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京大ロー 令和6年入試 再現答案 民事訴訟法

①問題・出題趣旨

②再現答案(3.2枚)


第1 問1について
1. そもそも、裁判外の和解契約が任意訴訟禁止の原則に反し、無効ではないかが問題となる。
大量の訴訟を円滑かつ効率的に処理するため、両当事者の合意のみで任意に訴訟を行うような訴訟手続を自由に設定させることを認めるべきではない(任意訴訟禁止の原則)。
したがって、原則として、明文なき訴訟契約は無効である。
しかし、実体法上の私的自治の原則を反映した処分権主義・弁論主義の範囲内であって、当該合意が両当事者にとって不意打ちとなり著しい不利益を及ぼす場合でなければ、例外的に有効である。
裁判外の和解契約は両当事者間の互譲によりなされ、裁判所が間に入ることはないため、両当事者の意思のみが尊重される。したがって、この場合も私的自治を反映すべきであり、処分権主義、弁論主義の範囲内であるといえる。また、和解契約は両当事者間で慎重に行われ、一方当事者に著しい不利益の内容となることは考えにくく、本件でもX Yのどちらとも納得のいく和解契約が締結されている。したがって、不意打ちとなり著しい不利益を及ぼす場合であるとはいえない。
したがって、本件の裁判外の和解契約自体は有効である。
2. では、本件の裁判外の和解契約は本件訴訟手続きにいかなる影響を及ぼすか。その法的性質が問題となる。
(1)この点、訴訟契約が締結され、その存在が認められたことで、訴訟が終了することになるので、裁判所は訴訟終了宣言判決をすべきであるとする見解がある(訴訟契約説)。
しかし、訴訟外でなされる契約である以上、私法の規律を受けるべきであるし、裁判官の面前でなされていない以上、これを訴訟行為であるとみることはできない。
したがって、訴訟契約は私法上の契約であり、それにより実体法上の作為不作為義務を生じさせるに過ぎない。よって、訴訟契約の存在を主張しても直接訴訟法上の効果は生じず、当事者が抗弁としての合意の存在を主張し、裁判所がこれの存在を認めるときは、訴えの利益が欠けるものとして訴え却下判決を下すべきであると考える(私法契約説)。
(2)本件で、Yは裁判外の和解契約が成立した旨の合意の存在を主張しており、これらの事実が全て認められるとされている。
したがって、本件においても裁判所は訴えの利益が欠けるものとして訴え却下判決を下すべきである。
3. Yの主張は2(2)のような意味で訴訟手続に影響を及ぼす。

第2 問2について
1. 既判力とは、確定判決の判断内容に与えられる通用性ないし拘束力をいう。
(1)既判力は「主文に包含するもの」(114条1項)、すなわち訴訟物の範囲において生じる。前訴訴訟物は不法行為に基づく損害賠償請求としての500万円の支払請求であり、既判力はこの範囲につき生じている。
(2)後訴は不法行為に基づく損害賠償請求としての1000万円の支払請求であり、後訴はYの暴行という前訴と同一の原因事実から生じており、被侵害利益も前訴と共通している。また、訴訟外においては権利の一部行使が可能と解され、試験訴訟の必要性もある一方で、被告の応訴の煩、濫訴の危険性があるから、一部であることを明示した場合には、訴訟物の分断が認められるところ、前訴において、Yが一部請求する旨の明示した「行為•事実」はなく、訴訟物の分断も認められないのが原則である。
したがって、前訴と後訴で訴訟物は同一であり、前訴で生じた既判力が後訴に及ぶように思える。
(3)すると、Yのいうように、後訴で後遺障害の存在とこれによる損害発生を主張することは、前訴の確定判決判断内容に矛盾しており、許されないように思える。
2. しかし、前訴において、Yが一部請求する旨の明示をしたと「評価」することはできないか。
(1)最高裁が、明示した「行為•事実」が全く認められない場合に訴訟物を同一関係と評価し、訴訟物の分断を認めないのは、前訴で明示した「行為•事実」がないにもかかわらず後訴で残部請求を認めることは、原則として信義則に反するからである。すなわち、前訴確定判決により、当該訴訟物について再訴がないという意味で被告に決着済みであるとの信頼が生じ、その信頼は合理的なものとして保護に値されなければならない。そして、一部であることを明示しなかったのに再度残部部分の請求を許すことは原則として禁反言に反する。
ということは、翻ってみれば、前訴で明示が要求できない原告の救済の必要性から、被告に再度応訴の負担を課すこともやむを得ない場合には、禁反言ないし信義則に反するとは言えないので、明示があったものと「評価」し、前訴と後訴で訴訟物の分断を認めるべきであると考える。
(2)後遺症の存在とこれによる損害発生は前訴確定判決後に発覚したのであり、Xがこの点について前訴で明示したくても明示できなかった。したがって、明示しなかったことについて原告に帰責性はないといえる。また、このような場合、原告に適切な訴訟追行も期待できるから、訴権の濫用を招く恐れもない。これらの事情を考慮するとXの救済の必要性は高く、被告に再度応訴の負担を課すこともやむを得ない場合であると評価できる。
したがって、本件でも、例外的に前訴において明示があったものと「評価」すべきであり、後遺障害1000万円部分については訴訟物の分断を認めるべきである。
3. よって、前訴と後訴で訴訟物は同一関係と評価できず、前訴の既判力は後訴に及ばないため、後訴は本件確定判決の規範力に抵触しない。裁判所はこのYの主張を却下ないし無視するべきである。
以上

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