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20,11,02。プロレス本の話⑥

今回紹介させていただくプロレス本はタイガーマスクとして絶大な知名度と人気を手に入れながらも自らが夢見た総合格闘技の確立の為にすべてを投げうった稀代の天才佐山サトルを田崎健太氏が描いたドキュメンタリー「真説 佐山サトル」です。

以前紹介した「1984のUWF」同様本人及び関係者の証言を時系列順に並べた内容ですが、本人の証言の多くが現在の本人から語られている事が「1984の~」と大きく異なります。

タイガーマスクとしての衝撃的な引退劇からのカムバックで第一次UWFに参加し、団体としての基本姿勢を築きながらも追放に近い形で団体を追われ、結果的にUWFのみならずプロレス界にも背を向ける事になった要因については色々な記事や本で語られてきましたが、なぜ彼がすべてを投げうってまで創設したシューティングまでも追われる事になったのかはあまり積極的に語られてこなかったように思います。

幼少時代から現在に至るまでを描いたかなりボリュームのある本作で自分はその詳細を初めて知りましたが、関係者の証言等からかなり正確であろうと思われるその理由に対する感想は「もしも彼がタイガーマスクとして一世を風靡する事無くシューティングをスタートさせていたら…」と言うものでした。

わずか数年の間にタイガーマスクとしてプロレス界で絶大な人気を獲得してしまった事は、純粋な競技としての格闘技を設立しようとした佐山サトルにとって障害でしかなく、プロレスに対するルサンチマンから「華やかさにあえて背を向けようとする」姿勢は自らが育てた選手達からも疑問視される事になったようです。

興行的に利益を生み出せなかったシューテイングゆえに金銭的な問題も指摘されていますが、自分の個人的な感想としては佐山サトルの頑なな姿勢と天才と呼ばれた資質に原因があったように感じられました。本作で本人の口からも「自分が何でもすぐに身に付けられるので弟子がなぜできないのか理解できなかった」と語られているように「天才選手は名指導者になるとは限らない」を体現しているかのようです。

プロレスから総合格闘技への道しるべを築いたもう一人前田日明に比べると全てにおいて秀でた才能を感じる佐山サトルですが「持たざる者」ゆえの愚直さから比較的首尾一貫した主張で行動する前田日明に比べると結構行動及び言質がフレキシブルです。

打ち込んでいる際には猛烈に集中するものの、ひとたび興味を失うと苦労して築き上げたものすらあっさり手放してしまう。

そんな行動を繰り返してきたかのような天才佐山サトルの生い立ちから現在に至る本書を読むにつれ、天才には天才ならではの苦悩があるのだなと今更ながら痛感させられるのでした。


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