されるなど、植物療法は長くやりづらい時代になっていったのでした。
国家資格は無くなっても、植物療法は密やかに連綿と続いて今に至るのですが、そのような状況の中では後継者や若手が不足します。

ジェモセラピーがフランスの医師や植物学者によって考案され、植物療法のひとつとして確立されたのはこの頃です。

そして再生へ

近年、医療費や医薬品が高額になり、社会保険の費用を圧迫しているという話は日本でもよく聞く話です。
海外では日本とは比べられないほどに日常の医療費そのものが値上がりしていることもよく言われます。
そこで、植物療法に再び光が当たります。
高額な医療費や医薬品代を支払わなくても、治療ができる。
植物療法のエッセンスを飲んで身体を整えることがじわじわと浸透し、さらには医療者や薬剤師がジェモセラピーやフィトセラピーを勧めるようになります。特にフランスでは薬草薬局のみではなく、ビオショップ(自然食品店)でも取り扱いされるようになっています。
そして、フランスでついに植物療法士の名前が復活したのは2022年9月のこと。paysan d'herboriste (ペイザンエルボリスト・paysanは田舎者の意味。軽蔑した言葉を敢えてつけているのはフランス流の皮肉なのだそう)と言うそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?