[キャラ語り] 美咲さん #ゆりぜん
白百合先生の初恋の人、「あの女」こと美咲さんのキャラ語りまとめです。
いったいなんなの、この溢れ出る色香は!
このとき、美咲さん37歳。目が眩むほど美しい人妻は、いけないと知りながら毎週、白百合先生の館に通ってくるのですが……
追記もあるので、最後までスクロールして読んでくださいね。
ロサ・ルゴサ。ハマナスの花。
マゼンタ色の美しくも清楚な薔薇のようだった美咲先生。
親のために若くして、大学を卒業してすぐですから、22歳頃には結婚した美咲さん。
裕福な家で何不自由なく「奥様」をしていたはずですが、27歳のとき、なんらかの理由で、産休代理の養護教諭として母校に勤める機会を得ました。
そのとき美咲さんは結婚指輪を外し、「旧姓」で勤めることを選択しています。
そのときはまさか白百合先生と恋に落ちるとは思いもよらなかったはずですから(狙っていたら相当な策士ですがw)、やはり望まぬ結婚に鬱屈した思いがあったのではないでしょうか。
大事にされていたとしても、きっと籠の中の鳥のような気がしていたのではないかと思います。
当時はまだ深刻に倦んでいたわけではないと思いますが、なにか憂鬱な思いがあって、だから気分転換に外で勤めてみたいと、そう夫に「許可」をもらったのかも。
母校で、女子校だから、許されたことかもしれません。期間限定で。
そして束の間の自由を堪能しようとしていた……。
美咲さんは、皆に忘れ去られた、荒れ放題の温室にも目をとめます。
それもやはり、まるで自分のようだと哀しく心を寄せているからです。
そして温室の緑を蘇らせることで白百合先生との邂逅を果たしますが、さて、美咲さんはいつから天音ちゃん(白百合先生)のことを恋愛的に好きになってしまったのでしょうか。
わたしは、最初のうちは白百合先生の片思いだったのではないかと思います。
美咲さんとしては想像以上に美しく成長した天音ちゃんに目を瞠るような思いはあったと思いますが、27歳の女性、しかも人妻が、17歳の女の子をそう簡単には好きにならない。ましてや生徒、しかも年の離れた妹の親友です。
多少ドキッとしたとしても、おかしな火がつく前にすぐに消火し、それなりにお姉さんらしく振舞うでしょう。先生らしくというか。
自分が既婚者でも、相手が生徒でも、好きなら気にしないという教師や大人もいると思いますが、美咲さんはそういう性格ではありません。
むしろ本来は、必要以上に抑制のきいた生真面目なタイプ。
だからこそ家のための結婚にも、諦念の思いを抱きつつ、唯々諾々と従っているわけですから。
では、なぜそんな彼女が倫ならぬ恋に落ちてしまったのか。
それは白百合先生の想いの強さゆえだと思います。
隠しても隠しきれないほど、あまりにもまっすぐに白百合先生は美咲さんを見つめたのではないでしょうか。
あの人、ちょっとそういうところがありますからね笑。愚直というか。
そのまっすぐな想いに美咲さんはおそらく動揺し、気づかぬふりをしながらも強く意識し始めてしまった。
もしかすると美咲さんも、それまで恋を知らなかったかもしれません。
誰のことも特別に好きじゃなかったから、気がすすまない結婚も「こんなものかな」と思えたのかも。
美しい人ですから、夫以外の男性たちから求愛されたこともあったはずです。でも、そこまで心は動かなかった。
なのに、なぜ?
かつてない高揚に後ろめたさを感じながら、それでも温室に佇んでしまう。
自分のために息を切らせて駆けてくる少女を待って。
美咲さんはそもそも男嫌いというか、女性のほうが好きな傾向があったんだと思いますね。そんな自分にもかたく蓋をしていた可能性がある。
だけど白百合先生ほどの爆撃がきたらひとたまりもない。
なんとかして教師としての理性を保とうとしますが、そこを強引に突破してしまうのが少女時代の天音ちゃんです。
自らの欲望にも勝てず、その想いを受け入れてしまう美咲先生ですが、これがもう後悔の嵐。恐怖との戦いです。目の前の女の子に恐ろしいほど惹きつけられながらも、こんなこと続かない、続けてはならないとつねに震えてるわけですから。
だからこそ、一度目は瞬時に逃げ出すんですね。
ゲームオーバー。恐れていたギロチンの刃が落ちたのです。
それは美咲さんにとって、「わかっていたこと」でした。
ところがその後は、白百合先生に負けず劣らずの地獄だったと思いますよ。
自分を見失うほどの恋を知ってしまって、現実の人生はますます色褪せたわけですから。
真綿で首を絞めるようにじわじわと絡みついてくる後悔の念、自責の念、もう二度と会えないという絶望。
実のところ、夫や婚家に強く望まれながらも、なかなか子をもつ決心がつかなかった美咲さんですが、34歳のときにとうとう娘を産みます。
それは虚しすぎる現実の中で、生きるよすがを求めた選択でもあったのですが……
その後、再び出会ってしまうなんて、なんとも皮肉なことですね。
次に恋を追いかけたのは美咲さんのほうです。
理性をかなぐり捨てて……いや、そうでもないかな。
彼女は、うまくやりたかった。必死で時間をやりくりし、幼い娘をどこかに預け、厳しい監視の目をくぐり抜けて、愛する人が待つ束の間の楽園へ。
行く道、帰る道に白いBMWを走らせながら、彼女は一体どんな思いだったでしょうか。
あの頃より、ずっと好きになってる。それは確かです。
そして大人になった白百合先生は眩いほどに魅力的で、肉体的には衰えていく自分自身に焦りもある。
白百合先生はひたすら美咲さんに惹かれ、翻弄されていますが、美咲さんからすると自分のほうがずっと分が悪いのです。10も歳上で、人妻で、子どもまでいる。そばにだっていられない。電話もできない。時間がない。自由もない。泊まれもしない。こんなのいつ捨てられてもおかしくないと……
もはやそれしかないというように繰り返し情事を重ねながら、すこしずつ狂っていく美咲さん。
それほど好きなら夫と別れれば? と、わたしなんかは思いますが、そうできないのが彼女の悲劇というか、しがらみというか、でも結局は……
あー、なんだかわたし、短編小説ひとつぶんくらい美咲さんのこと書いてない?笑 とにかく読んでください、ゆりぜん。そして『いばらの庭で、わたしに触れて』を。
あ、たぶん美咲さんは、杏樹さんにむちゃくちゃ罵られたり、物を投げつけられたりしてると思いますけど、ひたすら罰と思って項垂れるだけで、なにか言い訳したり、杏樹さんのことを嫌ったりはしていません。
何を言ってもただ黙り込む美咲さんに、杏樹さんはますますカッカするわけですが。
美咲さんも、自分のように結婚を強要されたりせず、家族の秘密を知らずに伸び伸び育ってきた妹に複雑な思いを抱いてはいます。でも、やっぱり妹だから愛情があるし、白百合先生とのことは自分が悪いしね。
杏樹さんも、美咲さんを蛇蝎のように嫌っていながら、美咲さんの夫や自分の親に姉の不倫を告げ口したりしないあたりは、ぎりぎりのところで姉妹の情があるのではないでしょうか。
わからない、美咲さんが離縁されたら天音とくっついちゃうからと思って黙ってるのかもしれないですけど笑。
ゆりぜん~サロン白百合のあったか薬膳ごはん
南部くまこ・作 東河みそ・絵 長岡桃白・監修