DEZOLVE 5thアルバム『Frontiers』 を聴いた『思い出』を語る
0.はじめに
DEZOLVEというバンドをご存知だろうか?
知っていた方へ。この記事で少しでも新たな発見があれば嬉しい。
知らなかった方、彼らの音楽を聴いたことが無かった方へ。この記事で少しでも彼らの音楽への興味が湧いたなら。そして彼らの音楽を聴いてくれたなら嬉しい。
DEZOLVEは「フュージョン」というジャンルに分類される音楽をやっているバンドだ。フュージョンはジャズを基調にさまざまなジャンルを"融合"した音楽ジャンルである。バンドプロフィールをここに引用する。
北川翔也(gt)、友田ジュン(key)、小栢伸五(ba)、山本真央樹(dr)の四人から成る若手フュージョンバンド。2014年に山本、友田、小栢の三人で結成され2015年9月にギターの北川が加入で完成されたインストゥルメンタルフュージョンバンド。メンバー一人一人が異なる系統の音楽から昇華していくプレイ、楽曲は、常に聴く人々を魅了していく。
一言で言えば「ありえんテクいしヤバめにビッグなスケールの激アツ☆マジヤバ☆インストバンド」だ。彼らの音楽は私の語彙力を無に帰すくらいには素晴らしい。
2020年2月19日。そのDEZOLVEが5thアルバム『Frontiers』をリリースした。今作は『境界』がテーマとされ、あらゆる音楽の境界を越えて彩り豊かな楽曲が詰まったアルバムである。この記事はDEZOLVEファンの筆者が新譜『Frontiers』を拝聴した感想、もとい『思い出』を書き連ねたものである。この記事は以下のレギュレーションに従って書かれた。
書き終えるまで
絶対に
聴き直さない
楽曲の正確な事実を伝えるよりも、ファンとして、リスナーとして、私は「新曲の1回目の視聴」という二度と無い体験を大事にしたかったのだ。聴き直せば情報の量も確度も上がるが、この新鮮な感情をありのまま伝えたかった。というわけでこの記事は筆者の「1回の視聴」に基づいて書かれている。事実ベースというよりも印象ベース、思い出ベースになっていることに注意されたい。だが調べて分かった事実ベースの話も書く。私はオタクなので無限に込み入った話をしているが、オタクすぎる話は私の妄想と捉えていただいても構わない。
注意点をいくつか。オタクです。私の感想に基づき各種コンテンツの楽曲を紹介していますが、共通点や類似性をパクリ等と言うつもりは毛頭ありません。関係性を勝手に感じてオタクが喜んでいるだけです。コード進行・ベース進行の話が多いです。オタクです。これらが苦手な方はそっ閉じしてください。
冒頭にApple Musicのリンクを貼ったが、spotifyのリンクも貼っておく。こちらは誰でも聴くことが出来る。どのタイミングでもいいので、DEZOLVEの新境地『Frontiers』を是非聴いてみてほしい。
1. ASTERISK
作曲:DEZOLVE4人の共作
編曲:山本真央樹
(※動画はイメージです)
メンバーの共作というのは知っていた。1発目からどんなヤバイ曲を持ってくるんだろうとめちゃくちゃに身構えていたら、嘘のように穏やかな曲だった。まさかこんなに抑えたBPMで共作にしてくるとは…。
聴いてる最中、佐藤直樹さんの「DEPARTURE」を思い浮かべた。確かスネアパターンがクラーベの3−2で、とても堂々とした曲だなぁと思った。
あとキーがG#なのも、自分が「王道」を感じさせるキーだと思っているので余計に"Majestic"(雄大)に聴こえた。
↑こちらのインタビュー記事にASTERISKに関する情報も書かれている。
また、ライヴでお客さんと一緒に歌えるようにチャントのような合唱パートを入れたという“ASTERISK”では、初めてメンバー4人で共作。
なるほど、触れなかったが確かにサッカーなどで見られるチャント(応援歌)が入っていた。これをライブで歌って参加できるのは楽しみだ。
一言で言うと、「何が始まるんです?」と思って聴き始めた1曲目は、アルバム全体を「何が始まるんです?」と思わせるような導入的な曲だった。はやく聴き直したい。
2. Frontiers
作曲・編曲:山本真央樹
ヤバすぎ。
DEZOLVE初のアルバム表題曲である。この曲は、我々ファンが思い描くであろう『DEZOLVE』の音像に100%、いや200%、いや5億%くらい応えたような曲であった。
この曲は2020年1月8日のライブにて披露されたことがある。私はそこでライブ版を聴いた後に音源版を聴いたことになる。
実はライブで聴いた時はこれが共作なのかな?と思っていた。というのも北川さんギターのフレーズや友田さんのピアノフレーズにかなり各人の個性が表れているように感じたからだ。(作曲者がどこまでフレージングを指定しているかは分からないが…)
ライブで聴いた時は音の圧と情報の洪水で完全に前半は呆然としてしまっていた。特にベースがギターと2ラインを作っているようなフレージングになっており、初見では脳が処理し切れなかったことを覚えている。
音源で聴くと、3rdアルバム『PORTRAY』の山本さんの曲「Shaping the Future」を彷彿とさせるような音になっており、確かに山本さんの曲らしさが感じとれる。
…が、音の密度、というか"洪水度"は「Frontiers」のほうがとんでもないことになっており、1, 2度聴いただけでは前半何が起きているのかまだまだ分からない。というわけで早く聴き直したい。
曲の後半。打って変わって同じリフを繰り返し、エモーショナルに聴かせる場面となる。
このリフが「4-3-2-(5)-1」という自分が好きなエモい進行で、そこに 「4#」 や「7b」 という最近のアニソン系ポップスでよく取り入れられるコードを経過音として挟んでおり、ポップネス爆発といった瞬間が訪れる。
特に 「4-7b-3-6」 という進行は、音楽制作クリエイター集団MONACAの田中秀和さんの作曲「ススメ☆オトメ」「七つの海のコンサート」等で印象的な進行で、氏のファンである私には個人的に大きく感動した部分でもある。(まだ1回しか聴いていないので違っていたらすみません…。)
DEZOLVE曲に山本さんのポップなコードワークとキラキラなアレンジが美しい傑作があるのでここで紹介しておく。4thアルバム『AREA』の「Last Colony」だ。4thアルバム『AREA』には「地球の誕生から新しい世界の始まりまで」という壮大すぎるコンセプトがあり、この曲も明確なストーリーがある。この曲が気に入ったら是非アルバムを通して聴いてもらいたい。
後半で「1-4#-4-7b」を基調としたテーマを転調しながら繰り返し、大きな多幸感をもたらして曲を締めくくる。シンセのハーモニーも大変心地良い。アルバム11曲中の10曲目にして遂に、長い旅路のカタルシスが解放されるのだ。
話をFrontiersに戻そう。1度ライブで聴いた時の感想が以下のツイートだ。ライブはインパクトが強すぎて感想がまとまらなかったが、当時の衝撃が伝われば幸いである。
終盤。さらに打って変わって音ゲー曲状態になる。山本さんのGITADORA提供曲「MIND ERUPTION」の終盤のように変わったリズムで同音の打ちが続き、プログレッシブで強力に曲が終わる。
この曲は『いままでのDEZOLVEらしい曲』でありつつも、以前からさらに進化したバンドで未来を感じさせる楽曲であった。はやく聴き直したい。
3: re: fruition (Feat. やなぎなぎ)
作曲・編曲:山本真央樹
(※画像はイメージです)
ヤバ過ぎる。なんだこれ???情報量が多すぎる。何が起きているんだ?
この曲はDEZOLVE史上初のボーカル曲である。前情報として、2020年1月8日のライブにて「どうしても弾けない音があった」と北川さんが言っていたのでたぶんヤバい曲なんだろうなぁ〜〜〜というのは思っていた。
(※弾けないのは超絶テクいフレーズではなく穏やかな部分だったらしい。詳細にどこの箇所なのかは不明)
さてどんな曲が来るんだ?と全力で身構えて再生ボタンを押す。来た!今までの曲のなかでも最大級にアグレッシブで激しい曲だった。まさかボーカル曲でここまでやるとは。。。特にフィルインあたりで音がLRに振られまくったり、ブレイクビーツが入りまくっていたり。
サビ(Chorus)では唯一落ち着いて聴くことができたが、サビでもかなり激しめの演奏になっており、ほとんど気が抜けない曲だった。
サビで特徴的なのはポップなコード進行であろう。「3-3b-2」というドミナント「5」を強く強く期待させる誘導のような進行が使われている。これはポップスにおいてはサビの常套句の1つである。この曲においては確か「5」に解決させるのではなく裏コード「2b」に解決させ、ドミナントの強い主張をマイルドにさせていたような気がする(自信がない)。
とにかくボーカル曲とは思えない程の恐ろしい難易度と音の密度。ボーカル曲という新たな試みをしながらも「DEZOLVEらしさ」がしっかりと実現されているのが素晴らしい。『Frontiers』というアルバムタイトルにふさわしい曲なのではないだろうか。はやく聴き直したい。
あと、ギターがいろいろおかしい、ヤバいことになってる。なにこのソロどうなってんの???
4: Across the Silk Road
作曲・編曲:北川翔也
(※画像はイメージです)
激しすぎる3曲目から雰囲気を変え、中国風のサウンドと例の音階から曲が始まる。
二胡のリードサウンドが気持ち良い場面になり、一転してDEZOLVE史上最もハードロックなサウンドの場面になったりと、かなりドラマティックな曲である。ちなみに過去のDEZOLVEハードロック代表曲は、2ndアルバム『SPHERE』の山本さん作曲「Orbital Revolution」であろう。
本曲「Across the Silk Road」はシンプルめのメロディーラインを繰り返しながら、それに対してリハーモナイズを少しづつ加えて曲を進めていく。
こうした曲構成と溢れんばかりの疾走感はゲーム音楽を彷彿とさせる。作編曲の北川さんが自身の初作曲であったという2ndアルバムの「Into the Azure」や、4thアルバムの北川さん曲「Beat The Moments」の系譜を汲むように思う。前者は落ち着いた曲ではあるが後者は爽やかな疾走感に満ちており、どちらもテーマの維持とリハモが気持ちよい・楽しい曲である。
というわけでドラマティックで楽しい曲だった。はやく聴き直したい。
5: Wolf
作曲・編曲:小栢伸五
とにかくストレンジな曲。いや、ほんとに。まじで。
この曲はライブで披露されたことがあったらしいのだが、自分はそのライブに行けなかったのでこれが初見である。…えっこれ演奏可能なの…?
ミニマルで最近のサウンドな感じであるという前情報を得ていたので、さぁ聴いてみると確かに『Anomalie』のようなサウンドでエレクトロな感じである。 diminishなスケールも相まってAnomalieの「Velours」をかなり強く想起した。
しかしドラムのリズムが訛りまくっていたり、中間部のソロがとにかく死ぬほどストレンジでおかしかったり、Aメロ(Verse)とかシンセ3本くらい入ってて「ギターはどこへ…?」て感じだったりと、攻めに攻めた楽曲になっている。どうやってレコーディングしたんだ…?
もしアーティスト名を伏せてこの曲単体で聴くことがあったならば、自分はDEZOLVEの曲だと答えられる自信が無い。
ラスサビ?あたりのコーラスでM7の音が来て、やっとDEZOLVEだったことが確かめられた感じだった。
あとコード進行もかなりミニマルで、進行的にも今までにないパターンである。
ちなみに小栢さんの曲は美しく風景を切り取ったかのような叙情的な楽曲が多い。2ndアルバムの「Rails in the Cloud」などは雲の中を走り抜けていくようなファンタジックな疾走感と浮遊感が感じられる名曲だ。
極めつけ。終わり方が非常にぶっきらぼうで「これで終わりw!?」って感じだった。攻めてるなぁ。聴き逃した要素も多そう。早く聴き直したい。
6: A Day in the Sunlight
作曲・編曲:北川翔也
クイーカが象徴的でありつつも落ち着いたサンバのリズムでブラジリアンな楽曲。このアルバムは6曲目でやっと落ち着けるのか〜!と安心して聴いていた。
メロは4thアルバムの小栢さん作曲「Fairy Garden」のようにガットなのかと思いきや、クリーントーンのギターであった。あまりギターの音作りに詳しくないが、今までとはまた違ったサウンドに聴こえた。
さて、たぶんBメロであったと思うが、2,4拍目にサンバのスルドの低音位置にフロアタムとベースが入るのが大変気持ちいい。「Fairy Garden」もBメロでこのフロアタムと小栢さんのボイスが大変気持いい楽曲だ。
ブラジリアンな要素を入れた楽曲といえば、DEZOLVE曲ではないが、MONACAの田中秀和さんの作曲に山本さんと小栢さんが演奏で参加されている「Linaria Girl / 鹿乃」と「Blessing / 高垣楓」が印象的だ。やはりこのリズム隊ふたりのサンバテイストのリズムは最高である。
さて、サンバ要素を推してきたが、この曲はここまでで初めて「ジャズ」としての括りに入れられるようなセッション寄りの楽曲でもある。サンバパートがややプログレッシブなリズムで遊ぶ部分も多く、なかなかスリリングな部分もある楽曲だった。
…ふう、いい曲だったな。さて次の曲は…
(※画像はイメージです)
!?!?!!?!?!?!??!?!?
突然のピアノトゥンバオ。
突然のコーラス、というか掛け声、とアップテンポサルサ。
はw!?!?え、曲中で世界旅行?!?!(南米→中米)
声出して笑った。まさかここまでやるとは。
なんかものすごいアゲアゲハイテンションだったのは覚えてるが衝撃で詳しく思い出せない。早く聴き直したい。
7: Hidden Sanctuary
作曲・編曲:山本真央樹
日本をインドに!
\しってしまえーー!!!/
エキサイトォォォ〜〜〜〜〜!!!
ナチュラルハイ!!!トビマストビマス…
…そんな曲だった。
さて。この曲はインド要素をあまりにも積極的に取り入れた意欲作となっている。
まず音階。おそらく「C, Db, E, F, G, Ab, B, C」の音階になっていた気がする(うろ覚え)(キーは異なります)。理屈は分からないかなりインドを想起する音階だ。
面白いのがサビ(Chorus)ではハーモニックでキレイなコードで安心感のあるパートになっている(はず…?)ところに、インドな音階のままメロディーラインが作られているところだ。これによってコードと多少の衝突が生じ、コミカルさとポップさを感じた。
同じくサビでは2ndアルバム『SPHERE』の山本さん曲「Distance to the Light」のハーモニーにつながりを感じた。コードまで詳しく覚えてないが、 「M7->Mm7」的な進行があり、この半音移動でこの曲を想起した。
こと「IV-IVm7」という進行に至っては山本さんがブログにて「好きなコード進行」として真っ先に紹介しているものの一部であり、山本さんの曲だけにとどまらずDEZOLVE全体で見ても象徴的で、とてもピースフルなハーモニーである。
ABメロ(Verse)はかなりカオスだった気がするのだが、ABメロはカオス、サビ(Chorus)では安心感・多幸感のあるハーモニーにするというポップカラーのコントラストを強くしたような曲構成は、山本さん曲の特徴のひとつだ。
うろ覚えだが、弦のピチカート + グロッケンという山本さん曲によく使われる音源も入っていた気がする。(これが氏の曲で最も分かりやすくカラーを出している音だと思っている)
他にも気になるポイントがたくさんあった。
…シタールの音はギターが出しているのか…?
…ベースのハーモニクスが\ピョイーン/って飛んでいくのどうなってんの?
他にも左サイドからタブラの音が延々と鳴っていたのが印象的だった。タブラもインド起源の楽器である。ドラムセットにタブラを組み込むドラマーも居るので、ライブではタブラパフォーマンスが見れたら嬉しいな〜〜なんて思ったり。
後半。ソロがヤバい。
ジャズライフ2020年3月号掲載のDEZOLVE新譜インタビュー記事によると、「コナッコル」というボイスパーカッションのような南インドの伝統芸能とドラムセットによる演奏を掛け合わせているようだ。
三味線では「チントンシャンテントン」と口三味線で音を伝えて来た訳だが、「コナッコル」はそういう性格のものではなく"芸能"としてのパフォーミングアーツであるようだ。コナッコルをドラムで"翻訳"した動画がある。凄まじいことになっている…
私は伝統芸能としての音楽を長らく取り組んでいた身なので、この曲の""コナッコル""がどういう原理原則に基づいているのかが気になってたまらない。軽く調べてみたところではいろんな流派・リズムパターンが存在するようだ。南インド音楽(Carnatic Music)にもっと詳しくならないとこれ以上は分からないのでちゃんと調べてみたい。
というわけでソロパートは複雑なリズムを口ドラムで喋りながら複雑なドラムを入れている。ライブでは同時に披露してくれるのだろうか、非常に楽しみだ。早く聴き直したい。
8: Sky Dream
作曲・編曲:北川翔也
(※画像はイメージです)
まさかここに来て直球のフュージョンサウンドが来るとは。8曲目にして初めて心を落ち着けて全体を聴くことが出来た曲だった。聴いていてとても気持ちいい曲だった。
いくつか気になったところ。イントロはクリーントーンのギターカッティングから始まる。このサウンドが昔のフュージョン全盛期のサウンドを想起させた。ギターをダブリングしているのか、空間系のエフェクトも相まって、広い会場でのライブを思わせるようなサウンドだった。
そしてこの曲、ずっと4拍子なのだ(たぶん)。テンポもミディアムテンポで、DEZOLVEの曲の中では相当にシンプルな曲だ。
DEZOLVEにおいて"王道"フュージョン曲が存在することは確かに新鮮に思えた。今までのDEZOLVEらしいフュージョン曲は若いサウンドという印象で、こうしたサウンドの曲は無かったように思う。
この曲のアルバムの立ち位置について考えてみたが、4拍子でシンプルに2,4に手拍子を入れることが出来る曲なので、ライブのアンコールやセトリの最後に持ってくる用の曲なのでは?と思うなどした。DEZOLVEによる王道サウンド、早く聴き直したい。
9. Rondo without Answer
作曲・編曲:友田ジュン
(※動画はイメージです)
Rondo(ロンド、輪舞曲)は音楽の形式でクラシックでの1ジャンルである。日本語にすると「答えのないロンド」というこの曲、グルグルと同じ寂しげな主題を繰り返すというロンド形式と、テクニカルながら美しい変拍子の楽しさを活かし、曲名のようなミステリアスさを醸し出す曲になっている。
また、この曲はノスタルジーを強く感じる曲でもある。キーがAbであり、先程紹介した自分のツイートにも書いているように「ノスタルジー」を感じやすくなっていると思う。
サビ(Chorus)はルートがAbで固定されていてトップノートが「5-6-6b-5」というラインを辿る。このクリシェラインがどことなく不安定であり、変拍子だが基本が3拍子なのもあって「オバケが出てきそうな大きな古いお屋敷での舞踏会」みたいな音の風景を生んでいると思う。
好きなポイント。サビなどでガットギターのラスゲアードがふんだんに使われているところ!ラスゲアードは指でギターを掻き鳴らす奏法でフラメンコで多用されるガットギターの奏法である。北川さんはエレキはもちろんアコギの各種奏法の達人で、ガットギターも信じられないほどうまい。私はガットギター大好きなのでこのパートは胸アツであった。
北川さんアコギもガットもうますぎ問題は以前一連のツイートで語ったことがあるのでここに貼っておく。
後半。ソロの部分、これは何拍子だ…?数えると4, 5, ... 4+5=9拍子か。
キーボードで9拍子のリフをひたすら繰り返していく裏でドラムが倍テンでリズムをとり、別々の拍子でアンサンブルする構成になっている。前述したジャズライフのインタビュー記事で山本さんはこの曲について
「ドラム的には9/16拍子ですが、楽器によっては9/8拍子で取っているんです。そのドラム・ソロは難しかったですね。」
と語っている。どうやら自分の感覚は正しかったようだ。
この曲のように奇数拍子の曲で倍テン or ハーフテンポの拍子を重ねるリズム、私はめちゃくちゃ大好きなのだ。。。
最もミニマムな「奇数倍テン合成拍子(今テキトーに名付けた)」は3拍子で3/8拍子に3/4拍子を重ねたもの、つまりいわゆるハチロク、6/8拍子である。ハチロクももちろん大好き。
この曲は9拍子だが5, 7拍子の例を知っているので紹介する。
5拍子の例は手前味噌で申し訳ないが自分の曲。5/8拍子に5/4拍子を重ねている。恐れ多すぎるのだがいい例が思い浮かばなかった…
どうだろうか。5/4が1周する間に5/8の拍子は2周するので、5/8の2周目がひっくり返ったように感じるのがこのリズムの気持ちいい所なのだ。
7拍子の例は『フィリスのアトリエ』より「水面にきらめく往来」という曲を紹介しよう。作曲は歌モノ楽曲なども多く手掛けている矢野達也氏である。この曲は7/4拍子のメロディーラインを7/8拍子のパーカッション群とバッキングが伴奏している。メロディアスとパーカッシブが同時に成立していて、思わず体を動かしてしまうくらい最高の気持ち良さを生みだすのがこのリズムの特徴と言えるだろう。
というわけで自分がめちゃくちゃ好きな変拍子の重ね方をしていたRondo without Answerであった。変拍子で気持ちよくなりたいので早く聴き直したい。
10. Solitary Ghost
作曲・編曲:山本真央樹
(※画像はイメージです)
直訳で「孤独なオバケ」。ハロウィン + バラードという明確なカラーを感じる楽曲。こちらも発売前のライブで披露されたことがあり、1度聴いたことがあった。この曲はDEZOLVEメンバーがプライベートで富士急ハイランドに遊びに行った際にみんなで入ったホラーハウス的なアトラクションでの思い出をもとに、山本さんがその日のうちに作った曲だそうだ。相変わらず恐ろしい作曲速度である。
曲構成。序盤がかなり変わり種で、オバケやハロウィンといったイメージを全面に押し出した雰囲気のオケとなっている。Aメロ(Verse)以降はバラード調で、以前の曲だと1stアルバム『DEZOLVE』の友田さん曲「Midnight Park」を彷彿とする。
曲は小栢さんのフレットレスベースがフィーチャーされており、主旋律を担っている。小栢さんのベースが一時的にメロディーを弾くことはあっても、曲を通して主旋となることは無かった。そういった意味でもこの曲は新しく挑戦的だ。
ちなみにこの曲のために小栢さんはフレットレスを新規購入されたようで、山本さんを車で迎えに行ってふたりで楽器屋に赴き、1本1本音をチェックして何本も試奏の末に理想のフレットレスを入手したとのことである(いつかのライブMCより)。
というわけでかなり制作エピソードが豊富に存在するこの曲、アルバム全体ではかなり聴きやすい曲と言えるだろう。聴き逃したポイントも多数あるので早く聴き直したい。
11. Blue Frame
作曲・編曲:友田ジュン
キタキタキタキタキタキタキタwwww!!!!
これはヤバい。大好き。何がそんなに良いのか?それはこの曲に「渋谷系とのフュージョン」を感じたからだ。
まずイントロから4分音符系のストリングスが入る。歌モノポップスではストリングスはもはや欠かせないといっても過言ではないくらい多用されており、同種のフレーズはよく使われるものだ。このイントロの時点で明るくポップなイメージを強く感じる。
Aメロ(Verse)。「4-3-2」という非常に素直でポップな進行で始まる。(4-3-2-3であったかは忘れてしまった。)この曲のキーはCであり、私が最も素直さを感じるキーでもある。
さて、4-3-2の進行といえば。フュージョンの代表曲といっても全く過言ではないであろう、ラリー・カールトンの名曲中の名曲「Room335」でルーティンに使われているコードである。
11曲目「Blue Frame」Aメロが4−3−2であった瞬間に私はRoom335を想起した。そして次にこう思った。
は〜〜〜最高かよ〜〜〜
あわよくばこのままRoom335みたいに
短三度転調してくれないかな〜〜〜
次の瞬間、それは現実になった。本当に短三度転調の4-3-2進行が現れたのである。私は心の雄叫びを上げた。
Room335では4-3-2進行のまま「in A → C」に転調する。Blue Frameでは4-3-2のまま「in C → Eb」に転調する(たぶん)。Blue FrameはRoom335へのリスペクトを感じて最高なのである。
もう一つ、私はこの曲に渋谷系へのリスペクトを感じる。理由はイントロのストリングスの使われ方と、何度も言っている4-3-2の進行の存在だ。Room335はフュージョンというジャンルの曲だが、非常にポップな曲であり、ポップスとしても解釈できる。特に私はこうしたオシャレカワイイコードは渋谷系のルーツなのではないだろうかとすら思っている。
これは別に突飛な意見ではなく、実際にRoom335の4-3-2進行と短三度進行と全く同じ進行は渋谷系曲にも印象的に使われる。「宇宙エレベーター / capsule」がその例だ。2:36からの間奏を聴いてほしい。
というわけでBlue Frame Aメロ時点でRoom335の面影、渋谷系の香りを感じて優勝した、というのをここまで長々と語った。
Bメロ(Verse)。テクニカルなハーモニーで緊張感を高める。
そしてサビ(Chorus)入り。素直なメロディーとハーモニー。最高に気持ちいい。この曲は身構えることなく「素直に」気持ちよく楽しめる曲であるとサビで確信した。
私が思うに、素直さを楽曲に全面に押し出せるのが友田さんだ。これまでもDEZOLVEメンバーで唯一「人間」をテーマに楽曲を作っている。3rdアルバム『PORTRAY』の「Egoist」などだ。この曲はケンカした友人との仲直りをイメージしており(ライブMCより)、ピアノとギターのテクニカルながら温かいユニゾンフレーズが誰かと誰かの語らいを、そして語らうふたりの仲の良さを想起させるのだ。友田さんは人間の素直な感情、エモーションを楽曲にするのがうまいのである。
サビ(Chorus)。正確なコード(というかメロディーライン)を忘れてしまったのが悔やまれるが、同じテーマの繰り返しにおいて、おそらく「6」のダイアトニック「VIm7」と、それをメジャーにした「VIM7」を行ったり来たりするのが最高にエモい、エモいのだ。同じテーマであっても繰り返しによって少しづつ内声を変えていく、そういうのに私はめっぽう弱い。
中盤。ソロ、ヤバい。ベースソロがテクニカルでありつつも"泣き"のベースソロだ。小栢さんのベースソロは数あれど、ここまでエモーショナルなソロを私は知らない。
キーボードソロ。素晴らしい。既に7曲目で紹介した「Distance to the Light」の最後の長い長い美しいソロを思い起こす。
この曲でギターのリードサウンドも「オッ」と気になった。今回のアルバムではとにかく突き抜けるように鋭い音になっていると感じた。
さて、最後にもう一つこの曲を聴いて思ったことを紹介したい。サビ入りに素直さを感じたと述べたが、このサビ入りで私は『ソフィーのアトリエ』の人気楽曲「雲雀東風」を想起したのだ。作曲は浅野隼人(現名義:アサノハヤト)氏。
雲雀東風(ひばりごち、と読む)は「みんなで決めるゲーム音楽ベスト100」という企画で常に上位に入る、アトリエシリーズを代表するほどの人気曲だ。作中では通常戦闘曲として起用されている。明るくとにかく疾走感に溢れるこの曲。各種生楽器が主旋律を代わる代わる担い、ダウンビートをはさみつつBメロで緊張感を高め、サビで一気に解放する。その開放の瞬間がBlue Frameと同じ音になっているのだ。
私はこの音から「心ゆくまでの開放」を感じる。Blue Frameでも雲雀東風でも、このフレーズに乗せて爽やかな風が吹いてくるように感じるのだ。
というわけでBlue Frame、自分が大好きな要素が詰まっていた。早く聴き直したい。
12. Memories
作曲:小栢伸五
編曲:小栢伸五、友田ジュン、北川翔也
本アルバム最後の曲。山本さん以外の3人による共編曲である。制作背景が大変気になる楽曲だ。さぁ最後の曲。ここまで来たら気の済むまで語ろう。
…いや、それはできないのだ。実はこの曲は記憶からポッカリ抜け落ちてしまっているからだ。
アルバムは曲順どおりに聴いたので最後のほうに聴いた曲であり、記憶も濃く残っているはずなのだが、他の曲はあれほど語れたのにも関わらず、この曲はメロディーやキーすらも覚えていない。
覚えているのは、「優しい音色の曲だった」、これだけの情報。
ジャズライフのインタビュー記事で山本さん曰く、このアルバム『Frontiers』は『メモリーズ(Memories)』というタイトルにしようと思っていたらしい。このアルバムはメンバーの経験した思い出を色濃く反映した楽曲が並んでいるからであろう。もしそうであったらこの曲が表題曲になっていたことになる。
私はこの記事を、全曲を1度通して聴いただけの状態で、事実ベースというよりも思い出・印象ベースで感じたことを書いている。バラエティ豊かな楽曲を聴き、たくさんの驚き、発見、感動があった。では、この曲の「思い出」は何だっただろうか。
日々を生きていると、忘れたくないこと、忘れたいこと、トクベツな日、なんてコトない毎日。いろんな日々がある。
アルバムを聴き終え、この記事を書いている今。私はこの曲が「なんてコトない毎日」を描いていたのだ、と思った。ああ、いろんな思い出があって楽しかったな。楽しい日々を思い返して談笑しているような、そんな穏やかな日々。
個性豊かな楽曲が並んでいるこのアルバムを締めくくるのは、穏やかな穏やかな曲「Memories」。特別じゃない日常だって大事な思い出。そんなメッセージを私は感じたのであった。
…というメッセージを感じたのは事実だが、本当によく覚えていないのも事実なので一刻も早く聴き直したい。
13: re: fruition (instrumental)
エキシビジョンマッチ。3曲目のボーカル曲のインスト版である。さてやっとあの曲の裏側がどうなっていたのか聴けるぞ!やったー!
………
えっ、これ別録じゃね?!??!???
インスト版の13曲目はバンドだけで成立するようにアレンジを変えたものであった。それはそれで最高なのだが、「俺は3曲目のボーカル抜きトラックも聴きたいぞウオオオ〜〜〜🐟🐟🐟」と唸ってしまった。よろしくお願いいたします。
改めて聴いてみるとバンドのオケもすごいが、シンセ(打ち込み)のシュワシュワシャカシャカし具合が凄まじいことになっている。それが特にフィルで1拍ごとくらいでLRに揺さぶられるので脳がトロトロにかき混ぜられる感覚である。
打ち込みシンセに注目するならば、re: fruitionで気になったのが「低音シンセが使われている」と思った点。低音というかトラップとかのEDMで使われてそうな\ドゥ↑↑ーーーン↓↓/みたいな音が結構入っているように感じた(たぶん)。激しいブレイクビーツは実はDEZOLVEに限らず山本さんの楽曲ではそこそこ使われていたりするので、新しいポイントといったらこちらに着目すべきだろうか。しかしブレイクビーツにダイナミックなフィルタをかけて力強く場面転換するのは今までにないように感じた。それに加えて「シンセの音作りもうますぎるんだよな〜」と唸ってしまった。
ここまで触れなかったが、この曲で頻繁に鳴っているピコピコサウンドは山本さん楽曲の特徴的な音色のひとつである。DEZOLVE曲では1stアルバムの「Night Of Megalopolis」の終盤、突然ピコピコサウンド"""だけ"""になる部分があり、非常にストレンジだ。是非聴いてもらいたい。演奏不可能とも思えるな超難解なこの曲は、長らくライブのアンコールで定番として演奏されてきたDEZOLVEの代表曲である。
ここまで来たらやりたい放題書く。山本さんは別名義「winddrums」としてピコピコサウンド曲を制作されているので紹介しておく。1曲目「この冒険が終わったら...」が氏の楽曲である。
ピコピコサウンドとピチカート+グロッケンという山本さんカラーのサウンド全開で、ボーカルの朔白さんのウィスパー気味な声をデジタライズしており、「Kawaii」が詰まった楽曲だ。7曲目で紹介したDEZOLVEのブログにて本人が好きな転調と言っている「4-5-6M」の転調が、この楽曲でも「2-5-6M」として「in E → C#」への短三度転調に使われている。
話が逸れ過ぎた。re: fruitionのバンドのことにあまり触れられなかった、というのも私にはシンセがかなり印象的で、そちらに注意を取られすぎたからかもしれない。今すぐしっかり聴き直したい。
おわりに
自分で書いていてびっくりするくらいたくさん語ってしまった。1度聴いただけでこれほどまでのたくさんの『思い出』ができる音楽作品を私は知らない。
まとめると、5thアルバム『Frontiers』は今までのDEZOLVEサウンドから大きく踏み出して新たなDEZOLVEの姿を見せてくれた意欲作であった。今後も彼らが作る音の世界を心より楽しみにしている。
やっとこの記事を書き上げることができた。達成感とともに、私は2度目の視聴に移りたいと思う。これからこのアルバムを何回も聴き込んでいくことになるが、きっと聴くたびに新たな発見があるに違いない。期待に胸を弾ませながら、アルバムの再生ボタンを押した。
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