【怪談】おさいせ
グレーチング、ってわかりますかね。
排水溝にある格子状の蓋のことです。道路とか歩道で水を流すのに使われてるやつ。
私、あれにちょっと嫌な記憶がありまして。
私が高校一年生の頃です。
その日は八月中旬の夏真っ盛りの時期で、外を数分歩いただけで全身から汗が溢れるぐらいの暑さでした。
午前中、図書館に本を借りるために家を出た私は、比喩無しで死ぬほどの暑さに襲われていました。図書館まであと数分ではありますが、それすらも耐え切れなかった私は自動販売機を探し始めました。
そして、田んぼの近くにポツンと佇む、一台の自動販売機を見つけました。
額の汗を拭いつつ、私はその自動販売機に駆け寄りました。
足元にはグレーチングが広がっています。
自動販売機の前で財布から小銭を取り出そうと弄っていると、不意に私の手から百円玉が零れ落ちました。
重力に従って落ちていく百円玉はたまたま私の靴にぶつかり、そのまま自販機の下に転がっていきました。
少し苛立ちながらその百円玉を拾うために身をかがめた私は、そこで初めて足元のグレーチングのおかしな点に気が付きました。
グレーチングの一部が、赤いペンキのようなもので塗られていたのです。
先ほども言ったように、グレーチングは格子状――つまり、いくつもの直線で構成されています。
それはよく見ると、横線2本、縦線2本の赤い線で、まるで鳥居のような形をしていました。
そして、その格子の奥にあるものを見て、私は「あ」とも「う」ともつかないような声を漏らしてしまいました。
そこには無数のソフビ人形が山積みになっており、その周りには小銭が散らばっていました。キューピーのような人形やヒーローモノの人形、怪獣の人形など、ありとあらゆるソフビ人形がそこにはありました。
いつからそこにあるのか、カビが生えているものが大半でした。
私はすぐにその場から立ち去り、別な場所の自販機でコーラを買いました。そして、図書館に向かいました。
それ以来、私はそこの自販機に近づくことはありませんでした。
時折、グレーチングを見かけるとこの記憶を思い出します。
今思うに、あれはたぶんお賽銭箱のようなものだったのでしょう。
もし、あのとき小銭をグレーチングの下に落としていたら、私はいったい、何に対してお供えをしてしまっていたのでしょうか。
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