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運動神経のヒミツ

スポーツをしていると「運動神経」というキーワードをよく耳にしますよね。
よく使われているけど、誤解されていることが多い運動神経について、お話をさせていただきます。


運動神経は存在しない⁉

そもそも運動神経とは、解剖学の言葉で、体や内臓の筋肉を動かすための信号を脳から全身に送る末梢神経のことを言います。
よく、運動やスポーツを巧みにこなせる人のことを「運動神経が良い」と表現しますが、そういう意味での運動神経は、実は物質的には存在していないのです。

運動やスポーツで使われる運動神経とは、脳の指令で迅速により多くの筋肉をイメージ通りに働かせる「状態」のことを言うのです。

運動神経が良くなるメリット

運動神経が高い最大のメリットは、「動きの再現」ができること。
人間のカラダには、640個の筋肉があり、その筋肉が206個の骨にくっつき、伸びたり縮んだりすることでカラダの動きは作られています。

脳の指令で迅速に多くの筋肉をイメージ通りに動かすことができるようになると、コーチやトレーナーの指導通りの動きや、トップアスリートの動きを再現できるので、より早く上達することができるのです。

運動神経は幼少期で決まるわけでは無い

脳から筋肉へ命令を伝える運動神経のネットワークは2~4歳ごろに形成されだし、9~12歳までにほぼ完成するのが一般的。
この中で、神経のネットワークが飛躍的に発展する5~8歳ごろはゴールデンエイジと呼ばれ、この時期に体を動かして経験した内容は、その後の運動神経を決定づけると言われています。

そのため、時々、小学生低学年までにあまり運動をしていないと、「運動神経はこれ以上、良くはならない…」と思ってしまう人がいるのですが、そうではありません。

脳には一度覚えた動きを新たに正しい動きに修正するのを妨げる「神経支配の縛り」があります。ゴールデンエイジの頃に飛躍的に運動神経が発展するのは、まだ、この縛りが無いからです。

子どもたちはすぐに色んな動きができるようになる

でも、成長期を終えると運動神経は固定化されて発展できなくなるわけではありません。

脳の中の動きのイメージを実際の動きが上回ると神経の縛りが書き換えられます。
ですから、理想的な新たな動きをイメージしながら、反復運動を繰り返していくことで運動神経を向上させることはできるのです。

イメージ通りにカラダを動かせますか?

自分はイメージ通りにカラダを動かすことができていると思いますか?
この質問をすると、ほとんどの人が「YES」と答えるでしょう。

確かに、普段、顔を洗ったり、食事をしたり、スマホを操作したり、自分が思った通りの動作ができていると思います。
でも、そういった日常生活を不便なく過ごせているからといって、イメージ通りにカラダを動かすことができているのかというと、そうではないのです。

では、イメージ通りにカラダを動かすことができているかどうかをチェックしてみましょう。

目をつぶって立ち、両手を左右に持ち上げていきます。
そして、両手が地面と平行になったと思ったところで手を止めてみてください。

さて、どうでしょうか?
目を開けて確かめてみると、完全に地面と平行ではなく、数センチ単位で上か下にずれてしまったのではないでしょうか?

スポーツで求められるのは秒単位やミリ単位のボディコントロール。
リリースのタイミングが1秒ズレたらボールを目指したところに投げることができないし、股関節の動きが1ミリズレればボールを蹴る位置は数センチずれてしまいます。

目を閉じて立つという、カラダを静止した状態で両手を左右に持ち上げる動作するより、カラダを動かしている状態でコントローする方が断然難しくなります。

ある投手の話…

以前に、高校野球の強豪校の監督にあるピッチャーの相談を受けたことがあります。この生徒は、全国中学校軟式野球大会で優勝した学校でピッチャーをしていた実績のある投手。

高校に入り、思ったほど身長は伸びなかったものの、リリースポイントをもっと前にすることができれば、球速が上がるし、コントロールが安定するので、甲子園でも十分に活躍できるはずだと。

ところが、どんなに正しい動きをレクチャーしてもリリースポイントが変わらない。もちろん、生徒も正しいフォームを頭では理解できているのですが、その通りの動きができないのです。

監督は、その原因が体幹が弱いからではないかと考え、体幹トレーニングをするように指導をしていました。その結果、半年ほどで胴体は一回り大きくなったものの、フォームが変わらないと悩んでの相談でした。

フォームが変わればパフォーマンスが変わる

確かに、リリースポイントを前にするには、下半身の体重移動と骨盤の回転の力を上手く上半身から腕に伝える必要があります。
しかし、そのために必要なのは、この生徒の場合、体幹の筋肉量を増やして強くすることではなく、下半身、腰、上半身、腕がスムーズに連動できるように神経伝達を良くすることだったのです。
実際、運動神経を良くする取り組みをしたところ、1週間もしない間にリリースポイントが変わったと非常に驚かれました。

この監督は特別な事例ではありません。
理想の動きができない原因が筋肉にあると考え、筋トレに重点を置いた練習を指導するトレーナーは少なくありません。
でも、正しいフォームが理解できていながら再現できないとしたら、それは筋肉ではなく運動神経に問題があると考え、運動神経を良くする取り組みをするべきなのです。

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