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ヴァンテアンと音と絵画

メロディピースベル

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 ヴァンテアン号のAデッキにある鐘には、メロディピースベルという名前があります。ヴァンテアンにちなんで21個のベルがあしらわれているほか、中央部のドームにはスピーカーが設置されているので、写真室にあるボタンを押すことで曲を流すことができます。
【2/20追記】メロディーピースベルの素材は真鍮製で、長崎造船所にて製造されています。メロディはICカードの容量の許す限り登録することが可能で、当時は200曲ほどあったといいます。コンピューター制御により鳴動する画期的な装置だったことが伺えますが、実用的な側面で言えば毎回200曲という数の中から選んで鳴動させるのが現実的でないことは、実際に操作していたので想像がつきます。(絞られた10曲の中ですら聞かずじまいの曲もありました。)そういったことから、最終的に下記の10曲に絞られたと考えられます。

1.結婚行進曲
文字通り結婚式利用の際に鳴らす曲です。鳴らすタイミングは厳格に、Aデッキにいるスタッフからトランシーバーを用いて合図をもらいます。

2.ジングル・ベル
クリスマスの定番曲ですが、使用できるシーズンが限られているため少なくとも最後の3年は鳴らしているところに遭遇したことはありませんでした。

3.オーバーザ・レインボー
原題『Over the Rainbow』 ~オズの魔法使~より ジュディ・ガーランド
レインボーブリッジを2回目、着岸前に通過する時に鳴らされます。忘れなければ必ず鳴らすポイントなので、最も多く聴かれたナンバーかと思います。流すポイントは大体第6台場を目印にしていました。

4.愛のオルゴール
原題『Music Box Dancer』フランク・ミルズ 1974
以降は汎用曲となります。汎用曲を鳴らすタイミングは出港時と着岸の際旋回した時ですが、後者は各部署レジ締めの時間とあってベルまで手が回らない場合もあります。また、後述の理由から3番、5番、7番、10番以外を私がちゃんと聞いたことがないため、原曲はタイトルからの推測となります。この曲は就航当時電話のメロディIC等でも採用例がありました。

5.そよ風のメロディー
原題『Petite Mélodie』 邦題『そよ風のメヌエット』 ポール・モーリア 1977
キャプテンお気に入りのナンバーとあって、オーバーザレインボーに次いで鳴らされていました。ただフロントの気分にもよってまれに5番以外が押されることもありました。6番と共にフランスからのチョイスです。リストではそよ風のメロディーとなっていますが、原題の和訳は「小さなメロディ」ですので、混ざってしまったのでしょうか。

6.愛の讃歌
原題『hymne a l'amour』エディットピアフ 作曲:マルグリットモロー 1950
汎用曲の中で、唯一着岸時のみ使用するように指示が出ていたナンバーです。そういったこともあってあまり押されてはいませんでしたが、着岸時の後ろ髪を引かれるような憧憬を演出する曲としては素晴らしいチョイスだと思います。

7.煙が目にしみる
原題『Smoke Gets In Your Eyes』〜ロバータ〜より ジェローム・カーン 1933
映画ロバータの劇中歌で、ザ・プラターズによるカバーで再ヒットをした曲です。日本でも山下達郎によってカバーされました。

8.トップ・オブ・ザ・ワールド
こちらについてはおそらくカーペンターズの『Top of the world』ではないかと思うのですが、何分聞いたことのないもので断定が出来ません。もし竹芝で離着岸などの際に聞いたことがあるという方がいらっしゃいましたらお知らせください。

9.LOVE・LOVE・LOVE
DREAMS COME TRUE
この曲自体が95年のリリースですので、89年就航の本船に載るナンバーなのかという点で疑問が残りますが、書き換え可能な装置なので後年に追加された曲目の一つであると思われます。アメリカのダニーハサウェイもLOVELOVELOVEを発表していますが、後年の改修も不可能ではない点、結婚式でも使える点から、DREAMS COME TRUEのLOVE・LOVE・LOVEであるとしました。いずれにせよこちらも聞いたことのない番号ですので、聞いたことがあるという方がもしいらっしゃいましたらお知らせください。

10.イフ・ウィ・ホールドオン・トゥゲザー
原題『If We Hold On Together』ダイアナ・ロス
最後に収録されているこの曲は、1988年公開のアニメ映画『リトルフット』の主題歌として制作された作品です。日本ではTBSの金曜ドラマ『想い出にかわるまで』にも使用されました。

BGM

 ヴァンテアン号のBGMは明るいうちのランチ・トワイライトと、日が沈んだディナーとで雰囲気を変えており、更に下船用とジャズナンバーを集めたものとで計4枚のCDを常備していました。これらのBGMは写真室内にあるCDデッキを通じて全船向けに放送していました。CDデッキの立地の関係上BGMを流したり止めたりする作業は、フロントさんの手が空いていないときは我々カメラマンが行っていました。

下船用BGM『Danny Boy』 木住野佳子
 下船時に流す曲は、アイルランドの国歌とも言われるLondonderry Airに歌詞をつけたDanny Boyのインストが流されます。着岸して笛が鳴る頃に差し替えていました。

生演奏

 ヴァンテアン号では主にディナー便において、リバージュとピア21でのピアノの生演奏が行われていました。演奏者のスケジュールなどもホームページに掲載しており、しっとりめな方や情熱的な方など様々なピアニストの方がいらっしゃいました。またクリスマスには毎年バンドが乗り込み、出迎えや見送りを始め各部屋を練り歩き演奏を行っていました。演奏中の接客はなるだけ避けるようにしていたので足止めになってしまうのですが、それを差し引いても毎年の楽しみの一つでした。

ヴァンテアン号の絵画

柳原良平

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 一般にはトリスハイボールのイメージキャラクターである『アンクルトリス』で知られる柳原良平氏ですが、自ら船キチを名乗る大の船好きで、縁あって東海汽船の名誉船長にも就任しています。就任式が行われた場所こそ、このヴァンテアン号でした。作品の中には船をテーマにしたものが多く、『ボンボヤージュ』もその一つです。版画の一種であるリトグラフということで50点刷られており、ヴァンテアン号に飾られていたものは33点目であることが記されています。またもう一点『行雲流水』の展示もされていました。

金原優子

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 コンテンポラリーアーティストである金原優子氏の作品は、12点が2009年より常設展示されました。現代美術にカテゴライズされるこれらの作品群は、幾何学的な模様で構成されているのが大きな特徴であると言えます。レストランや廊下、各個室(オパール・コーラルを除く)に展示されていました。


 クルーズを彩る絵画や音楽もまた、ヴァンテアン号を構成する要素になります。昭和から平成にかけてのトレンドを汲む作品の数々、ヴァンテアン号がいた時代の写し鏡として是非鑑賞してみてください。

 本誌ではヴァンテアン号に乗船した際の乗客目線での写真も募集しています。船内の写真、料理の写真、名所の写真などありましたらお寄せください。また今回紹介しましたメロディーピースベルについての情報、絵画の写真なども併せて募集しています。ご協力頂いた方々に対しまして、PDF形式での献本、印刷版の割引頒布をさせていただきます。情報提供、写真の掲載をして頂ける方は、Twitterもしくはメール[nokuchi201@gmail.com]にてご連絡をお待ちしております。

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