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京大ロー 令和6年入試 再現答案 民法

①問題・出題趣旨

②再現答案(第1問・4枚)

第1 問1について
1. Xは、譲渡担保権に基づく妨害排除請求権として、甲をAの工場に戻すよう請求することが考えられる。かかる請求が認められるためには、①譲渡担保設定契約の締結、②妨害状態が生じていること、の2点の要件を満たしている必要がある。
2021年7月1日、Aは、貸金業者Xから返済期限を2年後として300万円の貸付を受けるとともにその担保として甲をXに譲渡し、占有改定による引渡しをしていることから、譲渡担保設定契約は締結されている(①充足)。また、AはBに甲を引き渡しており、妨害状態も生じている(②充足)。すると、Xの請求は認められるようにも思える。
2. そこで、Bは、11月1日にAから甲を占有改定による引渡しを受けていることから、178条の「第三者」にあたり保護されると反論をするであろう。
譲渡担保権の法的性質について、譲渡担保設定契約な目的物の所有権を譲渡担保権者に移転する形式をとる以上、その形式を重視すべきである。ゆえに、所有権は譲渡担保権者に移転し、譲渡担保権者はその所有権を担保目的以外には行使しないという債権的拘束を設定者に対して負うにすぎない(所有権的構成)。したがって、かかる構成をとり、譲渡担保設定者が譲渡担保権者以外の第三者にも譲渡した場合、譲渡担保設定者を起点とした二重譲渡類似の関係にあるといえるため、先に対抗要件(178条)を具備した者が所有権を優先すると考える。そうすると、本問でもBは対抗要件(178条)を具備しているため、Bは保護されるように思えるも、7月1日に、甲はBに先立って甲を占有改定による引渡しを受けていることから、先立つ対抗要件を具備したXに甲の所有権が優先する。
3. そこで、Bは即時取得(192条)の成立を主張するであろう。
かかる主張が認められるためには、①取引行為の成立と、②これに基づく引渡しが認められなければならない。
まず、取引行為の成立をどの段階において基準とすべきかが問題となる。
考えられる段階の一つ目は、2021年11月1日である。「占有した」(192条)といえるためには、一般外観上の占有状態の変更をきたしているといえなければならないが、AからBへの占有改定による引渡しは、一般外観上従来の占有状態の変更がないため、「占有した」とはいえない。したがって、この段階において即時取得は成立しない。
では、2022年11月2日を基準として即時取得は成立しないか。この時点でAはBに対して甲を現実に引き渡しており(182条1項)、外観上の占有状態の変更があり、「占有した」といえるため、取引行為の成立及びこれに基づく引渡しは認められる(①②充足)。したがって、即時取得は成立するように思える。
しかし、「善意」(192条)とは、占有取得時に取引の相手方が権利者であると信じたことをいうところ、11月2日の占有取得時点で、Bは AがXに対して甲を既に譲渡したことを知るに至っているから、BはAが無権利者であることについて悪意である。したがって、「善意」の要件を満たさず、即時取得は成立しない。
4. 以上より、Xの請求は認められる。

第2 問2について
1. Xは、物上代位権を行使して、Aに対する貸金債権について、Aの Yに対する保険金請求権から優先弁済を受ける旨の請求を行う。
物上代位権は、目的物が金銭その他の物に具現化した場合であっても目的物の交換価値を維持し、担保権者の債権回収を確実なものとさせるための担保権者保護の制度である。そうすると、譲渡担保権の場合に限り、あえて先取特権特権や抵当権と別に取り扱い、譲渡担保権者を保護しないとするべき積極的理由がなく、譲渡担保権者の債権回収を確実なものとするために、譲渡担保権にも物上代位権は認められるべきである。よって、譲渡担保権設定者が通常の営業の範囲で目的物を金銭その他の物に具現化させた場合を除いては、304条を類推して譲渡担保に基づく物上代位権の行使は認められる。
本問において、甲は滅失して保険金請求権に具現化しているが、これは通常の営業の範囲で金銭債権に具現化したものとはいえない。したがって、Xは304条類推により、冒頭の請求を行う。
保険金請求権は「目的物の…滅失…によって債務者が受けるべき金銭」に当たる。
2. もっとも、11月1日に、AはYに対する保険金請求権についてBのために質権を設定し、その旨をYに対して内容証明郵便により通知している。すると、2023年11月10日のXの「差押え」(304条)の前に、質権に基づく甲の引渡しが行われており、これが「引渡し」(304条但書)にあたるとすると、Xは物上代位権を行使できないのではないか。「差押え」が要求されている趣旨が問題となる。
抵当権に基づく物上代位(372条、304条1項)の差押えの趣旨は、抵当権者か抵当不動産の所有者のいずれに対し弁済すれば良いのか不安定な状態に置かれる第三債務者を二重弁済の危険から解放することにその趣旨があり、第三者を保護する趣旨を含まない。抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されており、第三者との関係は登記により規律すれば良いからである。一方、先取特権に基づく物上代位(304条)の差押えの趣旨は第三債務者のみならず、第三者をも保護する趣旨も含む。先取特権の場合は、抵当権の場合と異なり公示方法が存在しないためである。本問における譲渡担保権の場合、甲動産に特別法による登記が設定されたという事情はない。また、動産の引渡しの場合、公示方法は引渡しのみであり、抵当権の場合に比して、公示方法が弱い。したがって、譲渡担保に基づく物上代位(304条類推)の差押えは、第三者債務者のみならず、第三者をも保護する趣旨を含むと考えるべきである。したがって、質権に基づく引渡しは「引渡し」に当たる。
すると、本問において内容証明郵便による対抗要件を備えた第三者であるBは保護され、BはXに優先する。
3. よって、Xの請求は認められない。
以上

③再現答案(第2問・2.5枚)

第1 問1について
1. 設問前段
(1)AはCに対し、所有権に基づく返還請求権として、甲土地の明渡しを請求すると考えられる。かかる請求が認められるためには、①Aの甲所有、②Cの甲占有が認められなければならない。
2023年8月31日に、AはBに対し契約①を解除(540条)する旨の意思表示をしているため、これを理由にAに所有権が帰属しないか。
契約①によりBは残代金500万円を2023年3月10日に支払うものとされてたが、同日の経過後も支払われていないから、「当事者の一方がその債務を履行しない場合」(541条)に当たる。また、同年8月に「相当期間を定めて催告」している。なお、AはCに対して何ら義務を負わないため、Cに対する催告は不要である。そして、相当期間経過後である8月31日が経過している。したがって、541条の要件を充足するため、Aに甲の所有権が帰属する(①充足)。
また、現在時点において甲土地を占有しているのはCである(②充足)。
(2)これに対し、Cは自己が賃借権を有することにより甲土地の占有権限があるとの反論を行う。
2023年3月20日に、契約②が締結されており、これは賃貸借契約(601条)である。したがって、Cは甲土地の賃借権を有する。また、同年4月1日に甲土地はCに引き渡されており、同年7月までに、Cは、甲土地上に乙建物を築造し、乙建物の建物表示登記を備えている。したがって、Cは605条による対抗要件は備えていないのものの、借地借家法10条1項による対抗要件は具備している。Aが解除したことにより他人物賃貸借となるのではないかとも思えるも、Aは本件土地の所有権登記がなければ自己の所有権をCに対抗できないのであるから、Cは借地借家法10条1項の対抗要件を具備したことを直接の根拠に、第三者であるCに有効な賃借権を対抗することができる。
(3)よって、Cの反論は認められるため、Aの請求は認められない。
2. 設問後段
AがCに対して2023年10月以降に翌月分の賃料の支払いを請求できるためには、Aが賃貸人たる地位を有し、それをCに対抗できる必要がある。しかし、Aは契約①の解除後、甲土地の所有権移転登記をしたといえる事情がない(605条の2第3項)。したがって、Aは自己が賃貸人たる地位の移転(605条の2第1項)があったことについて、Cに対抗できないため、かかる請求は認められない。
第2 問2について
1. AからBへの請求
(1)AはBに対し、解除(541条)に基づく原状回復請求権に基づき、甲土地の返還を請求することが考えられる(545条)。しかし、甲土地はCが占有しているため、Bが甲土地をAに返還することは社会通念上履行不能である(412条の2第1項)。したがって、Aは、Bが代わって客観的価値返還義務を負うことを根拠として、甲土地に代わる金銭の返還を請求することが考えられるが、2000万円か、減価分700万円か、いずれを基準とすべきかが問題となる。
契約関係の巻き戻しの場面である、解除に基づく原状回復請求権とは、自己が当初負っていた債務につき相手方を履行前の状態に戻す旨の意思表示である。また、この場合に減価分を基準とすると、何ら帰責性のない解除権者に減価分の損害を負わせる結果となり、結論として不当である。したって、2000万円を基準とすべきである。
そうすると、BはAに対し、客観的価値返還義務として2000万円の返還する義務を負いそうである。
もっとも、BはAに対して支払った1500万円の不当利得返還請求権を有することを理由に、同時履行の抗弁(533条)及び相殺(505条)の行使を主張するであろう。
しかし、2023年1月から3月にかけて、Aは1500万円を競馬に注ぎ込んで全額費消してしまっているため、現存利益が存在しない。したがって、Bは1500万円の不当利得返還請求権は有しておらず、上記主張は認められない。
よって、Aの同請求は認められる。
(2)不当利得返還請求(703条)を根拠に、2023年4月分から10月分にかけての140万円の賃料の返還を請求することが考えられるが、利得に対する損害は存在しないし、Bの才覚によりかかる利得を得たことから、この場合返還請求を認めないことがむしろ当事者間の公平にかなう。したがって、同請求は認められない。
2. Bから Aへの請求
不当利得返還請求権(703条)に基づき、1500万円の返還を請求することが考えられるもの、1(2)で述べたとおり、これは認められない。
以上

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