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※これはフィクションです。②

「今度飲みにいかない?」
「あの、前にあなたが連れてってくれたバー。」
「あそこがいいな。」

A子は、食事の手を止めて唐突に切り出した。

「どうしたの?」
「珍しいな。君から飲みに誘うなんて。」

「え?…いや、なんとなくよ。」

付き合って3年くらい経つが、彼女から外で飲もうと
言ってきたのは、はじめてだったんじゃないかと
思う。

「へー。あそこ気に入ってくれたの?」
「そうだね。また今度行こう。」

取り急ぎの話ではないなと、私は適当に
話を流そうとした。

「今週末とかどう?」
「予定とかある?」

するとA子は、食いぎみに話をすすめてきた。

「え…あぁ、空いてるけど…」

「じゃ、今週末に!」

A子は、どちらかというと普段はおとなしめで、
物事にあまり積極的ではなかった。

だが、時々おどろくような行動力を
みせる一面も持ち合わせていた。

そもそもA子と出会った時、私には7年も
付き合っていた同い年の彼女がいた。

ゆくゆくは結婚…って、話もでてきていた
ところまできていた。

A子は、職場の後輩で私より8つも年下。

街を歩けば、男が振り替えるぐらいの美人だった。

陸上をやっていたこともあり、スラッとした
モデル体型。

身長も私より大きい。

私の職場に、後輩として紹介された時は、
正直、ドキドキした。

仕事の先輩後輩という関係だったが、日に日に
距離が近づいている気はしていた。

してはいたけども、、

彼女に告白された時は、正直ドッキリだと思った。

こんな娘が、私なんかに恋心を抱くはずがない。
誰かか、影でかくれて動画でも録ってるんじゃないか?
って、本気で思ってた。

「君みたいなかわいい子に、そんな風に思って
もらえて嬉しいよ。」

「嬉しいけど、僕には彼女もいるし、、」
「それに、君には僕は不釣り合いだ。」

「君みたいな若くてかわいい子には、
 いっぱい誘いがくるだろ?」

「僕は、もう来年30歳だ。」
「親からも、そろそろ結婚は…とか話も出てくる…」
「こんなに歳も離れたオッサンと結婚なんて
 君も考えられないだろ…」

…!?

彼女は私の話を遮るように、大きな声で言った。

「わたしじゃ、わたしじゃダメですか!??」

彼女は、目に涙を浮かべながら、訴えてきた。
潤んだ瞳が、ますますかわいい。

本来なら飛び上がって喜ぶところだ。

「ダメ…じゃない。」
「ダメじゃないけど、彼女もいるし、、」

「じゃ、彼女さんと別れたらわたしと
付き合ってくれますか?」

「別れたら…別れたら…んー。。」

最近は、結婚話の度に衝突することが増えて
ギクシャクしはじめていた彼女の顔が、
浮かんできていた。。

「それでも、やっぱりダメなんですか?」

「いや、そういわけじゃないけど、、」

「その…正直、、君と付き合えたら楽しいだろうな…
とは思うよ。」

だらしない男の性(さが)が、こんな千載一遇な
チャンスをはっきり断るということを
ためらっていた。

「それじゃあ…!」

「まっ待て!気持ち的にはそうなんだけど…」
「なんていうか、、その、、怖いんだ。」

「怖い?」

「そう、君と付き合うのが怖い…」

「え?」
「どういう意味ですか?」

「君はまだ若い…若い上にきれいだ。」

「僕をちゃんと見なよ?」
「君みたいな若い子から見たら、オッサンだろ?」

「特に裕福って訳でもない」

「人が見たら、僕が何かしらの手を使って君をだましてるようにしか見えないだろ?」

自分でも情けなくなるような現状を自分で言う屈辱感。
私は彼女に、自分がいかに情けないのかを
説明して聞かせると言う、不思議な構図になってきた。

「それが、どうしたっていうんです?」
「私はあなたが好きなんです。」
「それ以外に、理由なんて必要なんですか?」

私はハッとさせられた。
いつの間にか、男女の関係さえも損得で
判断するようにしか考えられなくなっていた自分に。

「え?」

あぁ。そうか。

この子に裏なんてないんだ。
若い時の自分がそうだったように、、

この子は、一生懸命に恋をしている。

青臭くて、恥ずかしくなるような青春を
今、私に向けて吐き出しているんだ。

……と、なると、コレはこちらも真剣(マジ)に
ならなくては…

「ちょっと待ってくれ!」

私は慌てて、ヒートアップしたA子をなだめ、
ゆっくりと話し始めた。

「気持ちはわかった。」
「僕も、真剣に考えたい」
「考えたいから少し時間が、欲しい…!」

精一杯絞り出したセリフは、ただの時間かせぎだった。

「第一に、僕には彼女がいる。この状態では
君に即答することはできない。」

「それはわかるだろ?」

「はい…」

A子は、渋々返事をした。

「一週間。一週間時間をくれ。」
「僕なりに答えを出すから。」

「一週間……わかりました。」
「すみません。」
「わたしが突然切り出したのに、困らせて。」
「急に気持ちがおさえられなくなって、、」

「うん。」
「それが、若さだと思うし、君の気持ちも」
「なんとなく解る。」
「昔の自分もそうであったから、、」
「だからこそ、即答はしない。」
「君みたいな良い子には、後悔をして欲しくないから」

「後悔なんてしませんよ!」

A子は、さらに口調を強めて言った。


三日後、、私は付き合っていた彼女の家へと向かっていた。




※これはフィクションです。
実在の人物、団体などとは関係ありません。


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